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きっかけ(怒)

「・・・・それはそのまま進めてくれて構わない。・・・・・・ああ、今日は本邸に戻るから、書類はその時に。」

 不良や裏の世界の者しか寄りつかないような暗い路地裏。その路地裏には不似合いなきっちりとした服装の男は、用事が終わったのか携帯の電源を切ってそのまま内ポケットにしまい、路地と大通りの境目にいる俺から2、3メートル離れた所で立ち止まった。

「さて、先ほどから殺気を向けてくる君は私に何の用かな?」

「小野 篁さんですね?」

 背を預けていた壁から離れ、道を塞ぐように立った俺が問いかけると、無表情なままの男から肯定が返ってくる。

「初めまして、Dark&Lightと言うチームのトップでレオと名乗っている者です。」

「ああ、君が『ブルーバタフライ』か。」

 男の口から出た単語を聞き、俺は少し驚いた。表社会ではここ数年で日本を代表する企業になった会社の社長、裏社会では西日本の頂点に立つ男が、大阪だけでも数十とある族の1つでしかないチームのトップの事を知っているとは。だが、そんな事は今の俺には関係ない。俺の大事な仲間を、こいつは傷付けた。

「理由なんてどうでも良い。大事な仲間の仇、とらせてもらいます。」

「?・・・・身に覚えがないんだが?」

「そんなはずない!」

 淡々と返された言葉に俺の我慢にも限界がきて、思わず地が出てしまう。

「つい昨日の事や。偽メールで俺らの溜まり場に呼び出した仲間を、俺の親友である副総長や幹部を含め、俺以外の仲間全員を襲うよう指示したのはあんたやと聞いた。総長の俺がいない時狙って、素手の奴を武器つこうた上に倍の数で闇打ちやなんて、ずいぶん卑怯な事してくれるやないか。おかげで全員最低半年は入院、半分以上がまだ意識が戻っとらんっ!」

 俺が男を狙う理由を並べる内に、俺の顔が怒りで歪んでいくのが分かる。しかし、男の表情は全く動かない。その事が、俺の中で何か引っかかる。

「あんた・・・・・。」

「お話し中悪いけど、篁さんとそっちの総長さんに耳寄りな情報を持ってきたわよ。」

 俺が続く言葉を失った所で、タイミング良く男の後から女が出てきた。

「マリア、何でここにいる。」

「さっきも言ったでしょ?耳寄りな情報を持ってきたの。篁さんが狙われる理由となった、チームDark&Lightが昨夜闇打ちされた件の裏と黒幕の情報。そして、探していた怒れる鬼、怒鬼候補の情報。」

 どう言う事だ?最後の怒れる鬼がどうこういうのは意味がわからんが、こいつの話しぶりやと、俺はガセネタつかまされたっちゅう事になる。けど、俺に情報を持ってきたのはあの関西一の情報屋や。そんなはずないと思った。それでも、情報収集してる時に違和感有ったのと、時間経って頭が冷めてきた事で、何とか相手の話を聞ける程の冷静さが戻ってきよった。それを怒りの形相から無表情に戻った俺の顔を見て悟ったのか、男が女に向かって続きを話すように指示する。

「話す前に最終確認させてもらうね。」

 女はそう言って男の前に出て、俺に向かって楽しそうにニッコリと笑った。

「初めまして、『ブルーバタフライ』ことDark&Lightのレオさん、いえ、私立海緒乃学園の理事長子息であり、同校生徒会長3年S組の海緒乃(みおの) 獅史樹(ししき)君。」

「・・・・あんた、何モンや?」

 俺の本名どころか、俺の本当の顔さえチームの幹部以外は知るはずがない。俺は族として動く場合は本名を名乗った事はないし、表で敵チームと会った時に面倒事を起こさないようにカラコンをはめたり髪を染めたりして変装をしてる。だから、知り合いの情報屋以外の裏の奴に俺の正体がばれた事がない。

