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レッド・ドラゴン

 それから数日で俺たちはさらに深い階層へと進み、ついに十七層までたどり着いた。ここまできている冒険者パーティーは街全体で見ても数えるほどしかいない。


 とはいえさすがにここまでやってくると俺たちも一階層ごとに体力を使うので、なかなかとんとん拍子の攻略という訳にはいかなくなっていた。それはトロールの方も同じで、最近は抜きつ抜かれつになり、妙なライバル意識すら芽生えている。


 十七層はこれまでのダンジョンのイメージとは異なり、開けた山肌のようになっている。そして周囲を大きな翼をはためかせてワイバーンやグリフォンが飛び交っている。俺たちが歩いてくるのを見ると一羽のグリフォンが急降下してくる。


「エンチャント!」


 それを見てすぐにティアが強化魔法をかけ、


「アルケミー・ボム」


 フィリアは錬金術の攻撃魔法を放つ。これも「錬金学者」の職業を得てから使えるようになった魔法らしい。

 フィリアが生み出した砲丸のようなものがグリフォンに向かって飛んでいき、盛大に爆発する。


 並みの魔物なら一撃で倒せる威力だが、グリフォンは翼を使って爆風をガードする。

 その隙にリンはグリフォンの背後に回り、背中を滅多突きにする。リンも強化値が上がってきたおかげで動きが早くなり、一秒の間に何度も突きを入れる。

 さしものグリフォンも悲鳴をあげて嘴で反撃しようとするが、ティアが防御魔法で防ぐ。


「終わりです!」


 反撃に転じて隙が出来たところをリンの剣が襲い、胸元を一突きにする。

 さすがに急所を突かれるとグリフォンも断末魔をあげてその場に落下した。


 そんな感じで襲ってくる敵を倒しながら山を進んでいく。先ほどはリン一人でどうにかなったが、連戦になったり、複数の敵が出てきたりすると俺も敵と戦った。やがて山頂に岩で囲まれたエリアが広がっているのが見える。

 それを見てフィリアが口を開く。


「ドラゴンは自分の縄張りにこのように印をつけるらしいわ」

「ということはこの奥は今までで言うボス部屋になっているということか?」

「恐らくね。そろそろレッサードラゴンぐらいなら出てもおかしくないわ」

「よし、気を引き締めていくぞ」


 十一層、十二層を攻略していたころは強化直後ということもあって無双のような状態だったが、そろそろそうも言っていられない。

 俺たちは警戒しながら岩をどかしてなわばりに入っていく。


 頂上には見晴らしの良い平地が広がっており、一瞬ここがダンジョンの中であることを忘れそうになる。

 だが、岩場のところどころにはドラゴンが集めたと思われる財宝や、狩ってきたと思われる動物の死体が転がっている。


「危ない!」


 突然、頭上からとんでもない殺気を感じたので俺は叫ぶ。


「プロテクション!」


 反射的にティアが俺たちを覆うように防御魔法を張る。


「バリア・エンチャント!」


 フィリアもすぐに防御魔法を強化する魔法を発動する。

 その直後、凄まじい量の炎が俺たちに襲い掛かる。

 轟音と共に防御魔法は炎に包まれ、中にいる俺たちまで熱量で肌がちりちりと焦がされるようだった。


 やがて炎が消えて防御魔法を解くと、頭上には真紅の鱗に覆われたレッサードラゴンが悠然と飛んでいるのが見える。


 いや、あれはレッサードラゴンなどではない。

 レッド・ドラゴンと言われる炎属性のドラゴンだ。ドラゴンは俺たちが炎のブレスを受けてもぴんぴんしているとみると、矢のようにこちらへ急降下してくる。


「エンチャント!」


 すぐにティアが俺たちの武器を強化する。

 強化のおかげか、魔力を多めに消費すれば一度にたくさんの魔法を使えるようになったらしい。


「ウォーター・バリア」


 フィリアはレッド・ドラゴンに向けて水属性の防御魔法を展開する。ドラゴンが突っ込むと水のバリアはすぐに霧散するが、一瞬動きが鈍くなる。


「リン、翼を狙うぞ!」

「はい、ご主人様!」


 レッド・ドラゴンの体表を覆う鱗は固く、俺たちの攻撃でも一撃で貫けるかは分からない。しかし翼の方はそこまででもない。


 俺は翼の下から全力で刺突する。

 ズブリ、と言う手ごたえとともに翼に剣がめり込んでいく感触があった。

 反対側でもリンの連撃で翼から体液が流れているのが見える。

 すぐにレッドドラゴンは翼をはためかせて高度を上げようとするが、翼が傷ついたせいか一瞬動きが遅れる。


 そこへ今度は翼の付け根部分に剣を叩き込む。

 固い感触があったが、剣がめりこんでいく。すぐにドラゴンは翼を動かして振り払うが、付け根部分からはぼたぼたと体液が流れていた。


「ポイズン!」


 そこへフィリアが毒魔法を発射する。

 通常であれば大したダメージはないのだろうが、傷口が広がっているところから毒が侵入していった。

 一方のドラゴンはかぎづめを振るって俺たちに反撃しようとする。


「プロテクション!」


 が、ドラゴンの反撃はすぐにティアの魔法により防がれる。

 その隙に俺たちはドラゴンから距離をとった。

 ドラゴンは毒のせいか、げほげほとせき込みながら俺の方へと牙を向けてくる。俺も剣を向いて応戦し、


 ガツン、と音を立てて俺の剣と牙が交差する。

 武器屋で買った一番大きな剣にフィリアの強化が施されているため、ドラゴンと戦っても折れることはない。

 苛立ったドラゴンはすぐにもう一撃を繰り出してくるが、俺はそれも剣で受ける。

 さらにその間に鉤爪でティアやフィリアを狙うが、その攻撃はリンがいなしていた。


 時折攻撃が当たりそうになるとティアの防御や回復魔法が飛び、フィリアは隙を見て毒魔法を傷口に挟む。

 ドラゴンという最強クラスの相手と戦っている割には地味な持久戦となっていくが、刻々と相手の体力が削られていく。


 やがて苛立ったドラゴンは俺たちから距離をとると、一か八かの一撃のつもりか、大きく息を吸ってブレスを構える。


「ブレスが来るぞ!」

「はい、プロテクション!」

「ウォーター・バリア!」


 俺たちの前に二重のバリアが張り巡らされ、灼熱のブレスが襲いかかる。

 しかし最初のブレスに比べて毒と疲労で明らかに威力は落ちていた。が、ティアとフィリアの防御魔法は全く威力が衰えていない。

 ブレスを吐き終えたドラゴンは俺たちが無事でいることに驚いたが、時既に遅し。


「覚悟!」


 力を使い果たして動きを弱まったところで、俺は剣を喉元に叩き込む。

 ガツン、と重い感触があったかと思うと次の瞬間には剣が鱗を砕く。


「グェッ」


 ドラゴンは鈍い悲鳴を漏らし、剣は少しずつ沈んでいった。

 ドラゴンは最後の抵抗とばかりに体をばたつかせ、俺は危うく吹き飛ばされそうになるが、懸命に喉元に剣を突き立てたまましがみつく。


 やがてドラゴンは力を使い果たして動かなくなった。


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