三つ巴の問答
王都から東へフィリッシェ川まで進み、南に曲がったところにフェーブルを出国しシュウィツアに入るための関所がある。そこで手続きをして橋を渡り、シュウィツア側の関所で再び手続きをしてもらえば入国。そのような施設が両国の間に三か所あり、ユーベルたちがたどり着いたのはその中で一番南にある関所だった。
関所の隣の芝地に王都と結ばれた転移装置の場所があり、王宮騎士団はそこから続々と姿を現し、こちらに向かってくる馬車を確認した。
奇妙なことに、疑惑のユーベル・ノルドベルク自身が御者を務めていた。
たいそうな速度で走ってきたらしいが、川の手前でそれを落としゆっくりと近づいてきた。
「ノルドベルク公子! 貴殿に問いただしたき儀がございます。どうか馬車より降りて、われらの質問にお答えください!」
騎士団団長スコルパスが下馬し声を張り上げた。
状況的にユーベルたちは馬車を止めるしかなかった。
御者台から降りたユーベルは剣を鞘から出しそのまま騎士団に対峙した。
「公子、どういうおつもりですか?!」
スコルパスが狼狽しながら尋ねる。
「問答無用で矢を射かける相手を警戒するのは当然のこと!」
ユーベルは断固とした態度で答えた。
「矢を! いったい何のことです?」
「この少し手前の道の途中で狙撃された。御者は死んだぞ!」
「そ、それは……、違います。現にわれらは今転移装置でこの場についたばかり。御者は気の毒でしたが、現地に潜んでいた山賊か何かの仕業かと……」
「そうか、そなたたちではないと誓って言えるのだな」
当然です、と、騎士団長が言おうとしたその瞬間、ユーベルに向かって矢が飛んできて、それをユーベルが薙ぎ払って落とした。
矢はスコルパスの後ろに控えている騎士団から飛んできた。
「言った先からこれか」
静かな口調でユーベルは怒りを示した。
「何をしている! 誰だ、矢を放ったのは?!」
スコルパスは激高して、後ろの騎士団に怒鳴りつけた。
矢を射かけたのは、王宮騎士団ではなく同行していたブラウシュテルン家の騎士団であった。
「マース殿、勝手な真似はさせないでいただきたい!」
王宮騎士団長スコルパスがブラウシュテルン公爵直属騎士団長マース・ヴェルトに厳しく注意をする。
「申し訳ございません。ただ、お嬢様方を勝手に連れ去ったこの男への怒りを、うちの者たちに抑えるよう言い聞かせるのは団長の私でも難しいことゆえ」
しゃあしゃあとマースはスコルパスに弁解した。
「とにかく、まず我々が質問するので、その間、何もしないでいただきたい!」
スコルパスはマースにくぎを刺した。
かしこまりました、と、マースは答え待機した。
「まず、ブラウシュテルン家の令嬢を連れて王都を出たのはいったいどういうわけかお答え願いたい」
スコルパスがユーベルに質問した。
「ヴィオレッタ嬢の話によれば、緊急の場合においては貴族が自領に赴くのは事後報告でも許されるとのことです。我々はそれに即して現在ブラウシュテルン領への移動を……」
ユーベルは返答しようとした、しかしその話の途中、
「ごまかされてはなりません! たしかにこの街道は公爵家の領地にもつながっていますが、同時にシュウィツアの国境へ向かう道でもあります。そのような詭弁を信じればお嬢様方は隣国に連れ去られてしまいます!」
マースがそれを遮ってユーベルの言を強く否定した。
「そのようなことは考えておらぬ! ヴィオレッタ嬢の身の安全を図るには王都よりブラウシュテルン領の方がよいと判断したからこそ……」
「それこそおかしな話ですな。どうして王都でお嬢様の身の安全がおびやかされるというのですか?」
「それは……」
マースの巧妙な横やりにユーベルは言葉につまる。
「マース殿の疑問も理解できます。令嬢の身の安全とおっしゃいましたが、ヴィオレッタ様は王太子殿下の婚約者であり、そのようなお方を王都でいったい誰が危害を加えるというのですか?」
スコルパスはユーベルに質問を返した。
「やはり私が出た方が……」
彼らの問答を馬車の中で聞いていたヴィオレッタは考えるのだった。




