第77話 エリクサー
「流石にボスは無理ね。撤退しましょう」
「なんだ、倒さずに帰るのか。だったらボスは俺が狩らせて貰うけど」
ここはAランクダンジョン、奇虫の楽園。
じめじめとした広く暗いダンジョンで、出現する魔物はムカデやサソリ型、それに蜘蛛なんかだ。
ああ、もちろん言うまでもなく出て来る奴らのサイズは人間よりずっとデカイぞ。
このダンジョンに出て来る魔物の強さはAランク屈指で、更にトラップ――範囲に入ると奇虫共が周囲に一気に涌くタイプ――もわんさかある為、基本的に人気は薄い。
だからボスドロップ狙いでここを選んだ訳だが、ボス部屋前で見事に遭遇した訳だ。
数人の仲間を引き連れた姫路アリスと。
「別にいいわよ……って、あんた何でここにいるのよ!?」
ボスは討伐不能と判断していた様なので、声を掛けたら驚かれてしまった。
どうやら俺が近づいて来たのに気づいていなかった様だ。
いくらボス部屋前とは言え油断しすぎだろ。
こいつ。
「もちろん、ボス狙いだ」
「一人で戦う気?いくら強い使い魔がいるからって、それは流石に無謀じゃないの?」
アリスが俺の足元にいるアングラウスを見る。
彼女達はアングラウスの事をAランクレベルの使い魔と判断しているが、過小評価も甚だしい。
ライオンを猫と勘違いするより酷いと言えるだろう。
まあ化け物ってばらす気はないので、修正はしないけど……
「まあ楽勝だ。今の俺なら」
このダンジョンには命七つの出力と、ぴよ丸の新スキルを合わせた実力確認を兼ねてやって来た訳だが……
道中の魔物は全く脅威ではなく。
余りにも楽勝過ぎて、本来数日かかる所を数時間程度で駆け抜けて来ていた。
なのでまあ、ボスも楽勝だと思われる。
「あんた、この短期間でそんなに強くなったっていうの?いったい今のレベルはいくつなのよ?」
「それは企業秘密だ」
答えはレベル1!
俺の強さは特殊だからな。
――それよりも、短期間で強くなったといえば寧ろ驚くのは此方の方である。
アリスとは、少し前に一緒にDランクダンジョンのボス討伐をした仲だ。
ボス戦で梃子摺っていた事からも分る通り、彼女は初めっから強かった訳ではない。
にも拘らず、この短時間でAランク最高峰ダンジョンのボス前まで少数で辿り着いているのだ――アリスがリーダーっぽいので、養殖ではないだろうと思われる。
そのレベルアップ速度は、相当な物と言っていいだろう。
「ふーん。まあいいわ。それじゃあ、その自信満々の強さを見学させて貰いましょうか」
数字が分からないなら、戦う姿を直に見て確認しようって訳か。
まあ別にみられても困る訳ではないので別に構わないが。
困るのはどうやって強くなってるのかを知られる事だからな。
「いいぞ」
俺はそう告げ、ボス部屋へと入る。
ボス部屋は広い円形の空間で、中央に巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。
「こいつがマウンテンヤスデか」
魔法陣に足を踏み入れると、ボスが召喚され姿を現す。
ボスはヤスデの魔物だ。
但しそのとぐろを巻いているサイズは、魔竜状態のアングラウスよりも大きい。
まさに山の様なデカさである。
戦闘方法は単純明快。
その圧倒的なパワーとサイズで相手を蹂躙するという物だ。
「思ったよりデカいな」
『ふおおおぉぉぉぉ!燃えて来たぞい!ギャラリーにワシらの力を見せつけるんじゃ!!』
ぴよ丸はやる気満々の様だ。
『封印解除!!』
左目が熱くなる。
そしてそこから溢れ出した激しい熱が、俺の全身を巡り燃やす。
「ちょ、おま……なに封印解いてんだ……」
この前一週間も寝込んだ事をもう忘れたのだろうか?
見事な鳥頭である。
『問題なか!今のワシには新たな力がある!燃え上がれワシの魂!神炎鳥!!』
ぴよ丸の新スキル、ゴッドフレイムバードは進化前の炎鳥の完全上位互換だ。
輝く炎の威力は以前の比ではなく、更に俺の能力まで大きく引き上げてくれる。
ぴよ丸の口ぶりから察するに、封印解除で受ける負担の緩和効果もあるのかもな……
俺の両手から輝く炎が迸ると同時に、巨大なヤスデが動き出した。
その巨体のせいか、奴が動くだけで地響きの様な音が響く。
『マスター!一発で決めるんじゃ!!ゴーゴー!!!』
奴はまるで蛇の様に鎌首をもたげ、頭上から此方を値踏みするかの様に見下ろてくる。
「やれやれ」
俺は炎を剣の形に整え、エクストリームバーストを発動させ大上段で構えた。
Aランクダンジョンの中でも最難関のボスで、見るからにフィジカルお化けのボスを一撃。
馬鹿げた要望ではある。
だが今のこの状態の俺なら――
「はぁ!」
此方が剣を構えた瞬間、ヤスデが突撃して来る。
俺は剣の炎をフルパワーで極大化し、それを奴に向かって勢いよく振り下ろした。
「ぎゅえああああああああぁぁぁ!!!」
天を突かんばかりに巨大化した刃がその巨体を切り裂き、そして瞬時に奴の体を燃やし尽くす。
――余裕だ。
「じょ、冗談でしょ……」
チラリと後ろへと視線をやると、姫路アリスとそのパーティーメンバーが呆然としている姿が見えた。
まあ驚くのも無理はない。
これだけのパワーは、SSランクでもそうそうお目にかかれないレベルだろうからな。
『マヨネーズ最強!』
うん、マヨネーズは一ミリも関係ない。
「あんた、一体何者なの……」
「俺か……まあ俺は不滅のプレイヤーって所だな」
うん、ちょっと格好つけた。
そして言ってから思いっきり気恥ずかしくなってしまった。
変な事言うんじゃなかったぜ。
「……」
俺はそんな気持ちを周りに悟られない様、平静を装いつつ視線を戻してドロップを確認する。
「あ、エリクサー」
情報には無かったが、どうやら此処でもドロップする様だ。
まあもう別に必要はないが、まあ高く売れるので、これを売ったら税金の心配もなくなるだろう。
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