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マリーの不思議な冒険  作者: 烏屋マイニ
マリーと魔界の王
38/40

ゲームの終わり

お見事(ブラボー)

 ルクスが拍手した。マリーはルクスに歩み寄り、彼に魔法の手鏡を返してたずねた。

「あまり口惜しがってないのね?」

「そんなことはないさ。ゲームに負ければ、誰だって口惜しい。でも、勝敗よりゲームそのものを楽しむことが大事なのさ」

 ルクスは言って、片目を閉じて見せた。マリーは、よくわからないわと言って、小さく首を振った。

「おめでとうって、言ってもいいのかな。今のマリーは、どっちのマリーでもあるんだろ?」

 ハリーは腕組みをして言った。

「そうね。でも、私たちはどっちも勝ったの。私は影を取り戻したし、あの子も欲しいものを手に入れたから」

「じゃあ、おめでとうだな」

 ハリーはにっと笑って言った。

「うん。ありがとう、ハリー」

「影が欲しがっていたものって、なんだ?」

 ジローがたずねた。マリーは少し考えてから答えた。

「あの子は――」マリーは首を振ってから、言い直した。「私は大人が嫌いだったの。大人のママは、いつも私を独りぼっちにして、私を寂しがらせるから、ママと同じ大人にはなりたくない、ずっと子供でいたいって思ってた。それなのに、私は化粧をして大人の真似をしようとした。だから私は腹を立てて、私から逃げ出したの。ママの口紅を、世界の果てに捨てようと思い付いたのは、その時よ。だって、ママの口紅は、大人になりたいって思う私の気持ちそのものなんだもの。それが永遠に失われたら、私はもう永遠に大人になれないから」

 マリーは息を飲んで、ルクスに目を向けた。

「世界の果てへ口紅を捨てるなんて、おかしな考えを私に吹き込んだのは、あなたね?」

「ゲームを始めるには、どうしたって開始のホイッスルが必要だろう?」

 ルクスは肩をすくめて言った。

「よくわからないな」ジローは首をひねった。「結局、お前は大人になりたいのか、なりたくないのか?」

「どっちもに決まってるじゃない」

 マリーが答えると、ジローは目をぱちくりさせた。

「でもね、大人になりたくないって気持ちは、勘違いだったの。私を寂しがらせていたのは大人じゃなくて、ママなんだもの。だから私はママを、私を独りぼっちにさせないママにするって私に約束した。私が本当に欲しかったのは、私を寂しがらせないママだから、私も自分が欲しいものを手に入れたの」

 マリーは首を振った。

「違うわね。自分が欲しいものを手に入れる。そのために頑張るって約束を手に入れた」

 ジローは鼻をひくひくさせながらマリーをじっと見て、それから小さく首を振った。

「やっぱり、人間は賢いな。賢すぎて、いろいろ難しく考えすぎるのが弱点だ」

 マリーは首を傾げて子兎を見つめた。

「つまり、お前はママが大好きなのさ」

「ええ、そうね。その通りだわ」

 マリーは笑いながらジローを抱きしめた。彼はやっぱり生ごみの匂いがした。

「さあ、子供たち。話が終わったんなら、そろそろ出ようか。いつまでも世界の果てのそばにいるのは、あまり気持ちのいいものじゃないからね」

 ルクスが鉄扉の前に立ち、親指で肩越しにそれを指した。マリーたち三人は頷き、ルクスが開けた扉をくぐった。


「終わったようだな」

 机の上から顔を上げて、老人は言った。マリーがぎょっとして振り向くと、そこには青い扉があるばかりで、ハリーもジローも、ルクスもいなかった。

「みんなは?」

 マリーはたずねた。

「それぞれの、いるべき場所へ戻った。お前もそろそろ帰るといい」

「でも私、まださよならも言ってないのよ。それに、ハロルドだって見つけてない」

 マリーは床をどんと踏み鳴らして抗議した。老人は眉をひそめ、マリーに扉の前からよけろと身振りで示した。マリーが一歩脇に避けると青い扉が開かれ、ルクスが顔を覗かせた。

「呼んだ?」

「この娘が、まだ帰りたくないと駄々をこねてな」

 老人は言って、小さく首を振った。

「まあ、そうだろうね」

 ルクスが当然だと言わんばかりに頷くと、老人はいぶかしげに片方の眉を吊り上げた。ルクスは説明した。

「あなたは時間を、ひとかたまりに見てるから分からないんだろうけど、僕たちは違うんだ。時間は季節や日々なんかで細かく区切られていて、あっちからこっちに流れて決して戻らないと考えている。だから、色んな出来事にけじめを付けないと、一歩も先へ進めなくなる」

「面倒なことだな」老人はマリーに目を向けた。「まあ、いい。待っているから、さっさと用事を済ませてこい」

「ありがとう、おじいさん」

 マリーは礼を言うが、老人は何も応えず、また机に向かい書き物を始めた。マリーはルクスと肩を並べて青い扉を抜け出ると、ぷりぷりしながら言った。

「あのおじいさん、ちょっと無愛想だと思わない?」

「そうだね」ルクスは苦笑を浮かべて同意した。「でも、彼がその気になれば、お別れを済ませた君を呼んで、家へ帰らせることも出来るんだ。でも、そうしないで待つって言ったのは、それなりに君を気に入ってるってことじゃないかな?」

 マリーはルクスをじっと見てから言った。

「さっぱりわからないわ」

「まあ、そうだろうね」

 ルクスは笑いながら、人差し指で頬をかいた。

「何の話だ?」

 ハリーがたずねた。それでマリーはようやく、自分が世界の果てと地獄を繋ぐ、石の廊下を歩いていることに気付いた。

「すごく説明しにくいことなんだ」

 ルクスは肩をすくめて言った。

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