番外編1 「バイプレイヤー」
ツイッターで1日140文字ずつ進めていました番外編です。ぶっちゃけ書き上がらないので日数稼ぎっすわ。
バイクもたまには乗ってあげましょう。ちょっとだけでも動かすだけで、機関には優しいものですから。
「ねぇ、なんでじいじはばいくのるの?」
「そうさなァ、走らんと拗ねるでなァ」
「ばいく、すねるの?」
「おうよ。浮き出る錆は寂しいのサビちゅうてなァー」
不意に幼少期の夢を見た。むくりと起き上がってみれば、いつもより随分早い時間である。アサヒは何気なしにガレージを覗き、それを見る。
納車以来、めっきり乗ることの無くなってしまったスーパーカブ。薄く埃の積もったシートをパシパシやると、思いの外手が黒く染まる。
「これじゃ良くないね」
そう一人ごちて濡れ雑巾を手に車体各部を拭いてみれば、案の定雑巾は真っ黒だ。
「あっ、錆......」
ボトムリンクサスの根本、浮き出る赤茶。
「やっぱり寂しいか」
オイル循環で空キック数発、キーオンして本キック。
ギャッと小さく漏らしてから、ストトトトと気の抜けたような排気音。
どうやらまだ動いてくれるらしい。そう安堵したも束の間、そのままポコンと眠ってしまうエンジン。困ったことに、それから何発キックしても目覚めない。
『なん?おぉ、アサヒかい。どぎゃんしちょっと』
「じいちゃん、カブが拗ねちゃったんだよ...あ、いや、早くにごめん」
早朝にも関わらず、祖父は電話に出てくれた。斯々然々次第を話すと、なんじゃいとばかりに呵呵と笑う。
『燃料コックはどうなっとぅね』
「あッ」
良くある失念のひとつである。
保管時は燃料コックをオフに、なんて事すらすっかり忘れていた。なおさらいけないなぁなんて考えつつコックを動かせば、キック一発でしっかりと目覚めるカブ。
灯火類を点検。燃料は...やや心許ない。ボックスの中からヘルメットを取り出して被ると、暖気もそこそこに走り出す。
目的地は特にない。
国道17号を時速30キロで走っていると、周りの自動車たちはビュンビュンと邪魔そうに抜いていく。時折追い抜きが近すぎてヒヤリとさせられるが、しかし加速するという気もさらさら無い。カブにとって一番気持ちがいいのはこの速度なのだ。二段階右折などは、時々うんざりさせられるが。
代わり映えしない景色の17号を少しばかり走ってから国道50号に降りると、商業施設が立ち並ぶ、旧国道の様な雑多な景色。西行きに向かい前橋市街地へ。常に混雑と渋滞に悩まされる市街地も、原付ならばそう気負うことはない。国道でビュンビュンやられた意趣返しという奴だ。
そうやって西に向かっていけば、50号の終点は群馬県庁。どこかのアニメの聖地らしいが、悲しきかなアサヒにとっては地元の建造物のひとつでしかない。
そんな県庁を右手に曲がり、少々の右左折から県道4号を北上すれば赤城山だ。大回りで非効率な通学路を、風を受けつつものんびりと走り抜けていく。
「おうアサヒ、今日はカブかよ。何か予定か?」
「いいや、動かしただけだよ。たまにはね」
教室の窓から駐輪場を見下ろし、小さなテールランプを眺める。そうだ、確かにこの車社会で、原付は脇役かもしれない。だけど脇役だって、重要な演者に他ならないのだ。
言うなれば名脇役、バイプレイヤー。