第99話 お話②
【暴虐の王】
それはアングラウスさんが持つレジェンドスキル。
同族と忠誠を誓う配下の命を全て奪い。
それと引き換えに絶対の力を得るという、無慈悲極まりないスキルだ。
以前アングラウスさんの世界に侵略者が進行してきて、そして負けがほぼ確定している状態まで追い詰められたそうなの。
そしてどうせ負ければすべて失うのならば一矢報いるためにと、アングラウスさんはそのスキルを使おうとして――
そして弟さんに裏切られて虚空へと追放されたそうだ。
なんとも言えない、後味の悪い話だよね。
きっとその弟さんも仕方なかったんじゃないかなぁと、私は思ってる。
アングラウスさんは必ず八つ裂きにすると言ってたけど。
で、この世界に来たアングラウスさんは一万年の間、捧げる者が無くて発動が失敗し続けるスキルを使い続けたらしいの。
進化させて。
今度こそ侵略者達を滅ぼすために。
そして今、そのスキルの進化を終えるためにどこかで瞑想中って訳。
けど、進化したらどんなスキルになるんだろう?
まさかないとは思うけど、種族とか関係なしに人間の命を奪って発動したりはしないよね?
それだと私達にとって、下手したら最大の敵はアングラウスさんって事になっちゃうんだけど………。
まあ兄は命を配れるらしいから、それで相殺できたりするのかも。
少なくとも、アタシの知るアングラウスさんは人間の命を無慈悲に奪う様な竜じゃなかったしね。
「アングラウスさんは来る日に向けて、どこかでスキルを進化させてるみたいです。兄——兄も同じで」
アングラウスさんとそして兄の事も彼女達に話した。
特に言うなとは言われていなかったし。
隠す様な事でもないしね。
「レベルの壁の突破なんて芸当をしてたから、ただの猫じゃないとは思ってたけど……まさか竜だったとはねぇ。いや、竜だからこそそんな真似が出来たと考えるべきなのか」
普通に考えたら、他人の限界を取り払うなんて出来ないもんね。
まあでも、私のスキルでも同じ様な事が出来るっぽいけど。
「一万年死にまくってか……アタシだったら、絶対正気ではいられなかったでしょうね。もし本当にその話が本当なら、あんたの兄さんはとんでもないメンタルお化けよ」
「確かに。普通じゃ無理ですよね。でも……兄は凄い人だから」
本当に凄い人なんだ。
私やお母さんのために、ずっと頑張ってくれた兄は。
「あの方が凄いというのは同意ですな。この田吾、人を見る目はありますので」
田吾さんがドンと胸元を叩く。
確かにこの人は見る目があるわ。
へへ、兄が褒められるとなんだか嬉しくなっちゃう。
あ、言っておくけど私はブラコンじゃないからね。
「姉御やマスターだけじゃなくてワシも褒めるんじゃ!」
ぴよちゃんが私の頭の上から急に飛び出して来る。
兄やアングラウスさんばかり感心されて自分の話が出て来なかったから、すねちゃったのかもしれないわね。
まあ単に自己主張したいだけって気がしなくもないけど。
「あんた、顔悠以外の中にも入れるわけ?」
「ワシに不可能はない!称えよ!」
「称えよって言われてもねぇ」
「ふん!小娘にはワシの偉大さが分からんようじゃな!」
「なんですって!この球体!」
「あー、すいません。ぴよちゃんハウス!じゃないとマヨネーズカットよ!」
「イエス!コレステロール!マヨカット、ノー!さらばじゃ!アイルビーバック!」
ぴよちゃんが融合して私の中に入って来る。
本当によく聞くわ。
この魔法の呪文。
「ふむ……騒がしい子だね。まあ話を戻そうか」
ぴよちゃんが騒いで迷惑をかけたけど、呆れる事無くアイギスさんは至ってクールだ。
正に大人の女って感じ。
カッコよくて憧れちゃう。
……体格以外は、だけど。
「で?今の話から察するに、アンタは私達にそれに備えろと言いたい訳かい?」
「あ、はい。姫ギルドの皆さんには、来る危機に備えて強くなって貰いたいんです」
「強くなれ?そんなの人から言われる間でもないわよ」
「一応、うちはトップを狙ってますからな。常に研鑽の連続です」
「そういう事。話の真偽はともかく、強くなるって点なら頼まれるまでもない」
迷わずそういう三人。
そしてそういう人達だから、アングラウスさんは候補に挙げたんだと思う。
「もちろんそれは分かってます。今日ここへやって来たのは、私のアルティメットスキル【聖なる戦乙女の守護】を付与する為です」
「アルティメットスキルを付与?」
「ほほう。貴方がアルティメットスキルを所持している事は存じ上げてましたが、それは付与できるタイプの物だったんですな」
「はい」
私のスキルは他人にセットし、一定範囲の味方に強化を施す効果がある。
それに希少な回復魔法もつかえるんだ。
冒険者はスキルで魔法が使える様になるけど、回復系は特殊な系統で、それ専用のスキルが必要になって来る。
そのため、回復魔法を使えるプレイヤーの絶対数は少ないの。
更に言うなら、バフの中には経験値アップの効果も含まれていて。
その効果は実に――
「取得経験値十倍ですって!?」
「ほほう。あの十文字さんと同等の倍率ですか。だとしたらとんでもないですな」
そう、なんとその倍率は10倍にも値するの。
ダントツの効果よ。
ただまあ、純粋に十倍になる訳じゃないのよね。
「十倍って言っても、他のスキルとは加算ですから」
例えば、経験値十倍の効果を持ってる十文字さんにガーディアンの効果がかかった場合だけど、十倍かける十倍で百倍にはならないの。
加算で処理されるから、十倍たす十倍で合計が二十倍になるだけ。
で、ある程度レベルの高い人はその殆どが経験値アップ系のスキルを持ってるっていうし、だから私のバフを受けるイコール経験値十倍になる訳じゃないの。
「それに、強化を受けてる人の経験値の一割は私が貰う事になるんで……」
なので、純粋に経験値十倍を期待されるとがっかりされてしまうかもしれない。
「なるほど。付与する側にもちゃんとメリットがあるって訳だね」
「はい。そうなります」
「それは助かる」
「はい?」
助かる?
アイギスさんの言葉にあたしは首を捻る。
一体何が助かると言うのだろうか?
「それでなくても壁の突破や、SSランクダンジョンの件で顔悠には大きな借りがあるもの。これ以上一方的に恩恵を受けるのは好ましくないって事よ。まあもちろん……それでも収支で言うならこっちが大黒字だから、結局借りは増える事には変わりないけど」
アイリスさんの言葉から、その矜持が感じ取れた。
要は誇り高い人達で、一方的に施しを受ける事を良しとしないって事だ。
うん、そういうの嫌いじゃないかな。
やっぱり人間、誰かに与えられるだけじゃなくて自分の足で立たないとね。
そう……私も支えられるだけじゃなくって、誰かの支えになれる様な人間にならないと。
「顔憂。有難くスキルは受け取らせて貰う。そして受けた借りは必ず返す事を約束しよう。この姫路アイギスの名にかけて」
アイギスさんが左手を差し出して来る。
私も左手を伸ばし、その手をしっかりと握りかえした。
『貸しは全てマヨネーズで支払って貰うべきじゃ!』
はいはい、まよーずまよねーず。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
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