ピクニック日和?
数日後の九月の初旬。
暑さもおさまり心地よい風吹く晴天の日。
「やっほー! 絶好のピクニック日和ね!」
王宮から郊外へ進みゆく馬車の中で、黒猫のクロは身体をグンと伸ばして前脚を窓にかけ外を見ながらはしゃいでいた。
「こんないいお日和。虫や鳥を追いかけても、日向ぼっこしても、超気持ちいいじゃないの」
虫や鳥を追いかけるのはともかく、日向ぼっこって……?
霊体でも日向ぼっこは気持ちいのかしら?
ゼフィーロとアイリスは日帰りで連れ立って王都を離れ郊外で休暇を楽しむ、現代日本風に言えばデートである、表向きは。
「いろいろとあったようだし、たまには気晴らしもいいじゃろう」
との、国王の言もありあっさりと許可は下りた。
ロゼライン毒殺事件の証言者となる可能性のあるゾフィー・エルダーを訪ねるため、二人のデートという体裁を整え、彼女の実家がある郊外へ向かっていた。
「猫は気楽、なんて失礼なこと言うんじゃないわよ。真剣な時と楽しむ時の切り替えがうまいだけなんだから」
ロゼラインはというと、アイリスの腕に抱かれていた。
正確にいうとアイリスが腕に抱く人形の中に入っていた。
数日前の話し合いで、霊体であるロゼラインは遠距離を移動できるのか、と、いう疑問が出てきた。
結論として、王宮内とその近辺ならできるけど、それより外には自力で行くのが難しいという事が分かった。
これはどうも彼女の生前の行動範囲が関係しているようだ。
たまの遠出はあったにせよ、普段は実家の公爵邸と王宮を往復するような毎日だったので、自由に行き来できる範囲が王宮とその近辺に限られてしまっている。
もう少し時間がたって生前の記憶やこだわりが薄れたら、そういう縛りもなくなってくるだろうとのサタ坊による見解だが、それを待つことは今はできない。
何か人型のようなものを依り代にして連れ出せば遠方への移動も可能という話なので、アイリスが持っていた人形の中にロゼラインは憑依した。
身長50センチくらいの布製のかなり使い込んだ人形である。
「ごめんなさい、手持ちの人形はほとんど妹たちに譲ってしまったもので、今持っているのはばあやが作ってくれたこの人形しか……」
ばあやと呼んでいるアイリスの乳母は先年亡くなったばかりでいわば形見でもあった。
アイリスがその人形を胸に抱いている姿を見て、ゼフィーロが笑みをもらした。
「いや、君と初めて会った時のことを思い出して、あの時もその人形を抱いていたね」
「あの時はまだ子供でしたから……」
「でも、こんなかわいらしい子が自分のお嫁さんになってくれるのかって思ってドキドキした」
「……」
ゼフィーロは向かい側の席を移動してアイリスの隣に座った。
最近のゼフィーロは若干抑えが外れてアイリスへの愛情表現が率直になっている。
今までのそっけない態度では、アイリスのみならず他の人間にも自分の感情を誤解されてしまう。
そして、ヨハネス・クライレーベンの件のように勘違いした輩のちょっかいを招くもともとなる可能性があると反省してのことのようである。
それはいいが、お二人さん、その馬車の中は二人きりではない。
霊体はノーカウントか?
並んで座って寄り添っている二人の膝の上に人形であるロゼラインが横たわっているんですけど。
ちょっと勘弁してほしい……。
「おっほん、余暇気分でイチャコラしてんじゃないわよ」
クロが二人の間に入っていさめた。
グッジョブ、クロ。
ただ、余暇気分というならあんたもでしょ。
どの口が言う?
まったくどいつもこいつも。
馬車はのどかな郊外の丘を突っ切ってゾフィ・エルダーの生家に近づいて行った。




