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マリーの不思議な冒険  作者: 烏屋マイニ
マリーと二人の騎士
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真犯人

 扉がノックされ、エドとレイヴンが姿を見せた。

「いいところを見逃したようですね」

 エドはビルの姿を見て言った。

「そうでもないぜ、エド。まだ、ララバイが聞こえてこないからな」

 ハリーが言った。

「あなたの言うことは、よくわかりません」

 エドは眉間に皺を寄せて言ってから、ペイルに目を向けた。

「ついでに使用人と兵たちにも、黒騎士様の無実を伝えておきました。もうすぐ約束の日暮れですからね」

「ありがとう、エド。これで、ひとつ心配事が片付いたな」

 ペイルは大きく息を吐いた。

「伯爵。大方はエドから聞いたが、今はどう言う状況だ?」

 レイヴンが聞いた。ペイルは友人に、要点をかいつまんで説明する。全てを聞き終えたレイヴンは、床の上でうなだれるビルに「残念だ」と短く言ってから、再びペイルに目を向けた。

「私の領民が面倒を掛けてすまなかった。私は彼と一緒に、この犯罪に対する責任を負う義務があると思う。どうだろう、彼への罰は私と折半すると言うことにはできないだろうか」

 ドロシーをはじめとする彼の領民たちは、口々に不満を述べるが、レイヴンは折れなかった。ペイルはため息をつき、言った。

「まずは、彼の話を聞いてからにしよう。それによっては酌量の余地がないとも限らない。量刑も決まらないのでは、折半も何もないだろう?」

「もっともだ、伯爵。聞いたか、ビル。我々が負う罰は、お前次第だぞ」

 ビルは顔を上げ、ちらりと窓の外を見てから言った。つられてマリーも外を見ると、すでに日は落ち辺りは暗くなり始めていた。

「それには及びません、領主様。罰は俺一人で受けるし、こんな事をしたわけも、ちゃんと話します。実は、俺のアイディアじゃないんです。そこのマリーにそっくりな女の子に頼まれましてね」

 ドロシーがはっと息を飲み、ジローは舌打ちをした。マリーとハリーは顔を見合わせ、二人で大きなため息をついた。またしても影の仕業だったのだ。

「彼女は昨日の明け方、俺の家を訪ねて来たんです。その時の彼女はひどく怯えている様子で、俺がどうしたのかと聞けば、自分にそっくりなオバケに追われて困っていると答えました。最初は俺も、そんな馬鹿な事なんてあるかと笑い飛ばしたんですが、彼女は俺のベッドに潜り込んでくると、ぶるぶる震えながら俺に抱きついて来ましてね。そりゃあもう、ちっちゃくていい匂いのする娘だったんで、俺はすっかり彼女に夢中になって、どうにかして助けてやらなきゃと思うようになったんです」

 するとハリーは、マリーをじろじろ見てから言った。

「お前、同じ顔なのに、可愛さで負けてるみたいだぞ」

 マリーはハリーの向こう脛を爪先で蹴りつけ、ハリーは声を殺してうずくまった。彼らがふざけている間にも、ビルの話は続いていた。

「彼女には作戦がありました。まず彼女が村中でイタズラをして、次に俺が怒った村の連中をオバケにけしかけ、とっ捕まえてからひどいお仕置きをするって算段です。適当に痛めつければ、もう彼女を追いかけ回そうなんて気も失せるでしょうからね。日が昇ってから彼女はイタズラを始めました。俺は、頭に血が上った村の連中と一緒になって、彼女を追い掛け回しました。もちろん、彼女が捕まらないよう手を貸しながらですが、今思えば余計なお世話だったかも知れません。彼女は、手の平にちょっと余るくらいの小さな鏡を持っていて、それに映したものと同じ姿に変身できるんです。彼女は追い詰められると、その変身の魔法で別人になりすまして、簡単に追っ手を煙に巻いてました。それと、彼女は自分を目立たなくすることが出来るようなんです。例え目の前にいても、注意して見ないと彼女がいるとは気付けません」

「な、俺の言ったとおりだろ。あいつ、やっぱりいかさまを使ってるんだ」

 ハリーはジローに話しかけた。ジローは鼻をひくひくさせただけで、何も答えなかった。

「そうやって彼女は逃げ回りながら、オバケが教会に隠れていることを俺に教えました。俺はみんなを教会へ連れて行き、そこにいたオバケをイタズラ娘に仕立てあげました。ところが、そこへドロシーさんがやって来て、そいつを連れて行ってしまったんです。手ずからお仕置きをすることが出来なかったのは残念でしたが、領主様の裁きでもっとひどい罰を受けるに違いないと思った俺は、もう心配は要らないと彼女に教えました。でも、彼女はひどく腹を立てて言ったんです。ビル、あなたはしくじったのよ。あのオバケはきっと、領主様を丸め込んで私たちを捕まえに来るわ。そうなる前に手を打たなきゃ――ってね。そして彼女は、この計画を思い付いたんです。正直に言うと俺は、うまく行きっこないと思いました。伯爵様のお屋敷で盗みを働いて、それを領主様になすりつける。言うだけなら簡単ですが、どうやってもお屋敷に忍び込めるなんて思えません。そこで彼女は俺に思い出させたんです。自分の魔法を使えば、そのくらいのことは朝飯前だって。彼女は伯爵様と領主様に化け、まんまとメダルを盗み出して、その罪を領主様になすりつけることに成功しました」

