無神経な精霊たち
「正直言って、僕もあの案は無神経だし、咎もなくそんなことをされる側の立場も気持ちも全く考えてないと思ったよ。でも、プルってそんな奴だから……。プルが司る概念のせいでもあるけど、それが起こった時の巻き込まれた人の感情とか、一切考えずに大ナタを振るうところがあるからね」
破壊と再生を司るプルカシアのことを説明しながら、ネイレスがロゼをなだめた。
この方法なら、リスティッヒ一族が権力の強化のために取り込みたがっているブラウシュテルン公爵との間に、亀裂が入るし好都合とみられ採用となった。
そして王太子を篭絡する女性の役だが、ロゼにお鉢が回ってきそうになったのでそれは全力で拒否した結果、ネイレスが女性に化けてやることとなった。もともと司っているのが「美と夢幻」という女性の姿を形どっても不思議のない概念だったので、役自体は違和感なく演じられた。
シーラッハ男爵というのは精霊の御所があるフェノーレス山地のふもとに領地をもつ家門で、家名を借りる見返りに不治の病と言われていた嫡男の病をフェレーヌドティナが癒してあげた。そして万が一、状況が思いもかけない方向に転じてシーラッハ男爵家に累が及ぶ事態になったら、全力で護れるようにサタージュたちが備えている。
しかし、問題として……、
「だいたいね、なんで私の名前をもじって『ロゼッタ』なのよ。私の方が名乗りにくくなってるじゃないの!」
と、精霊ロゼはネイレスに文句を言った。
「えー、でもこの方が君と一心同体な感じがしてうれしいんだけどな」
ネイレスがぬけぬけと言った。
「キモいわ!」
ロゼが一刀両断に吐き捨てた。
ロゼ自身はこの王宮では『ゾフィア』と、名乗っている。
彼女がかつて人間だった頃、唯一信じられた侍女の名『ゾフィ』にちなんでである。髪の色も彼女と同じブルネットに変装している。
彼らの誤算としては、ブラウシュテルン公爵家が遠縁で婿養子に入った男と後妻に牛耳られていて、直系で唯一の跡取り、なおかつ王太子の婚約者であるヴィオレッタを虐げていることだった。ヴィオレッタが公衆の面前で恥をかかされるような真似をされれても、この夫婦が彼女のために何かをするということはなく、相変わらず王太子におもねっていた。
「やっぱり王妃ダリアを何とかしなきゃね。話し合いの結果、あなたは王太子妃教育を受けるわけだし、けなげな様子を見せて王太子だけじゃなく母親の懐にも入り込んでもらわなきゃ」
「それで弱みを探れってこと?」
「そうよ」
「う~ん、王太子教育は君さえ傍にいればいろいろこっそり助言してもらえそうだし何とかなりそうだけど、王妃を懐柔なんてやれるかな?」
「やれるかなじゃなくやるの!」
ロゼの一喝にネイレスはヤレヤレと肩をすくめた。
ちょうど同じころ、王宮内の庭の一角でヴィオレッタに求婚したユーベル・ノルドベルクは、先ほどの会談のことを思い出しため息をついた。
決着がついて皆が部屋を出ていこうとしていた時、ヴィオレッタはユーベルに近づいて深々と頭を下げた。
「あの時はありがとうございました。私が孤立無援で困惑しているのを見るに見かねて、助け舟を出してくださったのですね。あなた様のご厚情には感謝の言葉もありません。本当に評判通り、気高い騎士様でいらっしゃるのですね」
どうやらヴィオレッタは、ユーベルが騎士道精神を発揮して困っている女性を助けただけだと解釈したようである。確かにそれも動機の一つとしてはあったが、ただの「親切な人」扱いにはやはりへこむものがある。
そんなこんなで目的もなく庭をそぞろ歩いていると、向こうから魔導士のウルマノフとお付きの少年が歩いてきた。
「おお、ノルドベルク公子ではないですか」
ニコニコと人懐こい笑顔を向けて老魔導士は言った。
「さきほどはどうも」
軽く挨拶をしてユーベルは彼らから離れようとしたが、
「なんじゃ、つれないのう。同じくふられたもの同士、仲よくしようではないか」
魔導士の方は無神経な物言いで彼を引き留めようとした。
「まあ、そう怒るなって。ちょいと話をしようではないか、お前さんは今回の件についてどう思っとる?」