「まあ、それは後で教えてあげる。だから、今からする質問に嘘偽りなく答えてね?」

 そう言って女はさらにニッコリとする。だが、ある事情から怒りの感情に敏感な俺は、その笑顔は作り物でその下で怒っている事に気付いた。

「じゃ、第一問、どうして昨夜の襲撃犯が小野組の人間だと知った?」

「俺が溜まり場に着いた時に奴らがまだ居て、そいつから奪ったバッチを知り合いの刑事に見せたら、小野組の構成員が身に着けるバッチだと教えられた。」

「第二問、そこからどうやって今回の事を指示したのが、この将樹会のトップ、小野組の組長である小野 篁だと知った?」

「事情聴取で警察に行った帰りに、いつも情報を提供してもらってる情報屋からメールで知らされた。」

「第三問、そのメールを送ってきた情報屋の名前は?」

「・・・・・スピカ。関西一の情報の精度を誇る情報屋、スピカ。」

「最終問、そのメールを見た時、何か違和感はなかった?」

「・・・・・全部で4つ。1つ目、スピカは些細だろうが重大だろうが関係なく、どんな情報でもこちらから連絡しない限り情報はくれないのに、今回連絡もしていないのにいきなり情報を送ってきた。2つ目、スピカは情報を送ってくる時はいつも違うアドレスから送ってくるのに、今回は前に使った事のあるアドレスから送ってきた。3つ目、いつも情報の報酬はこっちが持っている情報なのに、今回は金だった。4つ目、いつもは英文なのに、今回は日本語だった。」

 余計な言葉を挟む隙間も与えずに女は俺に問いかけ、俺もスピカに関して以外は淀みなく言葉を返した。普通裏の世界では情報源の事を口にするのはルール違反だから、スピカの事は躊躇ったが、何故か今回は言わないと後悔する気がしたから、無意識に口からスピカの事が出ていた。そうしたら女は、今度は怒りを感じさせずに笑い、小さな声で「合格だよ、獅史樹君。」と呟いた。

「最終確認もすんだし、今回の裏をお話ししましょうか。」

 そう言って笑顔を消した女から語られた裏話の結論は、俺は都合よく騙されて利用されたと言う事。よくある三流話だ。俺がバッチの事を聞いた刑事も、タレこみメールを送ってきたスピカの名を騙った奴も、俺の大事な仲間を襲った卑怯モン達も、皆グル。正体は全員小野組と敵対してる組織の構成員とその協力者。極めつけは、俺が襲撃犯から奪ったバッチも精巧に作られたフェイクだった。

「はっ、族としてはここらで最強を名乗るDark&Lightのトップである俺とした事が情けねえ。卑怯で姑息なクソ野郎に踊らされてたとは・・・・。」

「・・・・聞いていた事から考えると、スピカについての違和感を指摘した通り4つとも感じられたのなら、君は通常なら今回のような間違いを起こすような奴じゃないだろう。だが、今回は大事な奴が危ない目に遭ったんだ、冷静になれず読み間違ったのは仕方のない事だと思う。」

 ずっと黙っていた男、小野さんが静かに言った。愕然としていた俺は、その言葉で彼に何をしたのか思い出してすぐに頭を下げた。

「小野さん、今回は本当にすみませんでした。俺が踊らされたせいで、とんだ御迷惑をおかけしました。」

「いや、構わない。こちらとしては好都合な事に、あの組を潰す大義名分が増えた。」

 一瞬、無表情なままだったが、小野さんの纏う空気が変わった気がした。

「さて、そちらの話がすんだところで、私から君に話がある。・・・・・マリア、さっき言っていた候補者は彼だな?」

 小野さんは隣に立っている女に問いかけると、じっと俺の顔を見てくる。女の方も俺の顔を笑顔でじっと見ながら言葉を返す。

「さすが篁さん、気付いてましたか。」

「表情を見ていたらな。彼は本来の君と同じように1つの表情以外は、俺と同じ無表情しか出さない。」

 そこで俺も気付いた。小野さんは出会ってから1度も怒りの感情を抱いても表情が全く変わらず、女の方は楽しいと言った感じの笑顔以外全く表情が変わらない。俺の怒りしか顔に出ないのと同じように。

「本心である事を知ってもらうために、ここからは地で話させてもらう。突然で悪いが、俺はある4人を探している。そして、今回その4人の内の1人であり、情報屋でもある彼女、マリアの情報から考えて、君がその内の1人であると思われる。」

 無表情なままだが、言葉とともに雰囲気を崩した小野さんが説明してくれた。

 小野さんが占いを家業としている親友から言われた、ある4人を探していると言う事。そして、さっきからマリアと呼ばれている女がその1人目で、2人目の候補者が俺であると言う事。

「別に強制するつもりはない。それに、ヤクザになれとも言わない。言うなれば、友人やもしもの時の協力者、同等な立場の仲間と言った感じで俺は4人を集めている。・・・・海緒乃 獅史樹、俺と手を組まないか?」

