赤城山北面 3
今更ながらアサヒ君達が再初期は2年生、2ndシーズンでは1年生になってしまっている事に気がついたんですが、そも旧車の部品が無限に出たり免許取得が中学生でも可能だったり本田◯一郎が日本国の首相に着いたりしているこのトンデモ作品でそのような問題は些細なことなのでは?ということで修正を諦めました。やる気がなかったとも言います。
あれです、きっと3人揃ってダブったんですよ。
(物書きにあるまじき意識の低さ)
「本当に、本ッ当~にありがとう!!水温計の針がおかしなとこ指して、馬力おかしいしこれどうしようと思って」
乳白色の軽自動車......丸目JW1型トゥデイのオーナーである鈴原さんが言う。同じ県立赤城高原高校の生徒らしい。聞いたところによると2年生で、つまり鈴原先輩だ。
「針、赤いとこいきました?」
「いいえ。やばそうだったから寸前で停めたの」
「大正解っす、先輩」
エンジンルームから眼を離さず、各部を入念に見ているのはユウだ。
「赤いとこまで行くとエンジンそのものが熱で歪むンすよ。そうなったら程度はどうあれ二度と直らないッスから」
緑色の斑点がびしゃあと広がったエンジンルーム。知識の無いアサヒにとっても、それが乾いた冷却水なのであろう事は見当がついた。そしてそれはあまりにも大量で、一目見て復旧は絶望的だろうとも。
「こいつだ。ラジエーターホースが裂けてますね。早い話、冷却水が漏れたって事ッス。まぁ見ての通りっすけど。この分だとサーモスタット......えぇと......水路の部品が壊れて正常に動いてないかしんないスね。で、圧力上がりすぎてパーンと」
「で、直るのかよ?」
横から口を挟むのはソラだ。とはいえ、ソラとて現状で直らないのは承知の上だろう。つまり、暗に結果から述べろと言っているのだ。
「直らない。こいつは積車で回送しかない。工場にさえ無事に入庫できれば、大した手間無く直るが」
「そんな」
今まで会話についてこれているか怪しかった鈴原先輩は、ユウの診断を聞いて愕然とする。
「大したことじゃないっすよ。部品代もそうかかりません。とはいえ、この山奥じゃ積車も時間かかるッスけどね。」
そこまで言って、ユウはふと思いついた顔をする。
「なんなら、俺明日積車で来ましょうか?今日のところは送っていきますし」
「ちょ。ユウ、大丈夫なの?」
「どうせ沼田抜けてくんだろ。あ、草木方面って可能性あんのか」
「いいえ、沼田よ」
鈴原先輩はそう言いつつも、申し訳なさそうな顔だ。
「だけど......いいの?」
「いいんス。ウチ、整備屋ですから。この機会に顧客獲得!......は、ちょいと冗談にしちゃキツいっすかね?
まぁ、手前味噌ですけど、腕はいいっすよ。保証付き即納、料金だって相場ド真ん中!」
「営業トーク下手すぎだろ」
「おまけに相場より安いとかじゃないっていうね」
「るせ。積車呼ぼうがなんだろうが、見捨ててくのは後味わりーわ。かといって直せっても無理だし」
それはそうとして、どうする?......そんな視線に鈴原先輩は......