 ビルは憎しみを込めた眼差しでマリーを見た。

「領主様が盗っ人として捕らわれれば、彼に守られていたそいつも身動きが取れなくなりますからね。その間に、俺たちは二人で遠くに逃げるつもりだったんです。でも、俺は失敗しました。もう彼女とは会えないでしょう。その代わり、彼女が逃げる時間を稼ぐことが出来ました。日暮れまでに俺が家に戻らなかったら、彼女は一人で逃げるって約束だったんです」

 全員が窓の外に目をやった。日没はとっくに過ぎて、外は夜の帳に覆われている。

「くそっ、ビルの家だ!」

 ハリーが天使らしからぬ悪態をつき、彼らはペイルの書斎を飛び出した。


 縄を打たれたビルを連れて、一行は彼の家の前に立っていた。カールが扉を開け、ランプで中を照らす。ベッドの上に伯爵のメダルがぽつんと置かれているだけで、鏡のマリーの姿はない。

「してやられたな」

 ジローが呟いた。

「ああ。全部、時間稼ぎだったんだ」

 ハリーは、入口に振り返って言った。カールがランプで照らすと、そこにはピンク色の文字が書き置かれていた。

「まぬけなビルへ。牢屋の中でも私を忘れないでね」

 ハリーは読み上げ、ビルに目を向ける。

「あいつにはめられたのは、あんたも一緒だったみたいだな」

 ビルは何も答えず、呆然と文字を見つめるばかりだった。

 マリーはドロシーの袖を軽く引っ張った。

「これ、ありがとう」

 借りていた手鏡を差し出す。ドロシーがそれを受け取ると、マリーは彼女にジローを返すように言った。ドロシーはじっとマリーを見つめ、彼女にジローを渡すと、膝を突いて二人をぎゅっと抱きしめ言った。

「気を付けてね、マリーちゃん」

 マリーはこくりと頷いた。ドロシーの髪は、ひどく懐かしい匂いがして、マリーは胸が締め付けられるように感じた。

「ジロー坊ちゃまは、怪我が治ったらお風呂に入ること。あなた、ちょっと臭うわ」

「考えとくよ」

 ジローは鼻をひくひくさせながら言った。

「ドロシーさん、俺は?」

 ハリーが目を輝かせて言った。ドロシーは苦笑しながら、彼も抱きしめた。

「あまりエッチな事をして、マリーちゃんを困らせちゃダメよ」

「ドロシーさん、知らないのか? 天使は嘘をつけないんだ。たから俺は自分に正直に生きてるのさ。あんたもそうした方がいいぜ」

 そして、ハリーは声を潜めて言った。

「ペイルさんのこと好きなんだろ?」

 ドロシーは顔を真っ赤に染め、ハリーの頭を小突こうとした。ハリーはひょいと身を躱し、意地悪く笑った。

「行くのか、マリー?」

 レイヴンが聞く。

「はい、領主様。お世話になりました」

 マリーはお辞儀をして言った。

「君には世話になった」ペイルが言った。「私は誓うぞ。君が困ったときは、君がどこへいようと絶対に駆けつけ、君の助けになる」

「私も誓おう」レイヴンは言った。「騎士の誓いは絶対なのだ。例えそこが地獄であろうとも、必ずや我々は君を助けに現れるだろう」

「ありがとうございます、領主様、伯爵様」

 お辞儀するマリーの脇腹を、ハリーが指で突いた。

「ほら、可愛さが足りないぜ。サービス、サービス」

 マリーは笑顔で頷いて見せてから、ジローをハリーに預けて二人の騎士に抱き付いて言った。

「ありがとう、騎士様たち」

 それから、彼女はちょっと考えてから付け加えた。

「大好きよ」

 白と黒の騎士は戸惑うように顔を見合わせ、それから楽しげに笑った。

「大好きはやり過ぎじゃないか?」

 ハリーは難しい顔をして言った。

「練習が必要だな」

 ジローが頷く。

「二人とも、やめて」

 マリーは顔を赤くして言うと、落書きされた扉のノブに手を掛けた。それから振り向いて、見送る人たちに手を振った。新しい冒険の始まりだった。

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