ロゼライン顕現する
兄王子からのあからさまな敵意に弟王子は言葉を返さず、ただ目線でのみそれを跳ね返した。
二人の王子の様子に、どちらの陣営に属するかを決めておらず日和っていた貴族たちも、どちらについたほうがいいかを頭の中で計算し始めた。
王太子派のノルドベルクが没落し他の公爵家の当主が二人とも王太子の『処分』を求めている。
王太子はだめだな。
そう考える貴族が大半を占めた。
問題は国王がどう考えるかだ。
浅慮なところが欠点だが、社交的で華やかな魅力にあふれた王太子の資質を国王が惜しんでいるのも事実であった。
「いろいろ不幸な偶然が積み重なったようだが、あの辛気臭いロゼラインが死んでくれて、お前にとっては良かったようだな、ゼフィーロ!」
パリスの言葉にゼフィーロはカッとした。
そして、ロゼラインも。
今自分のことが見えている者、それは自分の死を惜しんでくれている者。
その中にゼフィーロもいる。
あんたは今でもわたしを見ることができていないくせに、よくもぬけぬけとそんなことを。
あんたと対立することをあれだけ悩んでいたゼフィーロに、よくもそんな心ないことを!
「よさぬか、パリス! なぜ今ロゼライン嬢がゼフィーロの傍に立っているのか、その意味も分からぬか!」
国王が大声でパリスをいさめた
へっ?
国王陛下、視えているの?
ロゼライン及び、ロゼラインが見えているゼフィーロやゲオルグなどがきょとんとした顔をした。
さらにロゼラインが見えているであろう他の貴族たちもざわざわしだした。
「第二王子の傍にいるのはやはり……」
「目の錯覚ではなかったのか」
そのざわめきに対する不快感にパリスは耐えきれなくなった。
「ばかばかしい! 付き合ってられるか!」
そう言い捨てて踵を返し笑いながら法廷を後にした。
「いやぁ、すがすがしいくらいの……」
その様子を見て黒猫クロが口を開いた。
「うんうん、あれだけ徹底して惜しまれてないとなると逆にスッキリするわね」
ロゼラインも感想を述べる。
「いや、あたしは『すがすがしいくらいのクズっぷり』って言おうとしたのよ」
「確かにこの期に及んでも自分の責任はかけらも痛感せず、下手を打った家臣や婚約者のせいで、自分がまずい立場に追い込まれたって思っていそうな態度だったね。できることなら生きている間にそのクズっぷりを私の方が指摘して婚約破棄宣言できるような立場や状況であったならよかったのだけど」
「まあ、その……、家族すらクズの無理ゲーだったからね……」
国王陛下は嫡男の傍若無人な態度にため息を漏らしながら、ロゼラインを見つめ、そして、力なくつぶやいた。
「ロゼライン、そなたが生きてくれていたなら……」
国王のつぶやきはロゼラインの心に響かなかった。
アイリスやゼフィーロ、そしてゾフィらが、自分の死を心から惜しんでくれてそして自分の姿を視認できていると知った時の感情とは違い、ロゼラインの国王に対する気持ちは冷ややかだった。
「最後のサービスだ、ここにいる全員にそなたの姿が視えるようにしてやろう」
いつの間にかロゼラインの後ろに立っていた精霊サタージュがロゼラインの耳元で呟いた。
その瞬間、金色の光が法廷内を包みロゼラインの姿が廷内にいるすべての人間に視えるようになり、あたかも光とともにロゼラインが顕現したかのようであった。
「これは!」
「一体、何の奇跡だ!」
その場にいた人間が皆驚いた。
ちょっと、何してくれてるのよ、この精霊は!
ロゼラインは内心焦った。
なに、この空気?
自分を殺した相手たちを裁判で有罪にして無念を晴らしたあたしが、国王陛下と対峙して、それで……。
なんかさ、流れ的には国王陛下や裁判に携わった人間に感謝の意を述べて、そして国の繁栄を祈って消えていきました的な感動的なものを期待されてない?
個人的にゼフィーロやアイリス、ゾフィーやゲオルグには感謝しているわ。
でもね、国王陛下とか、その他大勢に対しては違うのよ。
むしろぶちまけたい、これまでの怒りを、恨みを!
空気読んだ発言なんかしたくない!




