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マリーの不思議な冒険  作者: 烏屋マイニ
マリーと二人の騎士
12/40

捜査開始!

「伯爵、君の領地では囚人に白パンを食べさせるのか? これでは美味い食事をあてにする犯罪者が増える一方ではないか」

 黒騎士は、振り返るなり友人に抗議した。

「君はまだ囚人ではないよ、男爵。それよりも、君の助けになると思って探偵を連れてきたんだ。彼らの捜査に協力してくれないか」

 マリーたちが部屋に入ると、レイヴンはドロシーの姿を認めて言った。

「心配を掛けてすまない、ドロシー」

 ドロシーは首を振った。

「日記帳のことについて聞きたいんだけど、いいかな?」

 と、ハリー。

「もちろんです、天使様」

 レイヴンは畏まって言った。

「ハリーでいいってば」ハリーは渋い顔をした。「昨日、男爵さんがマリーから日記帳を受け取ったあとのことを、詳しく話して欲しいんだ」

 レイヴンは頷き、話し始めた。

「私は屋敷を出て、すぐに伯爵を追い掛けたのだ。年は食っているが、これでも脚には自信があってね。私は船着場の側で首尾よく彼を捕まえ、日記帳を手渡した」

「しかし、私は君の偽物が現れるまで、日記帳は受け取っていないのだ」

 ペイルが言うと、レイヴンは頷き彼の言い分を認めた。

「おそらく賊は君にも化けていたのだろう。私から日記帳を受け取った偽物の伯爵は、内密の話があるから小屋に隠れて待っているようにと言った。国家に対する重大な犯罪の証拠を、手に入れたと言うのだ。何も知らない私は少しも疑わず、小屋に身を潜めて君を待っていた。そして私は、君たちに捕らえられたと言うわけだ」

「なんとも、ずる賢いやつだな。そいつをとっ捕まえれば、男爵さんの無実も一発で証明できるんだろうけど、どうやって探せばいいのか、見当もつかないや」

 ハリーが泣き言を言った。

「偽物の領主様が、どっちへ逃げたか見てた人はいないのかしら」

 ドロシーが呟くと、ハリーはパチンと指を鳴らした。

「それだ。村へ聞き込みに言ってみよう」

「ちょっと待ってくれ」

 さっそく部屋を出て行こうとするマリーたちを、ペイルが呼び止めた。

「聞き込みについては賛成だが、ここで起こった事件については内密にして欲しいのだ。兵や屋敷の使用人たちにも同じことを命じているし、彼らは日暮れまで屋敷から出ないことになっている」

 ペイルはちらりと男爵を見て続けた。

「人は疑わしいと言うだけで、その者を犯人とみなす癖があるからな。無実の男爵が犯罪者呼ばわりされるのは我慢ならん」

「わかってるよ、ペイルさん」

 ハリーは請け合った。

「それに、事件について細かいことを知ってるか知らないかも、大事な証拠になるんだ。ぺらぺらしゃべって、それを台無しにするつもりはないよ」


 村へ着いてわかったのは、ハリーが聞き込みには向かないと言うことだった。話し掛けられた人たちは大抵、恐縮してしまってまともに話せなくなってしまうからだ。

「いっそのこと村の真ん中でピカピカ光りながら、知ってることを全部話せって命令してやろうかな」

 ハリーはいらいらしながら言った。マリーは面白そうだと賛成したが、ジローに止められた。

「盗み食いをしましたとか、お祈りを忘れましたとか、つまらない懺悔話(ざんげばなし)を山ほど聞くことになるぞ」

 するとドロシーはマントを脱いで、それをハリーに掛けた。

「羽根さえ隠しておけば、ちょっときれいな男の子にしか見えないでしょう?」

 それから彼女はマリーに目を向けて言った。

「手分けして聞いて回った方がいいと思うの。この村は広いし、時間も惜しいわ」

 彼らはその場で別れ、それぞれ聞き込みを開始した。しかし、マリーはすぐに、目撃者を見つけ出すことが、ほとんど不可能であることを知った。日暮れともなれば、大抵の人たちは夜盗や獣を恐れて村から出ようとはしないし、ペイルの屋敷は村から少々離れた場所にあったからだ。

「悪いな、お嬢さん。日が沈んだ後は、ずっと酒場にいたんだ。村の外どころか、ジョッキの外にだって大して注意を払って無かったからな」

 マリーが捕まえた赤い鼻の男は、申し訳なさそうに言った。しかし、しょんぼりして立ち去ろうとするマリーを、彼は呼び止めた。

「そうそう、思い出した。男爵様の村のやつが飲んでるのを、見かけた気がするんだ。ありゃあ、アベルとカールとダリルだったかな。あんな時間に酒場にいたんなら、帰り道で何か見てるんじゃないか。なんと言っても、あいつらは村を出なきゃ家に帰れないだろ?」