 そう言った小野さんは無表情なままだったが、その下でニッと男らしく笑った気がした。だがそれを見なくても、話を聞いてる途中から俺の心は決まっていた。

「条件があります。うちのチームのモットーは『やられたら倍返し』。仲間を襲った組を潰しに行く時、俺『達』も混ぜて下さい。」

 そう答えて、俺もニッと笑ったつもりだが、小野さんと同じく表情は変わらなかった。それでも、小野さんもマリアも俺がどんな表情をしたかったのか分かってくれたみたいで嬉しかった。



「そんで高校卒業と同時に俺はチームやめて、今は篁さんの運転手兼SPなんてやってる。せやけど、篁さんは俺以上に強いから、あんまSPとしての仕事ないけどな。」

 俺は街で大事な人と待ち合わせしている時にたまたま再会したチーム時代ライバルだった別チームの元トップに、2年くらい前の俺がトップを辞めたきっかけを話していた。

「小野組の組長って、確かあの有名な小野コーポレーションの社長だろ?うっへえ、レオってば大出世やんか。」

「そんなんよりも、もっと驚く情報があるで。」

「何?」

「篁さんが俺以上に強い理由の1つやけどな、篁さん=ショウやった。」

「は?」

 俺の言った言葉に、相手は意味不明と言う顔をするが、次第に理解出来てきたのか表情が驚きに変わる。

「ショウって、あのショウか?!未だに謎の人なイツキ以外、誰とも組まずどこにも属さんかった、現役時代無敗の最強伝説持ってるあの3代目『死蝶』のショウ?!」

「そう、そのショウ。」

 俺が篁さんの所に行って知った新事実。チームに所属する者を始めとして、関西の不良なら知らない者はいないカリスマ的人物が何人かいる。その内の1人に、とにかく変人だと言われる人がいるが、その人は同時期に現役だったもう1人のカリスマ的人物以外には喧嘩で負けた事がないと言われている。その変人だと言われる人が名乗っていた名前が『イツキ』。そしてそのイツキが唯一勝てなかったと言われているのが、『ショウ』と名乗り、喧嘩でも戦術でも関西では最強であり、尚且つ誰からも認められた者だけに付けられる『死蝶』と言う二つ名を付けられた人物。

 ショウはイツキ以外とは誰とも組まず一匹狼的な人だが、たまに気の合う奴とは遊ぶ事があり、いろんなチームに顔を出して、喧嘩の助っ人もしていたとか。だが、そういうのは気に入らない、と言う奴は何処にでも居る。その結果、喧嘩を吹っかけた奴がたくさんいたが、100人に囲まれてもショウ1人で片付けた事があり、喧嘩なら誰にも負けた事がないらしい。そんな事から、ショウは最強の不良と言われ、面倒見が良かった為多くの不良から慕われ、カリスマ的存在として憧れを持たれるようになった。だから5年程不在だった『死蝶』と言う名を持つ3人目の者として、当時の不良達から認められた。そして現役を引退してからは、不良間で伝説の人物としてイツキと一緒に語り継がれている。

 そして俺やこの男も、例に漏れずショウに憧れた者の1人。俺達はショウとイツキが夜の世界にあまり来ないようになってからチームに入ったため、実際に2人に会った事はない。だから、篁さんの所に行ってたまたま出た話で初めて篁さん=ショウだと知った。ちなみに、謎の人物『イツキ』が音信不通な篁さんの唯一の親友だという事も。

「あの有名な小野コーポレーションの社長、小野組の組長が伝説のショウ・・・・。」

「な、驚きの情報やろ?」

「・・・・確か、お前の所の先輩、Darkの初代総長で初代死蝶のシンや、Lightの3代目総長で今のDark&Lightを作った2代目死蝶のセイも小野組にいるんじゃなかったっけ?カリスマと言われていたシンとセイ、伝説のショウ、そしてお前、初代から今まで『死蝶』の名を付けられた奴全員がそろってるなんて、小野組っていったい・・・・・。」

 そう、俺もチームに入ってすぐに仲間が付けてくれた『ブルーバタフライ』とは別に、4代目『死蝶』と呼ばれていた。自分も憧れたカリスマ的存在であるシン、セイ、ショウと同等に並べられるのは恐れ多かったが、付けられた当時はとても嬉しく思ったのを覚えている。でも、それは過去の話だ。篁さんと出会う事になったあの時の事を思うと、とても『死蝶』と名乗れるような奴じゃないと思ってしまう。

