奪取
俺が職業を奪おうとしているのを感じ取ったのか、トロールはぎろりとこちらを振り返る。しかし魔物以外には危害を加えないよう命令が出ているのだろう、攻撃してくることはない。
さらに力をこめると、徐々にトロールと職業を繋ぎとめている何かが緩んでいく。
そして。
ついにトロールの「奴隷」が一つ俺の手元へとやってくる。
「!?」
その瞬間、トロールの表情が変化する。
「奴隷」による支配が緩んで野生に戻りかけたのだろうか。
俺はさらにトロールの職業を奪おうとする。するとトロールの方も俺に職業を奪われた方がいいと本能的に気づいたのだろうか、前回ほどの抵抗はなくなる。
「これで終わりだ!」
俺が一際力をこめると、トロールの中に入っていた「奴隷」「使用人」系の職業が全て俺の手元にやってくる。
完全に公爵の支配から解き放たれたトロールは「うおおおおおおおおおお!」と咆哮をあげてダンジョンの中へと入っていった。
おそらくリオナへの恨みよりも自由になりたいという気持ちの方が勝ったのだろう。
「おい、何をしている!?」
それを見てさすがに兵士の方も俺が何か良くないことをしていると気づいたのだろう。
が、彼が俺を止めようとこちらに駆け寄ろうとして逆に近くにいたリンに体を押さえつけられる。
「な、何をする!?」
「動かないでください!」
兵士もおそらくそれなりの使い手ではあるのだろうが、リンたち三人に囲まれてはどうすることも出来ないようだった。
リオナも俺の行動に気づいてはいるが、ボスドラゴンのヘイトは完全にリオナ一人に向いており、こちらに手出しする余裕はない。
その隙に俺は次にオーガから職業を奪う。オーガも最初は大変だったが、一つ職業を奪って支配が緩むとやがて簡単に職業を手放すようになった。
そしてオーガも自由を得ると、そのままダンジョンの奥へと消えていく。
そこへ敵が減ってフリーになったワイバーンが襲い掛かってくる。
「グアアアアアア!」
「邪魔をするな!」
俺が剣を振るうとワイバーンの腕は根元から切断される。
最近職業を集めていたが、今も一気に職業を得て俺はさらに強くなっていたらしい。
「何だあの強さは……」
それを見て俺を止めようとしていた兵士も青ざめる。
次の標的はリザードマンだ。
リザードマンはトロールやオーガよりも動きが素早いので追いづらい。しかも俺が職業を奪おうとするとことさらに俺から逃げようと体を動かして抵抗してくる。
「くそ、お前を自由にしてやろうとしているんだ!」
俺が叫ぶと、リザードマンの耳にも俺の言葉が届いたようで、少し大人しくなる。
本来リザードマンは人の言葉を理解しないが、これも職業を埋め込まれた影響なのかもしれない。
ようやく大人しくなったリザードマンからも俺は職業を抜き取る。
リザードマンも同じようにその場を去っていった。
「よくもやってくれたわね!?」
それを見てリオナがこちらへかけてくる。
ドラゴンはどうしたのかと思ったが、見ると、翼に大きな傷を負って魔力の綱で縛られている。一人でドラゴンの行動を完全に封じてしまうとは相変わらず出鱈目な力だ。
やはり彼女と魔物軍団がフリーの状態で敵に回せばかなりの苦戦を強いられただろう。
「私が戦っている間に魔物を逃がすなんて……素直についてくるというならそれでいいと言われていたけど、手向かうなら痛い目を見せてやらないといけないようね」
そう言ってリオナが俺に剣を向ける。
「プロテクション!」
そこへ横からティアの防御魔法が飛んできて、俺とリオナの間を阻む。
「くっ、小癪な!」
リオナの剣が防御魔法を打つときしむような音を立てるが、壊れない。
ティアの魔力がすごいことや職業の強化がすごいのは確かだが、さすがのリオナもドラゴンの動きを封じる魔法をかけながら戦うと全力は出せないのだろう。
「ありがとう!」
俺はその隙にバジリスクに駆け寄り職業を奪う。
「だめ、抵抗しなさい!」
リオナは叫ぶが、バジリスクも他の魔物が解放されているところを見て彼の心の中にも自由への渇望が芽生えてきているのだろう。
俺が力をこめると、職業は次々と剥がれていく。
そして最後の一つがなくなると、ダンジョンの奥へと消えていった。
「そんな……」
それを見てリオナは呆然とする。
主人の命令が果たせなかったことに対する絶望なのか。
それとも、自分だけ解放されなかったことに対する絶望なのか。
「今度こそ、お前も自由にしてやる」
そう言って、俺は再びリオナに力を使ってみることにした。