 マリーは礼を言うと、ハリーとドロシーを捕まえて、レイヴンの領地の村へ行こうと提案した。彼らから異論は出なかった。この村では、それ以上の手掛かりが得られそうにないことを、二人も知っていたのだ。

 川を渡ると、そこには運良くアベルがいた。

「こんにちは、ドロシーさん。おいらのために、艀を運んでくれたんですか?」

「ええ、そうよ」

 ドロシーはアベルの冗談にくすりと笑って見せてから、本題を切り出した。

「昨日の晩のことですか? 帰り道じゃ、誰とも会いませんでしたね。まあ、ひどい目には遭いましたけど」

 アベルは渋面を作った。

「何があったの?」

「艀がこっちの岸にあったんで、ダリルと一緒に引っ張り寄せてたんです。ところがおいらは、そこそこ飲んで酔っ払ってたもんだから、足を滑らせて川に落っこちてしまいまして。おかげで、ダリルに引っ張り上げてもらった時には、すっかり酔いが覚めちまいました」

「カールさんは一緒じゃなかったんですか?」

 マリーは聞いた。もちろん、今は大人の姿でだ。

「あいつは、おいらたちより先に帰りましたよ」

「時間はわかりますか。みんなで飲み始めて、帰るまでの?」

「飲み始めたのは酒場が開いてすぐですよ、お嬢さん。日没のちょっと前になりますかね。帰りは覚えてません。なんせ酔っ払ってたもんで」

 アベルは眉間に皺を寄せて、しばらく考えた。

「思い出した。帰り道じゃありませんが、村の中で知った顔を一人、見掛けましたよ。ありゃあ、間違いなくビルです」

「いつ?」

「カールが帰って少し経ってからですかね。おいらは一度、しょうべ……」カールは女性たちの前であることを思い出し、言い直した。「ちょいと自然に呼ばれて、酒場の外へ出たんです。やつを見掛けたのは、その時でした。声を掛けようかと思ったんですが、それは野暮ってもんだろうと思い直してやめときました。だって、夜に自分ちでも酒場でも無いところを、うろついてるとなったら、大抵は女……」

「もう結構よ、アベル。とても助かったわ」

 ドロシーが礼を言うと、アベルは愛想よく笑いながら艀に乗って、向こう岸へと渡って行った。

「時間なんて聞いてどうするんだ?」

 ハリーが訝しげな顔で聞いてくる。

「ちょっと思いついたことがあるの。村へ行ってダリルさんを探しましょう」

 村でダリルを捕まえたマリーは、アベルにしたのと同じ質問を彼に投げかけた。彼はアベルほど酔っ払ってなかったので、酒場でのことをよく覚えていた。

「給仕がテーブルの蝋燭を足しに来たのが一回で、カールはその時に帰りました。俺とアベルが帰ったのは、新しい蝋燭が燃え尽きた頃だから、二時間くらいは飲んでた計算になりますかね」

「ありがとう、ダリルさん。とっても助かったわ」

「お役に立ててよかったです」

 ダリルは、にこりともせずに言って立ち去った。

「次はどうするんだ?」

 マリーの考えを理解できないハリーは、少しいらいらしている様子だった。ドロシーも、マリーが無駄なことに時間を費やしているのではないかと、遠回しに不服を口にする。

「わたしもまだ、はっきりこうだとわかってるわけじゃないの。でも、どこにいるかもわからない犯人を追いかけるより、確実に領主様の無実を証明できると思うわ」

 それで二人は、渋々ながらもマリーの考えに付き合うことを承知した。

 次にマリーはカールを探し、彼を麦畑の側で見つけた。農夫は、無残になぎ倒され奇妙な模様を描く青い麦を、しょんぼりと眺めていた。

「こんにちは、カール」

 ドロシーが声を掛けると、彼は思いもよらぬ行動に出た。背中を見せて走り出したのだ。マリーは抱いていたジローをドロシーの胸に押し付けると、全力で走って彼を追った。カールはさほど俊足と言うわけではなかったが、それでもスタートの差を埋めるのは、なかなかに骨が折れた。ようやく追い付くと、マリーはえいと声を上げて地面を蹴り、カールの腰に飛び付き彼を地面に押し倒した。

「大人しくして!」

 じたばたともがくカールに馬乗りになって、マリーは言った。しかし、彼女はたちまち光に包まれ、子供の姿に戻ってしまった。時間切れだった。

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