第74話 我が名は
――今、一つの世界が侵略によって滅びさろうとしていた。
灼熱の溶岩地帯。
その中央に傷だらけの銀髪の男と、それに寄り添う同じく傷だらけの巨大な黄金の雌鳥が浮かんでいた。
男の手には小さな白い卵が二つ。
その卵は、男と黄金の鳥との間に生まれた子供だ。
――一人と一羽は、それぞれ別々の魔法を二つの卵へとかける。
「サプレスシールド」
男がかけたのは封印の魔法。
生まれて来る子供達が持つ、神の力を封印する為にかけられた。
生まれたばかりの子供には、神の力は強大すぎる。
其れゆえの処置だ。
「シャッタウ、シュリーピン、フォーン」
黄金の雌鳥がかけたのは保護と休眠の魔法。
それに言語適応の魔法である。
シャッタウとシュリーピンは外部からの影響を遮断し、これから長い旅にでる子供達が途中で生まれてしまわない様に。
そして言語魔法は辿り着いた先で、最低限のコミュニケーションが取れる様にするためである。
――魔法をかけられた卵の色が、その影響で黒く変色していく。
「二人が未来を掴んでくれる事を願おう」
「はい」
男が何らかの力を使うと、空間に穴が開いた。
その穴の先は世界の外側で、通常の生物ではとても耐えられない虚無空間になっている。
その穴から、男は手にしていた卵――保護の魔法をかけられた自らの子供達を放つ。
何故その様な真似をしたのか?
それは侵略され、滅びゆくこの世界から避難させるためだ。
「「……」」
世界の向こう側に放たれた卵は、それぞれ別々の方向へ飛んでいく。
進む先に別の世界があるとは限らない。
むしろどこにもたどり着かず、保護魔法が切れて消滅するまで彷徨う可能性は高い。
だから別々に飛ばしたのだ。
――せめてどちらか一つだけでも、異世界に辿り着けるようにと。
まあどちらにせよ確率は低い賭けではあるが。
「マーヨ。ネーズ。どうか……」
黄金の鳥が、遠く離れていく卵を悲し気に見つめる。
ただただ、卵達——マーヨとネーズの未来を願いながら。
――その時、彼らの背後で爆音とそれに伴う強烈な衝撃が発生する。
男が慌てて穴を閉じ振り返ると、そこには、背から純白の羽を生やした黒髪黒目の人物が立っていた。
その男の周囲は、強烈な力が生み出す影響で空間が歪んでしまっていた。
それだけで、その男が化け物じみた存在である事が容易く伺える。
「ちっ、ハズレか……」
突如現れた男は、銀髪の男を見て不機嫌そうに舌打ちした。
その顔には、あからさまな失望の色が浮かんでいる。
「この力は!?侵略者には神が二柱も存在しているのか!?」
逆に銀髪の男は、現れた翼をもった男から放たれる力に驚愕する。
そこには神性——神の力が含まれていたからだ。
「残念ながら俺は神ではない。神の領域へと足を踏み込んだだけの、ただの半神だ」
――半神と神との間には、大きな隔たりがあった。
確かに半神は神と同質の力を持ち、不死性まで持ち合わせている。
そのため、限りなく神に近い存在とは言えるだろう。
だが出来る事や、その力の上限には差があった。
それこそ、天地ほどの差が。
「半神は生物が才能と努力で辿り着ける極地。その殻を破り、神になる為には同じく半神たるものを喰らわなければならない。この世界に神の力を使う者が居ると耳にしたから期待して来たのだがな……まさか、それが神の血を引いただけの神人だったとはな」
神の血を引く者——神人は、神の力を扱う事が出来る。
だがそれは神は疎か、自ら神の領域へとたどり着いた半神よりも遥かに微細な力でしかない。
当然そんな者を喰らったところで、半神が神へと到達する事は不可能だ。
「この憤りは、お前たちの命で支払ってもらうとしよう」
