フィリアの決心
「じゃあ俺たちも行くか」
先ほどのトロールは不気味ではあったが、俺たちの冒険に何か関係がある訳でもない。トロールと言えどもダンジョンのルールには従わなければならないだろう、兵士は初心者冒険者と同じ入口へ入っていく。
俺たちは転移石持ち専用の入り口へと入っていき、六層の始めまで転送されていく。
「ひっ」
「こ、ここは不気味ですね……」
六層を進んでいくと、地面には至るところに骨が転がっている。骨の形状や大きさも様々で、動物らしき物から人間の物としか思えないものまで様々だった。
俺も声こそ上げなかったが不気味に思う気持ちは変わらなかった。
そこへ、前方がらがしゃがしゃという音が聞こえてくる。
そちらを見ると、鎧をまとい武器を構えた人型の骸骨がこちらに数体歩いていく。聞いたことはあるが、あれがスケルトンか。
体が骨で出来ているため、痛覚がなく、防御力が高いらしい。
「よし、戦うぞ」
「はい……ホーリー・ライト!」
ティアがこれまでにない魔法を発動すると、聖なる光が周囲に広がっていく。
すると光に包まれたスケルトンたちの動きが止まる。
「そう言えば白魔術師はアンデッドの動きを封じる魔法を使うことが出来るんだったな」
「はい、これまで使う機会はなかったですが」
動きが弱まったスケルトンたちに向かってリンがいつものように矢のような速さで駆けていく。
そして次々と剣を振るっていった。
すると、スケルトンたちの骨はまるで小枝でも斬るようにスパスパと切れていく。それを見て俺はさすがに驚いた。
そして同じく傍らで驚いているフィリアに尋ねる。
「おい、スケルトンってこんなに弱かったか? 一応六層の魔物だろ?」
「そんなはずはないけど……恐らく光魔法で弱体化も入っているんじゃないかしら」
「あれはそんな万能なのか?」
「そんな訳はないわ……まあ、使い手が普通の魔術師だったら、という話だけど」
フィリアは含みのある言い方をした。
「え?」
「きっとティアさんの魔力と職業補正のおかげで魔法の効果も大幅に強化されているわ」
「そういうものか」
やはりフィリアは俺たちが何らかの普通じゃない力を持っていることを確信しているのだろう。
「終わりました!」
そこでリンが「お使いから戻りました」ぐらいの軽いテンションで報告してくる。
「お、おお、よく頑張ったな」
「えへへ」
そう言って嬉しそうに笑うリンは、とても今さっきまでスケルトンを瞬殺して回っていた少女には見えない。
それから俺たちはティアとリンの力でスケルトンを倒して進んでいった。中には人型ではない、動物や魔物の骨で出来ていると思われるスケルトンたちもいたが、ティアの魔法の前には無力だった。
そして俺たちは瞬く前にボス部屋に辿り着く。
中にいたのは、俺たちの数倍の大きさがある、巨大な象のような魔物のスケルトンだった。
「ホーリー・ライト」
これまでと同じようにティアが聖なる光を浴びせる。
スケルトンは光に包まれたが、体が大きいと力も強いのか動きが完全に止まることはない。ガタガタと骨を揺らしながらこちらへ巨体を動かして襲い掛かってくる。
「スリップ!」
フィリアが転倒魔法をかけるが、体が大きすぎて効果がない。
リンはいつものように斬りかかっていくが、カン、と甲高い音を立てて剣は弾かれる。一応骨にもひびが入っているからダメージはあるのだろうが、さすがにボスはこれまでとは同じようにはいかないらしい。
「さすがにそろそろ俺も仕事をするか」
俺も剣を抜いて前に出る。
「エンチャント!」
そこへティアも強化魔法をかけてくれる。
さすがにホーリー・ライトのごり押しだけではきついと見て本来の役割に戻ったらしい。
俺とリンの武器が彼女の魔法により強化される。
「ファイア・ボルト!」
そこへさらにフィリアの魔法が飛んでくるが、スケルトンの骨を少し焦がしただけだった。やはりフィリアの魔法では威力が足りないか。
「いくぞ、リン!」
「はい!」
俺たちは左右から同時に斬りかかる。
するとガキッ、という鈍い音とともにスケルトンの骨に俺たちの剣が食い込んだ。するとスケルトンは俺たちを振り落とすように体を震わせる。
「残念だがその程度では無駄だ!」
さらに俺が腕に力をこめると、剣はそのまま骨に食い込んでいき、ボキリと音を立てて骨が切断される。すると俺はスケルトンの背骨の内側のようなところへと落ちていった。
反対側でも、リンが骨を一本切断している。
「喰らえっ」
俺は今度は内側からスケルトンの骨に斬りつける。
すると外側からの斬撃には強かった骨たちは、今度はぽきぽきと折れていく。それを見てリンも自分が作った穴から内側へと降りてくる。
スケルトンは俺たちを振り落とそうと懸命に動き回る。多少揺さぶられた程度では俺たちの動きは止まらない。
「プロテクション!」
ティアは自分にぶつかりそうな時だけ魔法で突進を防いでいた。
その間に俺たちは体内からスケルトンの骨を次々と折っていき、やがて動きが止まる。
「ふう、さすがにボスは手ごたえがあったな」
「はい、これはさすがに一人では無理でしたね」
「お二人とも、無事でしたか?」
「ああ、大丈夫だ」
俺たちはしばし勝利の余韻に浸る。
それを見てフィリアはじっと何かを考えていた。
今回の戦いではフィリアの魔法は率直に言えば役に立たず、ティアに守られるだけの存在となっていた。それを見て改めて力の差を実感したのだろう。
もちろん、パーティーメンバーじゃないからそれを気にする必要なんてないのだが。
が、やがて彼女は真剣な表情でぽつりと言った。
「私も、パーティーに入れてほしい」




