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99 空中庭園



俺は神官にお礼を言って、中庭に行ってみる。

議場から少し歩くとあるようだ。

中庭というから、地面に作っているのかと思ったら2階にある空中庭園だった。

中庭に入ってわかる。

透き通った、とてもきれいな公園というより庭だ。

レンガのような小さな石を敷き詰めて歩く道を作ってある。

いろんなところに石造りの椅子が見える。

細い水路のようなものまで設置してあり、きれいな水が流れていた。

その近く、木の下に椅子があったのでそこに決めた。

椅子に座ると、深く背をもたれて上を向く。

青い空が見える。

この世界に太陽はないようだが、昼夜の変化はある。

その空を見ながら、俺はボーッとしていた。

何も考えずにただ上を向いている。

・・・

しばらくすると、俺の目線に顔が見えた。

髪がサラッとその人の顔を覆う。

片手でゆっくりとかき上げて、微笑みながら俺を覗き込む。

透き通った感じの女の人だ。


「こんなところで何をしているのですか?」

女の人が微笑みながら声を掛けてくる。

俺はそのままの姿勢で答える。

「あぁ、休憩しているんですよ」

「そうですか」

その子はそう言って俺の前に来た。

俺は顔を前に向けて、その子を見る。

若い女の子だな。

いったい誰だ?

「俺に何か用でもあるのですか?」

「いえ、何か気持ちよさそうに上を向いている人を見かけたもので、声を掛けさせてもらいました」

女の子が答える。

俺は女の子を見ながら思う。

ここに居ると言うことは、神官職関係の人間なのだろう。

だが、この透明感のある感じはなんだろう。

キラキラ輝くのではなく、スッとこちらが落ち着く感じがする。

女の子は微笑みながら言う。

「少しお話させてもらってもいいですか?」

俺は何の抵抗もなくうなずく。

女の子は俺の前を右へ左へとゆっくりと歩きながら話す。

「あなたは神殿騎士様なのでしょう?」

「はい、そうです」

俺はそう答えながら、なるほどやはり神官の関係者かと妙に安心する。


「先ほどの集まりでは、いろんな種族の方々がおられました。 みんな争うことなく無事に終わったみたいで何よりです」

俺は女の子を見つめている。

女の子は相変わらずゆっくりとその場であっちへ行ったり、こっちへ行ったりウロウロしている。

「以前から思っていたのです。 どうしてみんな仲良くできないのかと」

女の子は目を大きくして俺を見る。

「だってそうでしょ? 争って最後に仲良くするのなら、初めからしておけばいいのです。 結果から考えればわかるはずでしょ? バカですよねぇ」

女の子は一人演説をする。

俺もそりゃそうだと笑いながら聞いている。

女の子はいろいろおしゃべりをしながらもっともなことばかり言う。

種族など関係なく、生きているものとしてつき合うともっと良い世界になるはずなのにという。

それを人種族だけが自分たちを主張する。

頭悪い種族なんでしょうか?

などと、女の子の演説が長々と続くが、不思議と聞いていても疲れない。

むしろ癒されていく感じだ。

・・・

・・

どれくらいの時間聞いていただろうか。

俺はうなずいていただけだったが、妙に疲れが取れた気がする。


女の子がウロウロするのをやめて俺の方を向く。

「というわけで、私のお話は終わりです」

あれ?

いつの間にこの子のお話になっていたんだ?

俺はボーッとしながら女の子を見ていると、女の子が首をかしげて言う。

「そろそろ私も行きますね。 お話できてよかったです」

女の子がペコッと頭を下げて歩いて行こうとして振り向いた。

「あ、そうそう、最後に大切なことを言うのを忘れていました。 本当にありがとう、テツさん。 それにルナさんにもよろしく。 またどこかでお会いできるかもしれませんが、感謝しております」

女の子はそれだけ言うと、また俺に背を向けて歩いて行く。

俺は一瞬固まってしまった。

は?

何?

テツさんって・・俺、名乗ってないぞ。

それにルナさんって・・。

そこまで思って俺が椅子から立ち上がろうとすると、俺の背中から声がする。

「おーい、テツ。 こんなところにいたのか?」

ルナが呼んでいた。

俺はルナの方を向くと、そうそうたるメンバーが歩いて来る。

ルナとヘルヘイム、ヴァヴェルなどなど。

後で聞いたが、ドレイクは事後処理で今から寝る暇もないという。

気の毒にな。


ルナたちが俺の近くまで来た。

「テツ殿、お一人でずっと居られたのですか?」

ヘルヘイムが聞く。

「え、いや、今そこに女の子がいたのですが・・」

俺はそう言って振り返ると、誰もいなかった。

あれ?

「女の子? 我々がこの中庭でテツ殿を見つけて近寄って来たのですが、誰もおられませんでしたよ」

ヘルヘイムが言う。

え?

俺は言葉を失う。

いや、確かに俺の前で一人話していたのだが。

俺が考え込んでいると、ルナが俺の顔を見る。

「テツよ、寝ていたのではないか?」

いや、あんたじゃないし!

俺は心の中で即答する。



最後までお読みいただき、ありがとうございます。


これからもよろしくお願いします。


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