一行に追いつけ
王妃についていたクロの分身は、公爵代行夫妻が王妃に何か訴えていることを知らせた。
「わしも王宮内の状況がわかるように記憶珠を飛ばしておったが、なにやら急にバタバタしだしたの」
老魔導士もそういった。
そして、わかりやすいようにと、記憶珠の映像を大きく映し出させた。
ざっくりまとめると、ノルドベルク公子がブラウシュテルン令嬢姉妹を誘拐した、と、保護者である代行夫妻が訴えているということであった。
「あの連中、もうちょっと穏便に事を運べなかったのかしら」
騒ぎの様子を見てロゼがつぶやいた。
「ここは公子に罪を擦り付けた代行夫妻の知略をほめてやったほうがええ」
「と、まんまと国王暗殺の濡れ衣着せられたジイさんが言ってるぜ」
ウルマノフが公子とクロを擁護し、それにヴォルフが茶々を入れた。
「とりあえず、クロに連絡を取るわ。もしもしクロ、今どこにいるの?」
ロゼはサフィニアたちについている本体のクロに念話で尋ねた。
離れた相手に、もしもし、と、言ってしまうのは前世の名残りか。
「どこって馬車の中よ」
「それはわかっているわ。つまり、馬車は今どの辺を走っているかってことを聞きたいのよ」
「へっ、ちょっと待って」
クロは外の様子を窺ったり、同乗している人間に聞いたりした。
「あのね、今は畑の中の道を進んでいるんだけど、もう少ししたら川岸に出るんだって。そのあとは川に沿って北上するらしいんだけどね」
「と、いうことはつまり……」
ロゼは王都と向かう先ブラウシュテルン家の領地との位置関係を思い出していた。
王都はフェーブル国南方のほぼ中央にあり、ブラウシュテルンの領地は国の北東部にありシュウィツアとも隣接している。よって、まず王都から農村部を東に進むと、やがてシュウィツアとの国境にもなっているフィリッシェ川にたどり着く。その川に沿って北上すれば公爵領にたどり着くことができる。
「ふむ、王宮の連中は転移装置で、シュウィツアとの国境にある関所まで瞬間移動するみたいじゃぞ。そしたら一時間もせんうちに追いつかれるわ」
フィリッシェ川を挟んで両国にある関所、王都から東に向かう一番舗装された道を通ればそこに行きつき、ユーベルらはそこから曲がって北上する予定であったという。
「鉢合わせになるかもしれませんね。道を変えるよう助言したほうがいいかしら」
ロゼがウルマノフに打診した。
「いや、道を変えたところでいずれは追いつかれるじゃろうて」
「じゃ、どうすれば?」
「わしらも向かった方がいいな」
ウルマノフが魔法で出したベッドを消して立ち上がった。
「クロ、聞いて。公子が令嬢誘拐犯にされてしまったわ。王宮の騎士団がそっちに向かうはずよ」
「それはわかっているわ、あたしだって王妃のそばに分身を飛ばしてたんだから」
「あ、そうか」
「敵もやるわね。ヴィオレッタが言うには、確かに貴族が勝手に王都を出ちゃいけないんだけど、自領に関しては緊急を要する場合、あとから届け出を出しても許されるんだって。それで大丈夫だと思っていたんだけどね」
「王宮の騎士だけなら、馬車に追いついて話をまず聞こうって姿勢みたいなんだけど、公爵代行子飼いの騎士が一行に交じっているから、彼らがどう出てくるかわからないわ」
「なるほどね」
「ウルマフ、いやウルマノフ魔導士とも話は終わったし、私たちもそっちに向かうわ」
念話で話していたロゼとクロの会話は精霊ウルマフも把握できていた。
ただの人間である少年ヴォルフは何が起こっているか、ちんぷんかんぷんのようだったが。
「とりあえず、隙あらばヴィオレッタ嬢の命を狙ってくる輩が混じっておるのじゃから、奴らの動きを把握しながら令嬢や公子と合流せねばならん」
ウルマノフが作戦を口にした。
「私一人ならクロのそばにすぐ移動できるけど、お二人も一緒にとなると少し厳しいし、どうしましょう?」
ロゼがクロたちのもとに向かう方法を思案した。
「わしに任せなさい。二人ともわしの腕につかまれ。ほほう、ええのう、美人さんに腕を組んでもらえた!」
「鼻の下伸ばしてんじゃねえぞ、ジジイ」
安定のウルマノフのボケとヴォルフのつっこみである。
「時にお嬢さん、お名前は?」
ウルマノフは改めて美女に尋ねた。
「失礼しました。ロゼと申します」
プラチナブロンドの美女は答えた。
「ロゼさんか、そしてあんたがあの猫の名付け親なんじゃな。では行くぞ」
ロゼ、ウルマノフ、ヴォルフの三人は一瞬にして地下牢から姿を消した。