「エニス!」
「はい!あなた!」
銀髪の男が叫ぶと同時に、黄金の鳥が男を嘴でつついた。
その瞬間、巨鳥の姿が男の中へと吸い込まれていく。
「ふん。炎鳥フェニックスが持つ融合の力か」
「私達はただでは死なない!問え敵わなくとも貴様らと最後まで戦う!!」
――銀髪の男から凄まじい炎が噴き出し、周囲の大気を焼き尽くす。
その熱には、レベル一万近い者ですら瞬く間に変える程の威力があった。
だが羽をもつ男は、炎の中、全く微動だにしない。
「無駄だ。その程度の力では俺は疎か、侵略王を名乗るヴェイドにすら届かん」
男がつまらなさそうに手を振ると、天から凄まじい数の雷が銀髪の男へと降り注いだ。
「があああああああああ!!」
降り注ぐ雷は炎を消し飛ばし、銀髪の男の体を容赦なく蝕む。
しばらくはその攻撃に耐えてはいたが、やがて銀髪の男は力尽き、そして眼下に広がる溶岩帯へと落下して行く。
「マーヨ。ネーズ。どうか……あの子達が……」
――それが男の残した最後の言葉。
「ふむ。何かこの世界から離れていく物があるな。これは……卵か」
半神の男が攻撃を止め、世界の外にある卵の存在に気付いた。
「一つはどうやらヴェイドが補足した様だな」
飛んで行こうとする卵に向かって、この世界の侵略を神から任されている侵略王ヴェイドが黒い何かを伸ばしている事に半神の男が気づく。
「なら、俺がもう一つの処理を――」
半神が男が手を伸ばし、世界に穴を開けてそれを処理しようとした――
「ふ、必要ないか」
――が、それを中断する。
「よくよく考えて……あれがどこへ行こうと、俺の知った事ではないからな」
異世界への侵略は神の意思だ。
そのため侵略先の者を見逃す行為は、例えそれが生まれる前の卵であっても背信行為となる。
だが半神である彼にとって、自らの世界の神は信仰の対象に無い。
それどころか、今の侵略を続けるという状況を利用し、神はいずれ超えるべき対象でしかなかった。
つまり神の意思に従う気はないという事だ。
だから手を止めたのである。
「さて、戻るか」
侵略行為にも特に加担する気はない半神は、自らの領域へと帰っていく。
彼は知らない。
今見逃した卵が、やがて鋭い刃となって自らの喉元に迫る事を。
◆◇◆◇◆◇◆
「はっ!?」
なんだか悲しい夢を見た。
内容はよく覚えていないが、とにかく悲しい夢じゃった。
ワシが飛び起きると――
「お、やっと起きたか」
――マスターが上からワシを見下ろして来る。
どうやらワシはゆりかごに寝かされていた様じゃ。
という事は……
マスターはあの化け物を何とかしたんじゃな。
流石マスター!
略してサスマタ!
略すと途端にカッコ悪くなるのう。
まあ細かい事は気にせんでいいじゃろう。
「グッモーニンマスター!とう!」
ワシは本能の赴くままに飛び上がる。
そしてスキルを――ん?なんか変わっとるな。
発動させようとして気づく。
ワシのフェイバリットとも言うべき【炎鳥】が、【神炎鳥】なる物に変わっている事に。
ゴッドフレイムバード……
略してGFB!
よし!
早速発動じゃ!!
「神炎鳥!」
ワシの全身から光る炎が噴き出す。
ワシ、超カッコいい。
そして天井ギリギリまで飛翔したワシは、スキルを切って華麗に着地する。
マスターのオツムの上に。
ジュッテンゼロ!
「おい……」
マスターが何か言いたそうだが、ワシは気にしない。
さあ、復活の大号令としゃれこむとしよう。
カッコよくポーズを決め。
「我が名はぴよ丸!マヨネーズを極めし者!!」
ワシはどや顔でそう宣言する。
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