「でもな、更に驚きの情報や。」

 俺がそんな思いを隠してもったいぶるように言葉を続けると、相手は訝しげな顔を向けてくる。

「何だよ?」

「俺に彼女が出来たっ!!」

 無表情なままだが嬉しそうな声で言いきると、男は一瞬間を空けてから呆れた顔をして「ああ、そう。ヨカッタネ。」と棒読みで言った。

「何やねん、驚きの情報やろ?」

「何処が。ただの惚気じゃねえか。1人モンに対するあてつけかっちゅうねん。」

 男は不貞腐れたように言うが、その裏で何を思っているのかは分かっている。だから、わざわざ俺は当初の予定を変えてあの辺りをうろついていたのだから。そして、見事に男は罠にかかり、俺が無表情の下で考えている事に気付いてない。

「驚きの、いや、お前にとっては好都合な情報やろ?」

「?」

「まだ気付かんかなあ、ここが何処か。」

「・・・・っ!!」

 俺の言葉に男が周りを見回して、今現在自分達が何処にいるのか気付いたようだ。馬鹿な男だ。待ち合わせをしている奴が、長々と動き回るわけがないと言うのに。俺達が今いるのは、小野組の事務所兼本部詰め組員の住居でもある20階建てマンション前の広場。このマンションは丸々篁さん個人の持ち物で、1階から5階までは第一事務所として、それから上はこの事務所に属している組員の住居として使っている。言ってしまえば小野組の本拠地。俺は篁さんと他の3人の仲間や一部の幹部と共に、ここの隣に建てられた屋敷に住んでるけどな。

「俺もヤクザと同じようなもんやから、ここらで№2を名乗ってたチームのトップがヤクザの下っ端なんて堕ちたもんやとは言わんけどな、敵対しとる組のシマで違法な商売やって、のこのことその組のトップに近いトコいる人間に付いて来るやなんて、勘が鈍りきっとんのとちゃうか?ついでにさっきの話に戻るけど、俺に彼女がおったら、人質に出来るから好都合な情報やろって事や。まあ、そう簡単に人質にはさせんけどな。」

「な、何で!」

「何で自分がヤクザの下っ端で、小野組のシマで警察のモンとヤクの取引やっとると知ってんのか、って聞きたいんか?」

 見る見る男の顔が青ざめていくが、こっちとしてはそんな事はどうでも良い。取引相手の刑事やこいつの上司に連絡が行って、丸々逃げられる前にこいつを捕まえるのが篁さんから直々に頼まれた俺の今の仕事だ。

「さっき言った俺の彼女な、昔話に出てきた小野組組長の、篁さん専属の情報屋やねん。ああ、何処行くんやっちゅうねん。」

 身を翻して逃げようとする男を、背後から飛び蹴り喰らわして蹴倒す。一緒に大きい音させて隣にあったゴミ箱も倒れたけど、まあ後で片付けたらええや。丁度ええ事に、音に気付いた組員が事務所から出てきたし。

「獅史樹さん、何してんすか?今日は獅史樹さんの誕生日でマリアさんとデートやからって、1時間前に出て行きませんでしたっけ?」

「んー?それがなあ聞いてえや、マリアの仕事が延びてもうてな、結局ここで待ち合わせっちゅう事になったんやけど、移動途中で篁さんから頼まれた仕事有って、今それ片付けてたとこやねん。」

「ああ、大変すねえ。誕生日で久しぶりの休日に。それで、組長から頼まれた仕事って?」

 わざと情けない声で言う俺に、本気で同情してくれる組員。他にも数人事務所から組員が出てきて、俺達を囲むように立って話を聞いてくれる。

「この男な、不良時代の知り合いなんやけど、今は『例の組』の下っ端でウチのシマで面倒事起こした奴やねん。」

「ああ、さっきマリアさんと組長から連絡あった男って、そいつですか。獅史樹さん、こっからは引き受けさしてもらうんで、どうぞ中で休んでて下さい。」

 別の組員が話しかけてきて、俺を労わってくれる。ただ、周りから見たらおかしな光景かもしれん。強面の男達が、明らかに年下である男に下手に出ているのだ。まあ、ここにいる奴らには蝶湖姐さんと一緒に喧嘩の手解きをしてから、妙に慕われてしまっていくら言っても直してくれんから諦めたけど。と、それよりも。

