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第34話 天秤

「こりゃまた奇遇ねぇ」


「どうも…… 」


Cランクダンジョン『草むら』のボスはでかい飛蝗だった。

その名もキリングバッタ。

堅い外骨格を持ち、素早いジャンプと短時間の飛行で暴れまわる魔物だ。


攻撃方法は飛び掛かりからの噛みつきにキックと至ってシンプルだが、一定時間ごとにお供の子バッタを無制限に召喚する為、一気に倒しきる火力か、取り巻きを始末できる手数が必要になる相手だ。


そいつを相手取っているのは、赤毛の小柄な少女――ちび姫こと姫路(ひめじ)アリスである。

保護者として、以前と同じく岡町と幸保が離れた場所で彼女を見守っていた。


因みに、彼女は姫ギルドのマスター姫路アイギスの妹である。


「この前見た時からそんなに立ってないのに、ずいぶん動きが鋭くなってますね。彼女」


姫路アリスの動きは見違えるほどよくなっていた。

それ程日数もたっていないので、そこまでレベルは上がっていないはずなのだが。


「ああ、それはちび姫のユニークスキルの効果よ」


「ユニークスキル【燃える闘士(バーニングハート)】。自分より強い相手と闘うとその分ステータスに補正がかかるスキルだ」


「それと、経験値もね」


「それはまた、優秀なスキルですね」


ここに来るまでに、俺は考えていた。

何故連続して姫ギルドの育成とかち合ったのかと。


そして出した結論は俺と同じ、つまり――


「ひょっとして、彼女も証狙いなんですか?」


――目的かぶりだ。


目的が同じなら、行動が被るのは不思議でも何でもない。

そして彼女の持つユニークスキル【燃える闘士(バーニングハート)】の効果を考えれば、まず間違いないだろう。


何せ、戦う相手は強ければ強いほどスキルを活かせる訳だからな。

その方が経験値も一気に稼げる訳だし。


「まあな。そう言うお前さんもひょっとしてそうなのか?」


「ええ、そんな所です」


「にしても……その猫ちゃんって飛べるのねぇ」


「まあ使い魔ですから」


アングラウスは猫ではなく、使い魔である猫に似た特殊な生物という事にしてある。

ので、羽を生やし飛んでいても全くおかしい事はない。


「所で……」


チラリとアリスの方を見る。

キリングバッタとの戦況はほぼ五分といった感じだ。


召喚された取り巻きは完全に処理出来ているが、硬い外皮に阻まれてボスには余りダメージが通っていない。

提灯陸アンコウの時もそうだったので、スピード重視の非力なタイプなのだろうと思われる。


俺が慌てず、こうしてのん気に岡町達と世間話に興じれているのもそのためだ。


「出来たら今回も、ボス戦に参加させた貰えたら有難いんですけど。ドロップはいらないんで」


この手の戦いでは、一進一退の長期戦になると基本的に人間の方が不利になる傾向が強い。

魔物の大半がスタミナに優れているからだ。

なのでこのまま戦いが続けば、いずれ姫路アリスが押され出す事になるだろう。


そうなれば保護者の岡町達の出番な訳だが、その役を代わりにやらせてくれと俺は二人に頼んだ。


「うちのギルドに入ってくれるのならオッケーよ」


岡町が勧誘を口にする。

けどその口調と表情から、冗談だという事が直ぐに分った。

しつこく勧誘する気はない様だ。


「岡町。冗談でもそんなせこい事を言うな。振られた相手に迫るなんざ恥だぜ」


「幸保はほんと、お堅いわねぇ。それじゃモテないわよ?」


「ふん、大きなお世話だ」


「で、ボス戦参加なんだけど……お願いを二つ聞いてくれたオッケーよ」


「二つ?何です?」


「一つは、その使い魔は戦いに参加させない事。また一撃で魔物を倒されちゃうと、絶対ちび姫が嫌がるでしょうから」


「ああ、成程」


姫路アリスはボスと単独で戦っている。

岡町達がいるにもかかわらず、だ。


それはきっと強者に寄生する事を良しとしない姿勢(プライド)の表れだろう。

だからアングラウスが参加してワンパンしてしまったら、絶対良い気はしないはず。


「分かりました。それでもう一つは?」


「今回貸しって事で。いつか強くなったら、その時は一度私達に力を貸して欲しいのよ。まあ具体的には……SSランクダンジョンの攻略とか、ね。今のうちの面子じゃ、悔しいけど攻略は現実的じゃないのよねぇ」


日本でSSランクダンジョンを攻略できているのは、三大ギルドだけだ。

姫ギルドも大手だが、その三つと比較するとどうしても所属しているプレイヤーのトップ層の厚みが違う。


「もちろんその際は、正式な報酬も払うわ。貸しだからタダで手伝えなんて無茶話言わないわよ。ああでも、これは悠君が他のギルドに所属しないこと前提の話になるだけど……カイザーギルドに100億なんて啖呵を切ってるんだから、何処にも所属する気はないのよね?」


何処かのギルドに所属する意思があるのか、岡町が聞いて来る。


単に助っ人を借りての攻略なら、三大ギルドに声を掛ければいいだけだ。

だがそれをすると、他のギルドとの共同攻略と言う形になってしまう。

だから岡町は無所属の俺を助っ人して呼びたいのだ。


それならば、姫ギルドによる攻略と大々的に銘打てるから。


「俺はどこにも所属する気はありませんよ」


状況的に、どこかのギルドに所属するという選択肢は俺にはない。

なのでその心配は無用だ。


「だから、その時は喜んでお手伝いします」


岡町の出した条件を、俺は快く受け入れた。

SSランクダンジョンに挑むレベルのプレイヤーの力量や、SSランクダンジョンがどういった場所かも少し気になるので、報酬を貰えるのなら断る理由はない。


……俺が入れるのはAランクダンジョンまでだからな。


Sランクダンジョン以降は、Sランクのプレイヤーや、そういったプレイヤーが所属するギルドでないと入れない様になっている。

そのため、レベル1固定でソロの俺は助っ人でダンジョン攻略に参加でもしない限り中にはいる事が出来ないのだ。


まあある程度力が戻ったなら、監視の目を盗んで中に入る事が出来ない訳でもないが……


そういう犯罪まがいの行動に手を染めるつもりはない。

まあエリクサーはSランクダンジョン以上じゃないと中々手に入らないみたいなので、もし金で手に入らない様ならその時は問答無用で取りに行くが。


妹とルール。

どっちが大事なのかなど、考えるまでもないからな。

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異世界転生帰りの勇者、自分がいじめられていた事を思い出す~何で次から次へとこんなにトラブルが起こるんだ?取り敢えず二度と手出ししてこない様に制圧していくけども~
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