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マリーの不思議な冒険  作者: 烏屋マイニ
マリーと二人の騎士
15/40

暴かれた真実

「アベル、ダリル。来てくれてよかった」

 ドロシーが言った。二人はぺこりとお辞儀をして、伯爵の書斎に足を踏み入れた。

「すると、君たちがマリーの証人だな。昨日の夜、私の村でビルを見かけたのはどちらかね?」

 伯爵が言った。

「俺です、伯爵様。アベルと申します」

 アベルは緊張で顔を青くしながら言った。

「よく来てくれた、アベル。それで、彼を見たのはいつ頃かね?」

「カールが帰ってしばらく後のことです。詳しい時間はわかりませんが、ダリルなら証言できると思います」

 ダリルが頷くのを見てから、ペイルはカールに目を向けた。

「帰り道にビルと会ったかね?」

「いいえ、伯爵様」

 カールの答えを聞いて、ペイルはビルを睨み付けた。

「どう言う事か説明したまえ」

「簡単な事です、伯爵様。きっと、アベルのやつが見間違えたんでしょう。俺みたいな十人並みの顔なら、そんなことがあってもおかしくありません。おい、アベル。もし俺を見掛けたって言うんなら、なんで声を掛けてくれなかったんだ。俺は伯爵様の村で、お前に話し掛けられた覚えはないぞ」

「邪魔しちゃ悪いと思ったんだよ」

 アベルはもぐもぐと言った。

「この通り、アベルが見たやつが俺って証拠は無いってことです。残念だったな、イタズラ娘」

 ビルはにやにや笑って言った。

「あいつ、いやなやつだな?」

 ハリーは、ドロシーの腕に抱かれたジローに、こっそりと話し掛けた。

「俺は最初っから気付いてたぞ。あいつ、喰っちまっていいか?」

「我慢して、ジロー坊ちゃま」ドロシーが言った。「私も我慢してるの」

 仲間たちのひそひそ話を聞きながら、マリーは次の作戦を考えていた。いや、作戦はすでに出来上がっていた。ただし、それはレイヴンの無実を証明するためであり、ビルの嘘を暴くためのものではない。それには、もう一つ証拠が必要だった。

「マリー、君の証言にはまだ裏付けが足りないようだ。他にも証拠はあるかね?」

「はい、伯爵様」マリーはきっぱりと言った。「でも、その前に、ビルさんにちゃんと聞いて欲しいんです。昨日の晩、ホントに領主様を見たのかどうか。アベルさんが見間違えをしたのなら、ビルさんだってそうじゃないとは言えないでしょ?」

「なるほど、もっともだ」ペイルは同意した。「月明かりがあったとは言え、夜のことだ。ビル、本当に間違いはないのか?」

 ペイルはビルに目を向けた。

「見間違えようがありません。俺と違って、領主様はとても目立つ容姿をしておいでですから」

「でも、艀に乗るまで誰だかわからなかったって言ってたわ」

 マリーは指摘した。

「だから、もの凄い勢いで走ってたからだと言ったろう!」

「それでも、やっぱり変です。だって、艀に乗る前に、いっぺん船着場で止まらないと、領主様は川に落っこちてしまうもの」

 ビルを除く全員がくすくすと笑った。

「頭の悪い娘だな」ビルはいらいらしながら言った。「船着場には艀が着いてて、領主様はその上でようやく足を止めたんだ。最初っから、そう言っただろう?」

「まあ、そうなの?」

 マリーは目を丸くして聞いた。それから彼女は、ペイルに目を向けた。

「伯爵様が領主様を捕まえに行った時、艀はどっち側にありましたか?」

「私の領地側だが?」

 ペイルは訝しげに答えた。マリーは頷き、今度はカールに目を向けた。

「カールさんが伯爵様を見たときは、どっち側にありましたか?」

「伯爵様が仰ったとおりだ」

 マリーはペイルに視線を戻し、言った。

「伯爵様、これが私の証拠です」

 大人たちは、きょとんとした顔でマリーを見つめた。

 ハリーが、にやにやしながら言った。

「マリー、そこは『あれれー?』って言うのが正しい作法なんだ。次からはちゃんとしろよな」

 マリーは意味がわからないと言った。大人を相手にしゃべり続けたので、彼女はもうへとへとだった。これだけ言って、なぜみんなはわからないのだろう。

「おい、ボロ兔。人間って、思ってたより賢くないんだな?」

「それは大人だけだ。マリーは賢い」

 ジローはふんと鼻を鳴らした。

「ごめんね、マリーちゃん。この二人の言う通りよ。私たちに答えを教えてくれる?」

 ドロシーは申し訳なさそうに言った。マリーは気力を振り絞って口を開いた。

「伯爵様の村にいたビルさんが、カールさんより先にお家へ帰ったのなら、伯爵様は艀を引っ張り寄せてからじゃないと、領主様を捕まえられなかったはずです。でも、伯爵様もカールさんも、そうじゃないって言ってました。だから、ビルさんがカールさんより先に、船着場へ来ているはすが無いんです」

