98 政治家ドレイク
人種族たちはいろいろブツブツと声も聞こえるが、大体はドレイクに同意のようだ。
ドレイクの演説にかなりの時間が費やされたが、とりあえずは協調方向でまとまりつつあった。
そしてドレイクが続ける。
「そして、皆さま驚きの事実があります」
ドレイクがそう言うと、ヘルヘイムがスッと立ち上がる。
「初めまして皆さま。 私は、あなた方の言葉で言うところの死霊国家の党首ということですな。 呼び名はどうでもよいのですが、これからよろしくお願いします。 さて、我々がこちらへ来る途中の街、ちょうど我々と人種族との境辺りの街でしょうか、そこで一人の人を保護致しました」
ヘルヘイムがそう言うと、会議場の横の扉がゆっくりと開かれる。
ドアが開かれると、一人の女性が幼子を抱いて立っていた。
初め、誰も気づかなかったようだ。
誰だ?
そんな雰囲気だったが、とある神官長がつぶやく。
「・・光の巫女様?」
!!!
その言葉にその場にいた人種族全員に衝撃が走ったようだった。
「「何?」」
「ま、まさか・・」
・・・・
・・
全員の目が光の巫女を見つめる。
幼子を抱いた女性がゆっくりと議場へと入って来る。
そして、ゆっくりと頭を下げ挨拶をする。
「皆様、お久しぶりでございます、ヴァールです」
その言葉の後、すぐに議場は騒がしくなった。
「光の巫女様の母様ではないか」
「いったいどこで居たのか?」
「よくぞご無事で・・」
・・・
・・
「お静かに。 実は・・」
ドレイクがその後、いろいろ説明をしていた。
魔素の独占を企む組織が神官内にいたらしく、そこから逃れていたこと。
神職の手引きによって、人種族の範囲外で暮らしていたこと。
その地域が死霊国家の領域内ギリギリにあり、手厚く保護を受けていたこと。
そして、誰もが光の巫女だと知らなかったこと。
ただ、魔素の流れが戻るとともに、自然と光の巫女たちに霊力が戻って来たことなどがあり、発見されたことなどなど・・。
・・・
・・
俺はそれを聞きながら改めて思った。
ドレイク、あんた弁舌家だな。
完全な政治家だ。
それも素晴らしいと思えるほどの。
ドレイクの話を聞いていると、すべてが本当じゃないかと思える感じだ。
知らない間に騙されている。
騙されているんじゃない。
そうなっているといった方がいいだろうか。
凄いな。
俺なんかは事情を知っているから、かろうじて踏みとどまっているが、何も予備情報がなければそのまま信じてしまうだろう。
そして実際、人種族たちは信じているようだ。
ある意味、怖いな。
協議はその後も粛々とドレイクの進行の下、進んで行く。
要は、他種族の領域を侵さないこと。
各種族が連合を組み、一定の交流を行うこと。
国境を一応線引きをするが、それは絶対ではないこと。
そして、それぞれの領域でのもめ事はその領域の法に従うこと。
などなど・・細かなことが素案ながら提唱されて了承された。
・・・
・・
丸々1日使った感じだ。
俺はただ座っていただけだが、疲れ切った。
もうダメだ。
協議も無事に終わり、明日に書類をまとめて皆の了承を得て終わるという。
ドレイクはタフだな。
俺は会議室から出て来ると、すぐにどこかに座りたくなった。
「はぁ・・ダメだ」
そんな言葉を出していると、ドレイクが声をかけてくる。
「ルナ殿、テツ殿、これから食事でもいかがですかな?」
俺は首を振り、無理だと伝える。
ドレイクは笑っていた。
ルナは大喜びで食べに行くみたいだ。
ドレイクもルナの反応にとても大喜びだ。
また、ヘルヘイムやヴァヴェルたちも一緒に行くという。
みんなタフだな。
それでなければ、指導者は務まらないということか。
まぁいい。
俺は動きたくない。
戦うよりも疲れた。
ドレイク以外の神官長たちは、光の巫女とヴァールたちにベットリだ。
ヴァールはニコニコしながら応対している。
さすがだ。
後でわかったのだが、ドレイクがどうもこの芝居を仕組んだらしい。
ヘルヘイムたちを協議会に招待した時に、光の巫女の話が出たと言う。
そこでドレイクが一計を案じたようだ。
なるほど、政略家としても優秀ということか。
これならこの世界もうまくまとまっていくかもしれないな。
俺はフトそんなことを思ったが、どうでもいい。
とにかく疲れた。
どこかでゆっくりと休憩したい。
俺は辺りを見渡してみると、神官たちが忙しそうに歩き回っていた。
一人を捕まえてどこかゆっくりと出来る場所はないか聞いてみた。
すると、宿泊所などがありますよとご丁寧に返答してくれるが、寝るつもりはない。
もっと公園のような、落ち着ける場所はないかと聞くと、中庭が広くて落ち着けるかもと教えてくれる。
これだ!
俺的にはピッタリだ。
公園で休息って、最高じゃないか。
よく新宿御苑へ行ったものだよと、頭の中で想像してみる。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
よろしければ、ブックマークなど応援お願いします。