「じゃあ、お願いしても......?」
そう言って僅かに笑ったのだった。
車内から貴重品や私物を一通り回収して、ユウのジムニーに先輩を乗せて出発。乗せてくれる人を見つけて安堵顔だった鈴原先輩も、ジムニーの乗り心地には多少面食らったらしく、バックミラー越しには随分と困惑した顔が見えた。
「ジムニーの乗り心地、凄いですよね。大丈夫です、すぐに慣れますよ。ダッシュボードの上のバーを握ると、少しだけ横揺れを緩和できますから」
思わずトランシーバー越しに声を掛けてしまう程度には、ジムニーの車体は揺れている。
「ありがとう。というか、ひょっとしてそっちに乗るべきだったのかしら?」
「いやぁ先輩、四駆に慣れるとこれが味って奴っすよ。てかアイツの車もアレはアレでうるさくって、乗れたもんじゃないっス。ブルーバードなんか年式も古いし尚更。やっぱジムニーっすよジムニー。ラダーフレームラダーフレーム」「ユウ、多分その語りは逆効果」「お前のよりは乗り心地いいわ!」
「じゃあ、ブルーバードに乗るべきだったのね」
「大正解」「んな訳無いっすわ」
つづら折りに曲がったワインディングの中、僕たちの車は駆け抜けていく。
「左折な」
先頭のソラが左ウインカーを焚いた。標識にもやはり、251号線は左折と書かれている。山道にはちょっと不必要なくらい車線が多い交差点。ばっちり右折レーンまであるが、交通量はほぼゼロだ。
「結構下ってきたのに、また登るんだね」
「そうらしいな」
「......っていうか、ガソリン、大丈夫かなぁ」
70kmくらいならなんとかなるんじゃないか。そう思ってガソリンを入れてこなかった(入れるお金がなかったとも言う)僕は、ここに来てEに近い針を見てふと呟いた。
「やべぇの?」
ソラが言う。
「気にかかる程度にはね」
「空ッ欠になったら引っ張って......いや、モノコックか......」
「牽引は出来ンだろ」
「結構、牽引フックがもげたり車体が歪んだり凄くてよ。やりたくねぇんだ」
それは確かにご遠慮願いたい。だけど、多分持つだろう。もう道は半ばを越えているはずだ。
「なんていうか......山道だよね」
「山道だなぁ」
あまりに特筆することの無い山道。一面のクソミドリと、どこかのだれかが言っていた光景。
「これ、紅葉シーズンにやるべきだよ」
「ちげぇねえ」
あーガソリン代さえあればよぉ!とソラがおどけていう。全くもっての同感だ。
「ついでに言えば林道入り口もねえしな」
ユウは相変わらず。
いつしか夕暮れから夜に差し掛かっている。誰ともなく、ポジションからヘッドライトへ切り替える。
とたん、バックミラーは白一色。眩しい!!
「......っと、わりい」
オフロードランプのヘッドライト連動を切り忘れたらしいユウの仕業だ。すぐに眩しすぎるランプは消されて、ジムニーらしい丸目だけになる。
「別に大丈夫。......それ、車検対応なの?」
「ンな訳無いだろ。皆大好きI社製のハイワッテージハロゲンだよ」
なぜだか自慢げなユウの声。車検非対応で胸を張るのはどうかと思う。
「因みにアサヒのバンパーポッドも車検非対応な」
......なんだって!?
「まぁ、任意灯火だし検査員も突っつかねえだろ。物知り意地悪検査員に確認されたら一発アウトだけどな」
ユウは笑うけど、それ、ちっとも笑い事じゃないよ。
「お、森ィ抜けたな」
ソラの言葉を合図に、フッと掻き消えるように景色が開ける。辺りに広がるのは、田んぼか畑、それから遠く遠くにチラホラと夜景。
景色がいいといえばいいけれど、結局一面のクソミドリだ。有り体に言えば、田舎の日常。
「......田んぼだねぇ」
「田んぼだなあ」
「そういや、家はどこなんスか先輩」
「沼田の市街地よ、国道120号の沼田ICあたり」
「じゃあ通り道っすねぇ」
「負担が軽くて何よりだけど。そういえば、今さらだけど代車って出る?ウチには他のアシがなくて」
「手配するッスよ」
そんな事を言いつつ、車列は沼田市街地へ向かっていく。
「開けたときは遠くに見えた気がしたけれど、本当にすぐ町に入っちゃうね」
「ンだな、もう終わったも同然ってレベルだな」
「町が近づく 町が近づく ってね」
ユウがトラックメーカーのコマーシャルソングを口ずさむ。そう、市街地だ。国道120号に合流する頃には、ほんの僅かな区間を残して県道251号線はおしまい。メインルートとしては完走である。
「完走した感想は?」
ソラが言う。
「峠道だった」「田舎」「明日の通学が心配だわ」
回りから口々漏れる感想は、大したことないと言外に。
「なんだよお前ら、絞まらねえなぁ......」
「いいじゃんいいじゃん。ビシバシにシメられるシャブが嫌でドライ部作ったんでしょ?」
「お前、出発前は締まりがあるのは重要だとか言ってなかったか?」
「そんな昔の事は覚えてないね」
全員揃って信号を右折、橋を渡ってまた右折。それから坂を上って国道120号に......
「......ソラ、思うんだけどさ」
「ンだよ」
「二回目の信号、直進すれば勝手に右曲がって国道120号に出られるっぽくなかった?」
「あッ、やっぱりアサヒもそう思ってた?」
「因みに正解よ。ていうか、こっち来たら桐生方面なんだけど」
「......っせーな!!わりィな間違えたよ!Uターンするわ畜生!」
......国道120号に、出られなかった。そんなトラブルもつきものである。確かに、あの信号配置は地図上と現実ではちとややこしいものがある。
因みに、知り合いの物書きもロケハン中に罠にはまって引き返していた。許すまじ、下久屋町(下)交差点。