第47話 結界
妹が再び眠りについてから、もう一月近く経つ。
例の視線は戻って来てないらしいので、覚醒不全の時とは違い完全に意識は失われている状態の様だ。
「マスター!マヨのお時間じゃい!」
ぴよ丸が餌をねだって来る。
「分かった分かった」
この一月で、その体はバスケットボールサイズにまで育っていた。
体形も、バスケットボールにちょろっと羽が生えた様な感じだ。
某有名ロボットアニメの、二文字の名前のロボットを思い浮かべてくれば分かりやすいだろう。
あんな感じである。
「んまんまんまんまんまんまんま」
「こいつ……ホントにこれで大丈夫なんだよな?」
ぴよ丸の頭を鷲掴みにし、口にマヨネーズの先端を突っ込みながら、ベッドでタブレットを器用に弄るアングラウスに俺は尋ねた。
「安心しろ。ぴよ丸は至って正常だ」
「ほんとかよ」
進化したのは前の一回だけで、それからはずっと風船に水を入れるかの様にぴよ丸の体は膨らみ続けている状態だ。
これが人間なら、絶対成人病待ったなしである。
「そう言う生き物だと思っていればいい」
「マスターお代わり!」
「へいへい」
「んまんまんまんまんまんまんま」
請われて二本目を投入。
ぴよ丸は最近では、1日10本ほどのペースでマヨネーズを平らげている。
……地味に食費かかるんだよな。
勿論、それ以上に稼いでいるので特に問題はないのだが。
現在は比較的近場のBランクダンジョンを週一ペースで巡っている。
ボス討伐をアングラウスに任せる事で、確定でレアが出るのが大きい。
Bランクでも全部億越えである。
え?
Aランクダンジョンにはいかないのか?
プレイヤーランクはBに上がってるので、まあ行こうと思えば行ける。
けど今はBランクメインでやっていくつもりだ。
――理由は時間がかかるから。
Aランク以降はダンジョンが相当広い上に、モンスターがかなり強くなる。
今の俺の状態だと、比較的難易度の低いダンジョンの雑魚モンスターですら梃子摺るのは目に見えていた。
そうなる以上、当然攻略には相当な時間がかかってしまう。
……あんま長期間家を空けると、母を心配させてしまうからな。
だから俺は、比較的お手軽に攻略できるBランク巡りをしている訳である。
ま、それが出来てるのは完全にアングラウスのお陰だけどな……
目標額を考えると、ボスからのレアドロップ無しでBランクだけで稼ぐのは相当きつい。
まさに魔竜様様だ。
家族の警護の事といい、こいつには冗談抜きで頭が上がらんから困る。
「ほう……面白い」
急にアングラウスが目を細め、立ち上がる。
「どうした?」
「我の結界に干渉した者がいる」
「結界?何の話だ?」
「ん?ああ、そう言えば悠には言ってなかったな。寄って来る有象無象の相手は面倒だったのでな、利用しようとする人間だけを近寄らせない特殊な結界を悠や家族に張っておいたのだ」
「え?マジか……」
何でもできる奴だとは思っていたが、まさかそんな都合のいい結界まで扱えるとか。
本当にとんでもない奴である。
いや、そんな事より……
「干渉って事は……ひょっとしてお前の結界が破られたって事か?」
もしそうなら、相手はとんでもない力の持ち主と言う事になる。
何せレベル一万の魔竜の張った結界を破った訳だからな。
「破られてはおらんよ。だが、相手は相当な魔力の持ち主……大物だ。このまま追い返すのも忍びない。一つ顔でも拝んでやろうではないか」
結界を破られてないとは言え、アングラウスが大物と言って興味を引くぐらいだ。
相当な奴なんだろう。
「行くぞ、悠」
「わかった」
アングラウスに促され、立ち上がろうとすると――
「待てい!」
――ぴよ丸に止められる。
「緊急案件じゃい!」
「緊急?」
ひょっとしてぴよ丸も、アングラウスが興味を持った相手の何かを感じ取ったのだろうか?
「マヨネーズお代わり!」
全然違った様だ。
何が緊急だよ。
この豚まんめ。




