魔女ティスル
「弑逆じゃと!」
国王が絶句した。
弑逆とは下の者が主君や親を殺すことを意味する
「ぶっ、ぶっそうな言葉を使ってけむに巻こうなんて! もとはと言えばあなたが怪しげな治療を施したから、国王陛下はお苦しみあそばされたのですよ。それをごまかすためにそんな……」
ダリア王妃もくってかかった。
「症状に関してはわしは国王にも言い聞かせたがの。まあ、そのこともまとめて説明してやるわい。話は何十年も前にわしの弟子だったティスルという女のことから始めなければならんの」
老魔導士ウルマノフ(正体は精霊ウルマフ)は説明し始めた。
時期はあいまいだが、とにかくかなり昔、ウルマノフの数多くいる弟子の中で特に美貌と才能に恵まれたティスルという女性がいた。彼女は弟子の中でも頭角を現し、その発想力でウルマノフをも超えると目されてもいたが、そのうち大きな野望を持つようになった。
不老不死の術である。
この世のすべてを手にしたものが最終的に望む願いだが、この自然の摂理に反したことを達成できたものはいない、彼女はそれを手に入れるために、人道に反する術もまた開発し使用した。生きている人間から魂を抜き去り、そのエネルギーを魔力に変換させたのである。
それを知ったウルマノフは彼女を破門にしオルムから追放した。
追放されたティスルは大陸北方へと流れつき潜伏した。
「その女と今回の話にいったいどういう関係があるのじゃ?」
国王はウルマノフに尋ねた。
「そのティスルの残した爪痕が今も残っていて、様々な事件の遠因となっているということじゃ。わしはオルムの魔塔の出資金を募ると同時に、かつての弟子の不始末にけりをつける目的もあってこの地を訪れたのじゃ」
ウルマノフは過去に思いをはせるように顔を上げため息をついた。
そのウルマノフを見て体をわななかせる者がいた。
「お前が……、お前たちが、よくもティスル様を!」
ヴィオレッタの殺害計画を立てた彼女の継母カルミアであった。
「ほう、どこかで見た顔じゃと思っていたが、お前さん、ティスルについていた小娘であったか」
すでに衛兵たちに囲まれ拘束されているカルミアを見てウルマノフが言った。
「貴様らが来たせいでティスル様はこの土地を去らねばならなくなった。残された私たちは娼館にひきとられた。しかし私にはティスル様に教えられた作法や美容術、処世術があり、そして、薬も大量に残されていた」
「逆恨みじゃ。それと薬な、それこそがあらゆる事柄に大きく影を落としておった。ティスルのヤツめ、わしが禁じた術のみならず、あんな人の世の理を曲げる怪しげな薬まで製造しておったとはな」
「黙れ! あの薬はわれらにとっては救世主のようなものであった!」
「たしかに、あの薬は男をひきつけてなんぼの娼婦たちにはありがたい薬じゃったろう。その絶大すぎる効果ゆえに貴族の女たちの間にも広がり、その災いはシュウィツア王家にも広まった」
王家に対する被害報告に広間の人間はみな絶句した。
ウルマノフは軽く咳ばらいをし、再び話し始めた。
「若さを保ち避妊効果もある薬なんて娼婦たちにとっては確かに有用であった。それが貴族たちに広がる際、後者の効果は忘れられている場合もあったようじゃ。シュウィツアの現国王夫妻は十年以上子に恵まれずもうあきらめかけていたようじゃが、最後にダメもとでわしの弟子レーツエルに相談した」
「まさか、国王夫妻が十年以上も子に恵まれなかったのは!」
特使のエーデル卿が聞き返した。
「ああ、レーツエルは当時王太子だった夫妻の日常生活を事細かに調べた。口にするもの、身に着けるもの、すべてな。そこで王太子妃が臣下の夫人から献上された美容薬に目を付けたのじゃ。その薬には魔力の残滓が見え、それがかつて破門されたティスルが制作したものだとわかるのにそれほど時間はかからなかった。レーツエルはその薬の服用をやめさせ、時間をかけて王太子妃から薬の影響を取り除いた。そのあとはみなも知ってる通りじゃ」
王太子夫妻が十年以上たって子に恵まれるようになった意外な理由に、聞いてるものは皆驚いた。
その驚きの中、一人だけ顔面蒼白になっている者が一人いた。
「おや、国王陛下、どうされましたかな? お体が少し震えているように見えますが」