 大人たちはぽかんと口を開けた。

「それに、艀が伯爵様の領地側にあって、領主様が反対側の岸にある小屋の中にいたのなら、領主様は川を渡ってないことになります。川を渡ってないなら、伯爵様のお屋敷にも行ってないし、行ってもいないお屋敷から逃げ出すなんて出来ません」

 大人たちは、ほうとため息を吐いた。

「マリー」ペイルが言った。「ここに集まったボンクラな大人たちのために、君にはずいぶんと苦労をさせてしまったようだ。申し訳ない」

 そして彼は苦笑を浮かべて言った。

「私は男爵を逮捕するときに、目の前に転がっていた彼の無実の証拠を見逃していたと言うわけか。一番のボンクラは私だな。エド、急いで男爵に事情を説明してきてくれ」

「はい、伯爵様」

 エドは書斎を飛び出して行った。

「さて、ビル。偽証が罪であることは、君も知っているだろう」

 ペイルが言うと、ビルは真っ青になって一歩後ずさった。しかし、カールがその背後を固め、彼の肩に手を掛ける。

「観念しろ、ビル」

「うるせえ!」ビルはカールの手を振り払った。「艀の位置がなんだってんだ。そんなもん、誰かが使えば、どうにでも変っちまうだろ」

 ビルは目を血走らせて言った。

「いやあ、それが無いんだなあ」ハリーがにやにや笑う。「だってさ、俺とマリーとドロシーさんと、おまけのボロ兎でペイルさんの村の中をさんざん歩き回ったけど、昨日の夜に村の外を出歩いたやつなんて、ひとりもいなかったんだ。それに、アベルとカールとダリルは日が落ちた後、誰とも会っていないと言ってる。つまり夜になってから、あの艀を動かした奴はあんたたち以外にいないってわけさ。もちろん、男爵さんの村の誰かが、艀を使った可能性もあるわけだけど、結果は同じだと思うぜ。なんなら、今から村の人たちに話を聞いてこようか。あっちはペイルさんの村よりもずっと人が少ないから、大した手間じゃない」

 ビルは脂汗を浮かべながら、必死で考えた。そうして彼は何かを思い付いたように、はっと息を飲んで言った。

「艀を動かしたのは領主様だ。領主様は伯爵様のお屋敷で盗みを働いて逃げ出したんだから、追っ手を誤魔化すために艀の位置をずらすくらいのことはするだろう」

 どうだと言わんばかりに、ビルは部屋の中の人たちを見回した。

「しかし、ビル」ペイルは目をすがめて言った。「そうであれば盗品はどこにある。私が男爵を捕らえた時、彼は何も持っていなかったのだ」

「そりゃあ、小屋の中にいた女に渡したんでしょう。女はメダルを持って逃げ、領主様はロープを操り艀を反対側に移動してから、小屋の中に潜んで追っ手をやり過ごそうとした」

「やっぱり、こいつを喰うのはやめておこう」

 ジローが言った。

「好き嫌いはダメよ、ジロー坊ちゃま。あなたがやらないなら、私がやるわ」

 ドロシーは、ぎらぎら光る目でビルを睨みながら言った。

「けどな、ドロシー。こんな間抜けを喰ったりしたら、きっと馬鹿がうつるぞ」

 ジローに言われて、ドロシーはちょっと考えてから「それもそうね」と言った。

「お前たち、何を言ってるんだ?」

 わかってないのはビルだけだった。

「ドロシーさん。領主様に着せられた濡れ衣って、この事ですか?」

 カールが聞いた。

「ええ、そうよ」

 ドロシーは頷いた。

「領主様が盗みを働くなんて、濡れ衣にもなりゃしないだろう」

 アベルが笑いながら言った。

「出来の悪い冗談だな」

 ダリルが鼻を鳴らして言った。

「なあ、オジサン。なんで、メダルが盗まれたって知ってるんだ。ペイルさんは、このお屋敷で事件があったことを内緒にしてたし、俺たちが村で聞き込みをしたときも、そんなことは一言も言ってないぜ?」

 ハリーが言うと、ビルは目を大きく見開いてから、両手で口をふさいだ。

「みんな忘れてるわ。ビルさんは、もっと前に白状してるのよ」

 マリーが言うと、全員が彼女に注目した。

「まさか俺の見たことが領主様の犯罪を証明することになるなんて、思っても見なかったんだ」

 マリーはビルの口真似をして言うと、ペイルに目を向けた。

「伯爵様は、ここで犯罪があったなんて、ビルさんに言いましたか?」

 ペイルは首を振った。

「だから私は、うそつきって言ったんです」

 それで、とうとう観念したビルは、がくりと膝を折って床に座り込んだ。

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