ヴィオレッタ出生の秘密(中編)
ひとしきり思い出し泣きをして気持ちが落ち着いた子爵夫人は再び話し始めた。
「子をお産みになられる決意の固いマグノリア様を見て、そのお父上の先々代公爵様も悩まれました。シュウィツア王家に御子を認知してもらうべきか否かと。しかしそれには話が真実である証明もいりますし、たとえ真実であると認められても当時のシュウィツア王家は継承問題で難しい事態に陥っておられました。王太子ご夫妻は結婚して十年以上たつのに御子ができず、逆に臣下となられた元王子様や王女様の夫妻にはどちらも男子が誕生されていました」
「僕の兄やホーエンブルク家のヨシュア殿ですね」
ユーベルが答えた。
「はい、シュウィツアの王位継承は混とんとしており、まだ御子ができる可能性に賭けている王太子派やそれぞれの公爵家の男子を後押しする派が静かにしのぎを削っていると旦那様から聞きました。そのような中、亡きエルンスト様の血を引く御子が存在すると知れれば、それを目障りと思う者もいるかもしれない、そうしたらマグノリア様は母子ともども危険にさらされます。旦那様は決断いたしました。マグノリア様はフェーブル有数の公爵家の跡取り娘であり、生まれてくる子は男女を問わずその次の代の後継者となる子である、と。隣国王家の血を引いていることを公にせずとも公爵家で守り育てていくことはできる、と」
子爵夫人は大きく深呼吸をした。
「旦那様は急いでマグノリア様の夫となる者を分家の中から探しました。すべてを承知して生まれてくる御子の仮父となってくれる者を」
「それでファイゲ殿が選ばれたのですね」
「はい、旦那様は結婚したのちの立場や財産の保証など破格の条件をたくさん付け、世間に知られない形でならば愛人を囲うことすら許しファイゲ様をお迎えしました。最初は許された範囲で散在し自由を謳歌していたファイゲ様でしたが、旦那様が病に倒れられた頃から横暴を極めるようになったのです」
「欲が出てきたというところでしょうか」
「下の者にそのお心は測りかねますが、旦那様が亡くなられてからは、派手なパーティや高級娼婦の身受けなど、公爵家の財政事情から考えればやりすぎというほどのことをされるようになり、さすがのマグノリア様もそれをお諫めすることがありましたが、そうすると他領より甘い領民への税制を厳しくすればいいとおっしゃる始末です。ファイゲ様には仮父となってくださった恩があるので、マグノリア様はいかなることにも黙ってこられたのですが、さすがに領地経営にまで口を出されては、条件を調整して離婚せざるを得ないと考えてもいたのです。私はそのお悩みをお聞きいたしましたからね」
「自分の欲得における散財のしわ寄せを領民に及ぼそうとするか、代々領民に慕われる経営をしてきた者としては許せなかったのだろな」
「しかしその矢先、マグノリア様も病に倒れあっけなくお亡くなりになりました。おひとりになったヴィオレッタ様を気遣うことなく、この男はかこっていた女を後妻として迎え今に至ります。私は随分、ヴィオレッタ様の扱いにファイゲ様や後妻の女に苦情を申し立てましたが疎まれ、成長したヴィオレッタ様には不要な存在とされ、公爵家を去らざるを得なくなったのでございます」
ばあや、と、小さくつぶやき、ヴィオレッタは何かを必死にこらえていた。
「ああ、お嬢様。本来ならこんな衆人環視の場ではなくしかるべき時と場所でお話しするべきでした。ただ、長らくお嬢様を虐げてきた男が父親面で罪を逃れようとするのを黙って見てはいられなかったのです」
子爵夫人はヴィオレッタに哀願するように語った。そして懐から何か紙の束を出した。
「こちらは本当のお父上である王子様からマグノリア様に送られたお手紙の束であります。マグノリア様はご自分の命が短いことを悟ると私にこれらをゆだね、お嬢様が成人した暁に真実を語ると同時に渡してほしいと言付かっておりました。成人まで少々早いですが、すべてを明かした今お渡しいたします」
その言葉を受けてユーベルが言った。
「そうか、マグノリア様からエルンスト伯父上あての手紙が残っていたのだから、その逆もあって当然ですね。あなたがお持ちだったのですか」




