階段にて相談
「そうそう、ウルマ……、ノフ魔導士のところに行く途中だったのよ」
ロゼが思い出したように言った。彼の正体が精霊ウルマフと知ってからは、仮の名ウルマノフを忘れてつい本名を言いそうになってしまう。
「ああ、牢にぶち込まれたウルちゃんのところね。確か連れてきた子供も一緒なんでしょ。ウルならこの程度でダメージくらうことはないだろうけど、子供の方は生身の人間なんだからさ……」
クロのおしゃべりが精霊仲間だけの秘密の部分にまで抵触している。
「ちょっと、クロ……」
ロゼは慌ててクロのおしゃべりを制止した。
クロはユーベルもいたことを思い出して、ゴメンとばかりにロゼの顔に頭をこすりつけた。
「そういえば、あなたはなぜウルマ……、ノフ魔導士を危険を冒してまで訪ねようとしたの?」
ロゼは急いで話を変えた。
ユーベルは不審がった。
なんなのだろう、この者たちは?
先ほども『キンダイニホン』とか『シボースイテージコク』とか、それから『カンテー』とか、とにかく意味不明な語を連発してしゃべっていたし、自分の知らないノルドベルクについて知っているようなそぶりもしている。
怪しむべきところは山ほどある。でも、ヴィオレッタ嬢を助けようとしているのはどうやら本気だ。
その一点においても、彼女たちを信じてみる方が賢明だろう。
相手の方もいろいろ教えてくれたのだし、ここはお互いが持っている情報を共有したほうが良い。
「実は先日、ウルマノフ魔導士と一緒にある人物の墓を掘り返したのですが……」
ユーベルは墓荒らしの夜に見たことを話すことにした。
墓の主はマグノリア・ブラウシュテルン。
現在命を狙われているヴィオレッタの生母である。
死亡したのは墓碑銘から見て約五年ほど前だが、遺体は全く腐敗しておらず眠るがごとき状態を保っていた。ウルマノフは彼女の遺体から何か薬品のようなものを抽出しそれを鑑定してみると言った。
「へえ、そっちでも薬か」
ロゼが意味深につぶやいた。
「ねえ、クロ、あなた今すぐブラウシュテルン邸まで移動できる?」
ロゼはクロに質問した。
「分身をいくつか配置しているから大丈夫よ」
クロが答える。
「じゃあ、一人連れていくことも可能?」
「一人くらいならなんとかね」
クロは分身体を別の場所に飛ばす能力があり、それがいる場所なら本体も瞬時に移動できる。
さらにロゼとクロはお互いのいるところに瞬時に移動できたり、互いに互いの居場所を入れ替えたりすることができる。
「ユーベル公子、どうされます? クロと一緒に今すぐブラウシュテルン邸まで移動することもできますが、このまま予定通りウルマノフ魔導士に会いに行きますか?」
ロゼが改めてユーベルに問うた。
「ブラウシュテルン邸まで移動?」
ユーベルが問い返した。
「ええ、クロと一緒なら瞬時に移動することができます。あの家の者はほとんど信用できないけど、妹のサフィニアならいっしょにヴィオレッタを説得してこっそり連れ出すことはできるかもしれません。猶予はあまりないですからね」
「確かに、優先すべきはヴィオレッタ嬢の保護」
しかし、瞬時に移動、と、いう言葉にユーベルは疑念も抱いた。
「私はどうしてもウルマフ、ごほっ、ウルマノフ魔導士に調べてほしいことがあるからすぐには彼女のところにいけないの。あなたが代わりに言ってくれるなら、私があなたの話もまとめて彼に聞いておくわ」
ロゼがユーベルに提案した。
「もしかして怖いの?」
クロは茶化すようにユーベルを小突きながら言った。
「怖いだなんて!」
「だったら覚悟決めなさいよ。わざわざ危険を冒しておじいちゃんと接触を図ろうとする根性があるから頼めるかな、と、思ったんだけど、だめなら早く別を当らなきゃならないだから!」
「怖くなんかありません、大丈夫です! いろいろこっちの常識から外れたことばかり起きるので、頭を整理していただけです」
「じゃ、決まりね、とりあえずサフィニアのところに戻りましょう」
ロゼは腕に抱いていたクロをユーベルに手渡した。
「あたしの身体をしっかり持って絶対離すじゃないわよ。離したらあんた、次元のはざまに迷い込んで帰ってこれなくなるからね」
クロが注意事項を語りユーベルにくぎを刺した、そして、
「じゃあ、行ってくるわね、ロゼ」
そういうと、ユーベルとともにクロの姿はロゼの目の前から掻き消えた。




