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強化

 その後、俺たちは意気揚々と宿に引き上げた。

 とはいえ、今回の冒険である意味一番大事なことはまだ終わっていない。


「さて、今回集まった職業で『強化』を行おうと思う。ディグルのパーティーからもらった分の他に、これまでギルドで集めたものをまとめて使おうと思う」

「「はい」」


 二人はごくりと息を呑む。もしかしたらまた職業が進化するかもしれないのだ。


「まずはリン。今は剣士が三つもあるからこれを使って強化する」

「はい」


”「剣豪奴隷(+10)」は「剣豪奴隷(+52)」に強化されました”


 以前は剣士一つで+10しか強化されなかったが、俺のレベルが上がったおかげか、一つにつき+14も強化されるようになっている。


 しかし、今回は逆に強化値が+50を超えても進化していない。やはり剣士奴隷は下位の職業だから進化しやすかったが、上位になっていくにつれて進化しづらくなっていくのだろうか。

 とはいえ強化値が42まで変わればそれなりに強くなっているだろう。


 強化が終わるとリンは目の前で剣を振ってみる。


「すごい、前よりも剣が軽くなったような気がします!」

「強くなったようで良かった」


 前に比べて俺たちは強くなりお金も増えたので、「剣士」を集めるのも随分楽になった。だから次の職業にもすぐに進化できるだろう。


 俺は次はティアの強化を行うことにする。

 ティアのために使えそうなのはあの男からもらった「魔術師」と、「メイド」×2だけだ。「メイド」であればギルドよりも街で呼びかけた方が集まるかもしれないな、と思いつつ俺はまず「魔術師」を使って強化を行う。


”「メイド魔術師(+14)」は「メイド魔術師(+33)」に強化されました”


 やはり「魔術師」は「メイド」よりも強化値が大きいようだ。

 続いて「メイド」を二つ一気に合成する。


”「メイド魔術師(+33)」は強化の結果、「メイドウィザード(+13)に進化しました」”

”あなたのレベルは10に上がりました”


「やった、職業が進化しました!」

「良かったな。何が強くなったのか分かるか?」


 剣士とか剣豪ならば身体能力と剣技が上がるのは分かるが、魔術師系統だとどうなるのだろうか。

 ティアはしばらく魔力を集めたり小さい魔法を使ってみたりしていたが、やがて答える。


「魔力が増えたのはもちろんですが、今まで使えなかった魔法や、より強い魔法が使えるようになりました」


 より強い魔法というのは強化された防御や回復のことだろう。


「使えなかった魔法というのは例えば?」

「石化や呪いといった特殊な状態が治せるようになり、他には攻撃魔法が少々使えて、あとは細かい魔法がいくつかという感じですね」

「なるほど。それは次の戦いが楽しみだな」

「はい。今日は初日だったので、魔力的なことだけでなく立ち回りもうまくなりたいです」


 ティアは割と頭が良さそうだから、状況に応じて最適な魔法を選ぶ魔法職は向いているのかもしれない。


 が、そこでほっとしたせいか、俺は急に眠くなる。今日もダンジョンを普通に攻略してその後にドラゴンを二体も倒したのだから疲れるのも仕方ない。

 きっと強化を終えて今日の仕事は全部終わったと体も判断してしまったのだろう。


「悪い、ちょっと疲れたせいで眠くなってきた。悪いな、せっかくお金が入ったからおいしいものでも食べにいこうと思ったのに」

「いえいえ、ゆっくり休んでください」


 俺はそのままベッドに横になると、すぐに寝入ってしまった。




 それから少しして、俺は目が覚める。早めに寝てしまったので早めに目が覚めてしまったのだろうか。

 体を起こすと、ふと部屋の中からいい香りがする。


「すみません、もしかして起こしてしまいましたか!?」


 俺が起きていくと、ティアが申し訳なさそうな顔をする。てっきり二人も部屋に戻って休んでいるかと思ったが、二人ともまだ俺の部屋にいた。

 そして部屋のキッチンからはおいしそうなにおいが漂ってくる。


「いや、多分早く寝過ぎたせいだ。それよりもこれは一体……?」

「はい、せっかくメイドの力もいただいたので魔法ばかりではなくそれもいかしてみようかと思いまして」


 確かにティアのメイドの力は単なる強化に使ってみたが、言われてみれば本来の役目は家事だ。


「そしたらリンさんも手伝うと言ってくれて」

「わ、私もティアさんには負けてられませんから」


 やはりリンはティアに対してどこか対抗意識を燃やしているところがある。それで手伝ってくれたのだろうか。


「ありがとう。それで何を作ってくれてるんだ?」

「はい、ダンジョン牛の肉を煮込んだシチューと、ダンジョンで採れた野菜のサラダです」

「ダンジョンではそんなものまでとれるのか」


 俺は武器や防具、薬になりそうな魔物の部位以外は無視していたが、ダンジョン内には様々な用途に使えるものが採れるらしい。


「はい、いい食材を探していたところ勧められまして。お肉はかなり絶品らしいですよ……リンさん、どうですか?」

「そ、そろそろ食べられそうよ」

「それは良かったです。本当は明日の朝にでもゆっくり食べようと思ってましたが、それなら今食べましょう」


 そう言ってティアはシチューを、リンはサラダをそれぞれ取り分けてくれる。シチューには牛の肉の他に、今まで普通に食べてきた野菜もいくつか入っていた。


 ダンジョン牛はうまいという評判だけあって一口食べると、口の中で溶けるようにうまみが広がっていく。

 シチューの味付けも素材の味を殺さないようちょうどいいもので、他の野菜もちょうどいい火加減だった。


「すごいティア、まさかこんなに料理がうまいなんて。王宮にいたころもやっていたのか?」

「いえ、ほぼ初めてです。それもこれも全部この職業のおかげですよ」


 ティアの笑顔を見て俺は嬉しくなる。

 彼女は聡明だから損得勘定で「王女」を手放した方がいいと判断したとしても、感情では惜しく思うことはないのだろうかと思っていたが、その心配も杞憂だったらしい。


「あの、私のサラダも食べてください」

「分かった分かった」


 ティアの方を見ていたら、リンにそう言われてしまう。

 

「ああ、これもおいしい。これはリンが作ったのか?」

「はい。私は前から家の手伝いをしていたんです。まさかそれがまた役に立つとは思いませんでした」


 リンの職業はおそらく料理に対する強化はほとんどされていないはずだ。

 十五で職業をもらうまでは他の子供と同じように家の手伝いなどをしつつ平和に暮らしていたのだろう。それを思うと少し胸が痛くなる。


 二人とも色々あったのだろうが、今はこうして幸せそうにしている。俺もそれを壊さないように頑張らなければ……


「あの、早く食べないと冷めてしまいますよ」

「サラダもまだお代わりありますが」


 俺が感傷に浸りかけていると、すかさず二人から料理を勧められてしまう。


「分かった分かった、両方お代わりするから任せとけ」


 こうして、ひとまず俺は二人が作ってくれた料理に集中するのだった。

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