表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

番外編1 「バイプレイヤー」

ツイッターで1日140文字ずつ進めていました番外編です。ぶっちゃけ書き上がらないので日数稼ぎっすわ。

バイクもたまには乗ってあげましょう。ちょっとだけでも動かすだけで、機関には優しいものですから。

「ねぇ、なんでじいじはばいくのるの?」

「そうさなァ、走らんと拗ねるでなァ」

「ばいく、すねるの?」

「おうよ。浮き出る錆は寂しいのサビちゅうてなァー」


不意に幼少期の夢を見た。むくりと起き上がってみれば、いつもより随分早い時間である。アサヒは何気なしにガレージを覗き、それを見る。



納車以来、めっきり乗ることの無くなってしまったスーパーカブ。薄く埃の積もったシートをパシパシやると、思いの外手が黒く染まる。

「これじゃ良くないね」

そう一人ごちて濡れ雑巾を手に車体各部を拭いてみれば、案の定雑巾は真っ黒だ。

「あっ、錆......」

ボトムリンクサスの根本、浮き出る赤茶。



「やっぱり寂しいか」

オイル循環で空キック数発、キーオンして本キック。

ギャッと小さく漏らしてから、ストトトトと気の抜けたような排気音。

どうやらまだ動いてくれるらしい。そう安堵したも束の間、そのままポコンと眠ってしまうエンジン。困ったことに、それから何発キックしても目覚めない。



『なん?おぉ、アサヒかい。どぎゃんしちょっと』

「じいちゃん、カブが拗ねちゃったんだよ...あ、いや、早くにごめん」

早朝にも関わらず、祖父は電話に出てくれた。斯々然々次第を話すと、なんじゃいとばかりに呵呵と笑う。

『燃料コックはどうなっとぅね』

「あッ」

良くある失念のひとつである。



保管時は燃料コックをオフに、なんて事すらすっかり忘れていた。なおさらいけないなぁなんて考えつつコックを動かせば、キック一発でしっかりと目覚めるカブ。

灯火類を点検。燃料は...やや心許ない。ボックスの中からヘルメットを取り出して被ると、暖気もそこそこに走り出す。

目的地は特にない。



国道17号を時速30キロで走っていると、周りの自動車たちはビュンビュンと邪魔そうに抜いていく。時折追い抜きが近すぎてヒヤリとさせられるが、しかし加速するという気もさらさら無い。カブにとって一番気持ちがいいのはこの速度なのだ。二段階右折などは、時々うんざりさせられるが。



代わり映えしない景色の17号を少しばかり走ってから国道50号に降りると、商業施設が立ち並ぶ、旧国道の様な雑多な景色。西行きに向かい前橋市街地へ。常に混雑と渋滞に悩まされる市街地も、原付ならばそう気負うことはない。国道でビュンビュンやられた意趣返しという奴だ。



そうやって西に向かっていけば、50号の終点は群馬県庁。どこかのアニメの聖地らしいが、悲しきかなアサヒにとっては地元の建造物のひとつでしかない。

そんな県庁を右手に曲がり、少々の右左折から県道4号を北上すれば赤城山だ。大回りで非効率な通学路を、風を受けつつものんびりと走り抜けていく。



「おうアサヒ、今日はカブかよ。何か予定か?」

「いいや、動かしただけだよ。たまにはね」

教室の窓から駐輪場を見下ろし、小さなテールランプを眺める。そうだ、確かにこの車社会で、原付は脇役かもしれない。だけど脇役だって、重要な演者に他ならないのだ。

言うなれば名脇役、バイプレイヤー。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