第110話 RTA
――『タワーディフェンス』西門。
「これが私達の力よ!」
西門の担当は姫ギルドだ。
姫ギルドは第1フェーズを20分ほどで殲滅し終えた。
大和ギルドに比べて時間がかかっている?
それもその筈である。
姫ギルドは部隊が二つに分けられており、その内第二部隊だけで殲滅したため時間がかかったのだ。
二つに分けられた部隊。
その部隊分けの基準は姫路アリスのレベル未満か、それ以上かで分けられていた。
そんな風に分けられたのは、姫路アリスに【導く者】というユニークスキルがあるためだ。
その効果は自分よりレベルの低い仲間と自身の能力を大幅に強化し、そのレベルアップを加速し促すという物。
その強力な効果を期待され、第二部隊は彼女以下のレベルで構成された訳である。
因みに、第1フェーズの殲滅をこの第二部隊だけで行ったのは、レベル上げのためだった。
レベルは高いほど上げづらくなるのが常識だ。
そのため、アリスのスキルも含めて、レベルの上がりやすい低レベル帯——それでもSランクだが――である第二部隊に経験値を集約させる事で、少しでもレベルの底上げを図った訳である。
「お疲れさまです。ドリンクをどうぞ」
「ん……ありがとう」
第一部隊に所属するSSランク覚醒者の田子作が、アリスにドリンク入りのコップを差し出す。
そのカップには『アリスたんLOVE』という文字と、アニメ調にデフォルメされた姫路アリスがデカデカとプリントされている。
そのため姫路アリスは物凄く嫌そうな顔をするが、彼女は特に文句を言う事もなくそれ受け取りドリンクを飲み干した。
田子の言動を普通に気持ち悪いと思っているアリスだったが、だからと言って、純粋な善意や好意から来る行動を跳ねのけたりはしない。
少々口は悪いが、彼女のその性根は優しい物だからだ。
「流石に次のウェーブからは厳しいだろうから、第2ウェーブからは私達も参加するぞ。いいな」
ギルドリーダーである姫路アイギスが、妹の頭に手を乗せそう告げる。
アリスは姉の言葉に少々不服そうな顔になるが――
少々無理をすれば、第二チームだけで次のフェーズも凌ぐ事は可能な範囲ではあったが、『タワーディフェンス』は4つのフェーズが休みなく続くダンジョンだ。
無理をして消耗してしまったのでは、クリアに支障が出かねない。
「わかった」
――アリスもそれが分かっているので、不服ではあったがしぶしぶ頷いた。
「ふふふ。第2フェーズ以降は、この田子作の活躍をアリスさんに捧げましょう!」
田子作が力強く所信表明する。
その様子に、アリスは『はいはい』と言った感じに白い眼を向けるのだった。
◆◇
――『タワーディフェンス』南門。
「楽勝っすね」
ノーブルウィングは、第1フェーズを1分で終えていた。
東西に比べて南北の方が難易度は高かったが、世界ランクに名を連ねる覚醒者に加え、多数のSSランクを抱えるノーブルウィングは姫ギルドや大和ギルドとは地力が違う。
彼女達にとって、最初のフェーズなどほんの肩慣らしに過ぎないのだ。
因みに、以前イギリスの大手ギルドで組んだ挑戦の際の失敗は、他のギルドが失敗してしまったからだ。
ノーブルウィングの力不足が原因ではない。
「北はずいぶんかっ飛ばしたみたいね」
「そうなんすか?」
「ええ。とんでもない魔力を感じたわ」
エリスは魔力感知から、北門での状況をある程度把握できていた。
本来は空間的に区切られた区画であるため魔力は感じないのだが、北側で発せられた魔力はそれだけ強力だったという事だ。
◇◆
――『タワーディフェンス』北門。
「ファイナル……マヨフラッシュ!!」
開幕放たれるぴよ丸の必殺技。
そして消滅する魔物達。
その殲滅時間、およそ1秒の早業である。
「震えよ!これぞマヨRTA!PTAでもQTEでもない!まごう事なきRTA!わしが頂点にして頂点じゃ!」
ぴよ丸が吠える。
そして吠えながらその場に倒れた。
「マヨプリーズ……」
ガス欠である。
後先を考えないRTA。
それがぴよ丸の生きざまだった。
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