切り離された魂
その美女は プラチナブロンドに空色の瞳をしていた。
その髪と目の色をサフィニアは見たことがある。特に真白な雪に黄金の夕日が照り映えたような髪色は、隣国のとある家門独特のものである。
「突然何の用? ネイレが王太子妃の教育受けるようになって、こっちは忙しくなってるのよ」
霊界での経験によって魂が結ばれているクロとロゼは、離れてても呼べば互いの場所へ瞬間移動できる、またお互いの位置を入れ替えることもできる。
「王太子妃教育? ネイレ?」
サフィニアがいぶかった
「いやいや、こっちのことだから……」
ロゼがごまかした。
「もしかして、ノルドベルク公子のご親戚の方ですか?」
サフィニアは聞いた。
「あ、いやっ……、ノルドベルクはあながち無関係ではないけど、ユーベル・ノルドベルクとは血のつながりはないわ」
ロゼは慌てて説明した。
精霊ロゼがかつて人間のロゼラインだった時の生家ロゼライン公爵家は、彼女の毒殺事件の後取り潰しとなった。
しかし数十年後、事件の解決に協力したゼフィーロが息子のオステルン第三王子が臣籍降下するときに、その家門を惜しみ、彼と分家の娘との結婚によりノルドベルクを再興させた。
ユーベルはその夫婦の次男である。
「いわゆる遠い親戚みたいなものだけど面識はなかったわよね。そもそも、もう人間じゃなく精霊王の眷属だもんね。でも、話をするとややこしくなるからあまり追及しないでね」
クロは手短に話を打ち切った。そしてロゼにサフィニアの事情を説明した。
「なるほどね、でも私の場合、死ぬ前に見る人生の走馬灯のついでに前世の美華の記憶も一緒に思い出したから、あなたのケースとは違うのよね。でもまあ、憑依ってわけじゃなく正真正銘サフィニアの魂でもあるのだから、何の不都合があるの?」
ロゼはサフィニアに尋ねた。
「不都合ってわけじゃないけど、自分の中に異物があるような……。ずっとうずくまっている女の子がいるんです。それが気になって気になって……」
サフィニアは答えた。
「どんな子?」
ロゼが質問した。
「うずくまって髪色しかわからないけど、容姿はたぶんサフィニア自身と同じではないかと」
サフィニアは推測した。
「別のサフィニアがいるのね。外から見た感じでは、異物というか、他者の魂の存在は感じられないのだけど、しいて言うなら魂が分裂しているのかな?」
クロがサフィニアの答えから推察した。
「「魂が分裂することなんてあるの?」」
ロゼとサフィニアがともにクロに尋ねた。
「私の場合は違和感なく、ロゼラインだけど美華でもあることが受け入れられたし、分裂した存在なんて感じたことなかったけどな」
ロゼはさらに付け加えてつぶやいた。
「それはおそらくなんだけど、ロゼと美華の心情がそれほどかけ離れていなかったからでしょ」
「なるほど、どっちも親に虐待されていたし……、って言ってて悲しくなるじゃないの」
ロゼが言いながら落ち込むような顔をした。
「前世では私、母子家庭でかなり貧乏で、でも母や姉とは本当に仲が良かったんですよ。今のサフィニアは何不自由ない公爵令嬢だけど姉とはあまりうまくいってなくて、それでか!」
サフィニアは語りながら合点が言った。
「う~ん、でもなんで人格が入れ替わっちゃったの? きっかけは建国パーティの前に頭を打ったからかもしれないけど、そんなことで元のサフィニアらしき魂がずっとうずくまったまま引きこもっているかしら?」
自分で自分がわからない、と、サフィニアは頭を抱えた。
「直接聞いてみる? デリケートな技だからだれにも邪魔されない場所が必要なんだけど、あんたがあんたの魂の中に入り込んで、そのうずくまっている子に聞くことはできるかもよ」
クロが提案した。
サフィニアはうなづいた。
本来なら身体の主導権はおそらくあちらにあったはずなのに、笑美である自分を無理やり目覚めさせて引きこもってしまった子。
正直言ってあまり性格のよろしくない少女だと笑美自身は思う。
その子が何を考えて引きこもったのか、両親や継姉をどう思っていたのか、聞いてみることで数日前の夜に聞いた両親の恐ろしい計画への対処の方向も決めることができるのではないか、と、サフィニアは期待するのだった。
【一章との関連】
ユーベル・ノルドベルクは第一章に出てきたゼフィーロとアイリスの孫にあたります。
彼らの第三王子が臣籍降下をして、ロゼライン(精霊ロゼ)がいたノルドベルク公爵家本家の分家筋の娘と結婚し、ユーベルが次男として生まれました。




