ヴィオレッタ出生の秘密(後編)
ばあやことベトゥリッヒ子爵夫人がヴィオレッタに手紙を手渡すのを見届けたユーベルは、再び話を始めた。
「わが祖母にして先代王妃アイリスは、亡くなった息子エルンストが残した日記を読み、彼が愛したマグノリア嬢と話をしてみたいと思ったそうです。しかし、彼女はその後すぐ結婚して家庭を持たれたので、祖母がそのような声かけをしてシュウィツアに招くのは彼女にとっては迷惑になるかもしれないと断念したそうです、当時の日記にそのような気持ちが記されていました」
「ああ、もしあの当時、事実が明らかになっていましたら……、しかし、旦那様も当時の状況を鑑みて、マグノリア様母子にとっての『最善』をお選びになったのです」
「そのあと王太子夫妻も御子に恵まれ、今のシュウィツアに王位継承で面倒な事態は起こっていません。巡りあわせがうまくかみ合わなかったのですね」
そのあと広間は少しの間、誰もしゃべらず沈黙していた。
過去の不運な恋人たちの物語に対して、しばしの沈黙でみな哀悼の意を示したようである。
「おお、それではヴィオレッタ嬢は亡きエルンスト様の忘れ形見」
エルダー卿が沈黙を破り感極まったようにつぶやいた。
「そうですね。建国パーティの時に初めてお姿を拝見しましたが、彼女の瞳は亡き祖母、アイリス王妃と同じ色をしておられます」
ユーベルは言った。
「そして御髪は先代国王ゼフィーロ様と同じ色です。ああ、ユーベル様が物心ついた頃は王の御髪には白いものが混じっていたのでわかりにくいでしょうが、お若いころの髪色と全く同じなのですよ」
エルダー卿が若かりし頃のゼフィーロ王を思い出して言った。
「そっか、どこかで見たような感じの娘ねって思っていたけど、アイリスとゼフィーロを足して二で割ったような感じの容姿だったのね」
二人の会話を聞きながら、侍女に化けている精霊ロゼがつぶやいた。
「ユーベル様、あなたはヴィオレッタ嬢が我らが王家の血を引く御方ということにいち早く気づかれ、お守りしようと考えたわけですね。いやあ、あなた様のヴィオレッタ嬢への接し方については、少々近すぎるというか、ええと、その……、曲がりなりにも隣国の王太子の婚約者に対してすることではないので、その……、本国に報告して指示を仰ごうと思っていたいたところにあの事件が起こってしまいまして……。いやいやしかし、そのような深謀遠慮があったとは! さすがはノルドベルク公ご自慢の文武両道の騎士でいらっしゃいます」
特使代表エルダー卿の賛辞にユーベルは戸惑った。
それからエルダー卿は、シュウィツア国王の甥ユーベルが存命であること、事件での彼の容疑が晴れたこと、そして、亡きエルンスト王子の血を引く子が存在したことなどを早馬にて故国に知らせたいことをフェーブル側に告げ許可を求めた。
フェーブル側が許可をすると、さらにエルダー卿は言葉をつづけた。
「さて、この度の事件はふたを開けてみれば、わが国の王家の血を引く二名の方がそちらの国の貴族に命を狙われた事件であります。それに関して我が国としてはまずこの事件の捜査のやり直し。もちろん徹底的に。そして処罰に対しても我が国が意見を述べることをお許し願いたい」
隣国シュウィツアからの再捜査の依頼と処罰に対しての口出しは、首謀者たちにとってはもはや言い逃れができないことを示していた。
「はは、マグノリアが未婚のまま腹が膨らんだと知ったときには、何か公にできない事柄が起こったことは察していたが、まさか隣国王子の種だったとはな」
ファイゲ代行が乾いた笑いをしながらぼやいた。
「夫になった俺にはかたくなに心を開かぬ高慢ちきな女であったよ」
「あなた様がヴィオレッタ様をないがしろにするようなことをおっしゃるからでしょうが!」
「はっ、身持ちの悪い娘の過去には目をつぶるから夫となった俺との間にちゃんと子を作って跡継ぎにするべきだと言ったが、それの何が悪い」
「そうやってヴィオレッタ様の御立場も慮らずご自分の都合ばっかり! だからこそ、マグノリア様は……」
ファイゲの亡きマグノリアを貶める発言にばあやこと子爵夫人が抗議した。
「はいはい、昔のことでの言い合いはそれまでじゃ。この男に逃げ場所などない、それでいいじゃろう。そうそう罪人たちにはまだ聞きたいことがあるから連行するのはちょっと待ってくれよ」
二人の言い合いに魔導士ウルマノフが割って入り言った。
「あの……、よろしいでしょうか? 私も国王陛下にお話ししたいことが……」
ウルマノフが話を始めようとした時、ヴィオレッタが遠慮がちに声を上げた。
「おお、そうじゃった。ここは淑女優先じゃな、どうぞどうぞ」
そういって、ウルマノフが自分の立っていた国王正面の位置をヴィオレッタに譲る。ヴィオレッタはウルマノフに軽く会釈をすると、国王の前に進み出て深くお辞儀をし言った。
「国王陛下にお願いの儀が二つございます」




