会議はまだまだ踊ります
王太子が返答に窮していると、ヴィオレッタの父、自称「ブラウシュテルン公爵」が横から口をはさんできた。
「あの、提案なのですが、試しにロゼッタ嬢にヴィオレッタが受けたのと同じ王太子妃教育をほどこしてみてはいかがでしょうか?」
「「「「何?」」」」
彼の提案に国王や王太子など複数の面々が首を傾げた。
「ロゼッタ嬢が王太子の妃としての素養をそれで身に着けることができるならば、王太子殿下のおっしゃっていた決まりを変えるという事の論拠にもなるでしょうし、できないならば己の身の程を理解することができるのではないかと……」
国王は顎に手を当てて考えた。
王妃も悪くない提案だと思った。たとえうまくいかなくても今まで数多くの令嬢と浮名を流してきた移り気な息子なら、時間をかければいずれ熱が冷める可能性もある。
「めずらしく良い考えかもしれませぬな」
王妃が国王に言った。
「ふむ、ヴィオレッタ嬢が了承してくれるならそれも……」
国王はヴィオレッタに水を向けた。
「わたくしはそれでかまいません。ただ一つお願いしてもよろしいでしょうか?」
「なんじゃな?」
「今回は王太子殿下の宣言にもかかわらず婚約解消とは相成りませんでした。もし今後、わたくしの方から婚約解消を願い出た場合は、理由の如何にかかわらず、聞き届けていただきとうございます」
「なに!」
ヴィオレッタの要望に国王は息をのみ返答を渋った。
「まあ、そりゃ聞き入れてやらにゃならんのじゃないですかな? あんたの息子が何の落ち度もない令嬢を公衆の面前で侮辱するかのごとき宣言をしたんじゃぞ。それを寛大にも令嬢は目をつむって婚約関係を続けてくれるのじゃから、次はない、と、いうことをはっきり示すためにも、国内外の要人のそろったこの場で約束するくらいのことはしてやってもええんじゃないかの?」
ぞんざいな物言いで老魔導士ウルマノフは告げた。
「なんだ、それは? やられたからやりかえしているだけなんじゃないのか?」
ナーレン王太子が吐き捨てた。
「こういうところに可愛げのないねじくれた性質がでているのですよ」
継母のカルミアもまた罵った。
「あの、私一生懸命頑張りますので……」
ロゼッタがひかえめに主張した。
「おお、けなげだな、ロゼッタよ。それに比べて……」
ナーレン王太子が追い打ちをかけようとする、しかし、
「とにもかくにも約束じゃ。わしらの目の前でヴィオレッタ嬢の言うとおりにするという約束をしなされや、国王よ」
魔導士ウルマノフが割って入った。
「うむ、まあ、そういうなら一応な……」
気乗りせぬそぶりで国王が言った。
それもそのはずブラウシュテルン家はフェーブル東部に広大な領地を有する公爵であり、その後ろ盾は失いたくないものであるから、唯一の後継であるヴィオレッタ嬢は何が何でも王家に取り込んでおきたい存在である。
「では今後の方針も決まったことですし、皆様、本日はお集まりいただきありがとうございました」
王妃ダリアが出席した面々にお開きの意を告げた。
そして国王が立ち上がり王妃を伴って退出すると、他の者たちもまた立ち上がった。
「終わったみたいだわ、行かなきゃ!」
サフィニアは窓から離れ、彼らが集まっていた部屋の入口へ向かった。
「あ、おれも」
ヴォルフも同じように走った。
サフィニアが建物の中に入り、部屋の入口のところへと廊下を急いでいる途中、
「あ、お父さま、お母さま」
部屋を出てこちらに向かって歩いてくる両親に出くわした。少し後ろをヴィオレッタも続いていた
「あらあら、サフィニア、待っていてくれたのね」
母のカルミアが声をかけた。
「ええ、話し合いは?」
「終わりましたよ、さ、家に帰りましょう」
内容はずっと聞いていて知っているので、サフィニアはそれ以上は聞かず、はい、と、返事しておとなしくついていった。
「私たちは前の馬車に乗るので、貴方は後ろの馬車に乗りなさい、ヴィオレッタ」
母のカルミアが後ろを歩いていたヴィオレッタに命じた。
「そうだな、せっかくの家族水入らずなんだから、邪魔はされたくないものだ」
父も母に同意し、ヴィオレッタは小さく、はい、と、うなずいた。