「どうしたんすか?」

 急にキョロキョロとしだした俺に、組員が不思議そうに聞いてくる。さっき蹴倒した男は、這った状態で逃げようとしてるから、背中踏んで動けんようにしてる。

「もうそろそろマリアが来るはずやねん。」

「今来たよ。」

 周りを囲んでた男達の中で、一番背の高い奴の後からマリアが顔を出した。

「おお、丁度良かった。連絡してきた奴って、こいつでええんやんな?」

「え~っと、そうそうこの男。同じ将樹会系でありながら、勝手に小野組を敵対視してる組の末端構成員。名前は田木(たき) 浩二(こうじ)、20歳。組織に入ったのは半年前で、目立った働きはまだしてないけど、最近府警本部とのヤクの横流しの取引で受け取り手として動いてる。取引場所はヤク厳禁なウチの組に迷惑でもかけたいのか、こっちのシマ内。更には横流し品を一部掠めて私腹を肥やしてる。て事で、皆さん後はお願いします。ついでに、組織に入る前にウチの金融会社で借金作ったまんま消えてた男なので、その分も回収しといて下さい。あ、分かってると思いますが情報吐いて貰わないといけないので、命まで取っちゃダメですよ。あと、ヤクとタバコとお酒漬けになってる身体だから、借金の回収のためにバラす予定を立てるのもやめた方が良いと思います。」

 俺が篁さんとこに行くきっかけになった時と変わらず、マリアは楽しそうにニッコリと笑う。元№1ホステスだったためその笑顔は見惚れるほどで、周りの組員達も見惚れている。せやけど、俺にとっては命よりも大事な俺の彼女や。誰にも渡さんで。まあ、その笑顔の下でとてつもなくえげつない事考えてんの知ったら、近寄ってくる奴が少のうなって好都合かも知れんけど。

「ヒロ、もう会う事ないと思うで紹介しとくわ。これがさっき言ってた俺の彼女。」

「初めましてじゃなくて、久しぶりですね元№2チームのヒロこと田木 浩二さん。元情報屋『スピカ』、今は獅史樹の彼女で小野組と言うより組長専属の情報屋である楽鬼こと桜咲 マリアです。スピカの時はご利用ありがとうございました。」

 俺がマリアの肩に手を置き、未だに足蹴にしてる男に言うと、マリアも自己紹介をする。それを聞いていて思い出した事を、今の内に言っとこうと思って、俺も続けて口を開いた。

「そうそう、今の俺の名前はレオでも、ブルーバタフライでも、死蝶でもないで。今の俺はさっき言うた通り篁さんの運転手兼SP、ほんで同等の仲間でもある怒鬼こと、ただの海緒乃 獅史樹や。それと、大分前に俺がお前の本名を全く覚えられん理由聞いとったけど、アレな、どうやら後々俺やら俺の今の仲間に敵対する可能性のある奴だけは、どうしても覚えられんみたいやわ。」

「たぶん、もう聞こえてないよ。」

 ちょっと前から何にも反応せん男に話し続ける俺に、横からマリアが止めるように言ってくるが、そんな事は気付いてる。だって、ずうっと俺が乗せてる足に段々と力入れて肺を圧迫しとったから、ついさっき気絶しよった。それでも足蹴にしとったのは、こいつがあの時の仇の1人やから。俺らの溜り場の情報を小野組と敵対しとった組に提供したのは、当時休戦協定結んで共同戦線はってたはずのコイツや。だから、押さえがきかんかった。たぶん、俺の脚の下では背骨と肋骨何本かイッとる。その事も知ってるから、たぶんマリアは俺を止めたんやと思う。

「優しいマリアに感謝しぃ。・・・・・ほな、コイツ頼むわ。俺らはこれからデートしてくるさかい。皓ちゃんの作った飯は食うから、6時間ほどしたら帰ってくるし。」

 周りを取り囲んでた組員に後始末を頼んでマリアの手を引くと、組員達から羨望の声と眼差しが返ってくる。それに気分を良くして、表情は変わらんけど心ん中で楽しそうに笑う。

「楽しそうだね、獅史樹。」

 楽しいと言う感情に敏感なマリアは、俺の分も一緒に顔に出して笑ってくれる。今度は嬉しくなって、もう通り名も忘れてしまった男なんて目に入れず、俺は上機嫌で大事なマリアとデートに行った。


「・・・・帰ったら、ゴミ箱の後片付けした組員にお礼言いなよ。」

「・・・・へーい。」


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