夜の殺人相談
建国記念パーティの騒動から翌日の話し合いまで怒涛の展開で疲労困憊……、と、いうほどにはサフィニアはなっていなかったが、大人たちはそうだったらしく、家に戻り入浴や夕食を済ませたら早く寝るように彼女は言いつけられた。
ベットに行かされたサフィニアだったが寝付けず、部屋を出ていつもより早く消灯した家の廊下を歩いていると、応接室に灯りがついているのが見えた。
お父様とお母様がまだ起きてるんだわ、と、サフィニアは中に入ろうとしたが、彼らの会話が耳に入った瞬間、彼女は立ち止まり息を殺した。
「なぜ、ロゼッタ嬢に王太子教育を勧めたかって、そのほうがヴィオレッタを亡き者にするのに都合がいいからさ」
自称「ブラウシュテルン公爵」、正確には「代行」が妻に語った。
「男爵家の出ではその教養のほどなど知れている。側妃として認められる水準になるにも時間がかかるはずだ。その間にヴィオレッタとロゼッタ嬢を合わせる場をうまく設けて二人とも殺害すればいい。ヴィオレッタが嫉妬に狂ってロゼッタ嬢を殺したか、あるいはその逆か、それは状況を見て臨機応変にそう見えるようにすればいいんだ。機会は必ず来るはずだ」
「そんな深い考えがおありになっただなんて、さすがは旦那様」
「この国の相続法では、爵位の継承権は直系の子や孫に与えられ、配偶者は除外される。例外的に相続人が成人してない場合、後見人として配偶者が『代行』することを許されるが、国王初めイヤミな連中から『代行』と蔑まれ、今までどれほどの屈辱を味わったか」
「それももうすぐ終わり、と、言うわけですね。旦那様」
「ああ、直系のヴィオレッタが死ねば、公爵位は分家の中から相続人を探すこととなるが、分家の中で一番ふさわしいのは誰だ? すでに公爵家に婿入りして『代行』も務めていた私しかいない!」
「でも、急がねば、ヴィオレッタはあと半年で十八歳、成人年齢に達しますわ」
「そうだな、十八になれば正式に爵位を相続し、女性の場合、後見人を必要とするがそれも自由に選ぶことができるようになるからな」
サフィニアは声を上げそうになるのを必死に抑え、その場に座り込み震えた。
継母とか、腹違いの姉妹とか、もろもろの事情で姉のヴィオレッタとはうまくいかず、自分の態度も母の尻馬に乗ってかなりひどかった。しかしそれを理解した今は二度と同じようなことをせず、母の態度は自分からそれとなくたしなめていけばいいだろうとのんきに考えていた。
会話はまだ続いていた。
「ヴィオレッタとロゼッタ嬢がいなくなれば、私たちのサフィニアを代わりの王太子妃に勧めることができるぞ」
「そうね、ヴィオレッタのせいであなたは臨時の『代行』扱いで国王たちの態度もそれなりだったけど、あの娘がいなくなれば正式なブラウシュテルン公爵はあなた。王家も私たちに頭を下げざるを得なくなるわ」
私をあの愚かで好色なナーレン王太子に?
この両親は継子だけでなく、実子の私すらも、彼らの権力掌握のための駒にしかすぎないのだ。
継子は邪魔だから殺す。
実子は結婚したら間違いなく不幸になるであろう王太子と一緒にさせる。
サフィニアは気づかれないよう、その場から離れ自室に戻りベットに突っ伏した。
泣いても泣いても涙は枯れなかった。
どうしてこんな環境の人間に自分は憑依したのか?
この少女の中に自分の魂を入れた存在は一体自分に何をさせたいのか?
そもそも自分はどうして泣いているのか?
あの夫妻がガチクズなのは昨日から見ていてわかるだろう。
自分の欲得のために罪もない十八にも満たない娘を殺そうとしている。
日本人の笑美の意識だけならあんな人でなし夫妻、証拠を握って告発してやればいい。
だが、悲しみは消えない。
笑美の記憶を持ったサフィニアは、そこで初めて自分の中に異物のようにうずくまっている別の意識を感じた。
もしかして、あなたが本当のサフィニア?
笑美ことサフィニアが尋ねたがうずくまる少女は何も答えなかった。
亀更新すいません。




