95 ルナさん、あんた一体何やってんだ?
俺は呆れて言葉を失う。
まさか3日でこれほどの人気になるとは。
「ルナさん、俺には何ともコメントのしようがありません」
「フッ、まぁいいではないか。 さて、出発の準備をしなければな」
ルナは普通に話す。
俺もその言葉の通り身支度を整える。
整えるといっても飛燕をぶら下げる程度だ。
ルナはプレゼントをアイテムボックスに収納していた。
無論、ケーキ類も入れてあるそうだ。
すぐに準備は終わり俺たちは部屋を出る。
「さて、行きますか」
俺はそういうとルナと一緒に歩いて行く。
宿泊している受付のところへ行くと、奥の方からササッと出て来る人がいた。
管理人のようだ。
「テツ様、ルナ様でいらっしゃいますね。 お迎えの車が来ております」
そういって案内してくれる。
入り口のところへ銀色の車が横づけしてあった。
ただ、その奥に多くの人がいるのが目に入る。
なんだ?
管理人が歩きながら説明してくれる。
初めは数人だったらしいが、どんどんと人が集まってくる。
事情を聞くと、どうもルナを見送る人が集まって来たという。
宿泊所の中では声は聞こえないが、外へ出ると一気に声が溢れた。
「「ルナ様ぁー!!」」
「あぁ、いかないでくれ~!!」
「俺の姫様ぁ・・」
・・・・
俺はその腹まで響く声に驚く。
いったい何やってんだ、あんたは?
ルナに突っ込みたい気分だ。
ルナはそのまま歩き片手を挙げて車に乗る。
「「「うわぁぁぁぁ!!!」」」
大歓声が沸き起こる。
今この瞬間、確実に空間が震えているな。
俺もルナの後に続いて車に乗る。
管理人が何か言っていたようだが聞こえない。
俺たちの後ろで手を振ってくれていた。
車に乗ると、すぐに外の音は聞こえなくなる。
中では1人の人が立っていた。
丁寧に挨拶をしてくれて俺たちを席まで案内してくれる。
俺たちが席につくと案内人が言う。
「ルナ様、テツ様。 この後ドレイク様を乗せて目的地に向かいます」
ルナがうなずいていた。
俺もうなずき、お願いしますと一言。
案内人は深々と頭を下げ、入り口付近に行き席についていた。
輸送車はゆっくりと発進していたようだ。
◇◇
<遺跡の外、地上のフレイアのカフェの前>
レアはフレイアのカフェの外に出てロイヤルガードたちに話す。
「皆様、隣の家に立ち寄りますわ」
「え? レア様、隣といいますとテツ殿の家でしょうか?」
フローラが聞く。
「いえ違いますわ。 テツ様の奥様にご挨拶をと思いましてね。 えっと、確かこの家でしたわね」
レアはそう言いながら、嫁の家の前に来ていた。
何の躊躇もなく玄関の呼び鈴を鳴らす。
「はーい」
ドアの奥から声がした。
嫁の声だ。
すぐに扉が開かれる。
!
嫁は驚いたようだ。
見たこともない、いやあるような女の人の集団が玄関前にいる。
誰?
嫁は不審そうな顔つきで見ていた。
「あなたが、テツ様の奥様ですか?」
テツ様?
嫁はレアを少し見つめてから答える。
「え、えぇ、はい。 あなたはどなたですか?」
レアは微笑みゆっくりと一礼してから答える。
「これは申し訳ありませんでした。 私レア・レイドルドと申します。 あなた方の認識では異世界からの転移者ということになりますわね。 どうぞお見知りおきくださいませ」
嫁は妙な違和感を覚えながらも挨拶を返す。
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
レアは微笑みを絶やさずに続ける。
「奥様、お聞きしたいのですが、テツ様がお認めになった第二夫人はおられますか?」
「は?」
レアの質問に嫁は言葉が出て来ない。
口を少し開き、呆けているような感じになっている。
第二夫人?
どういうこと?
浮気?
違うわね。
愛人?
いったい、何を言っているのかしらこの女の人は?
そういった疑問ばかりが嫁の頭に浮かんでいた。
レアは嫁の反応が遅いので理解したようだ。
「なるほど・・奥様、お伺いいたしますが、この地球の世界、いえ奥様が暮らしていた社会では、もしかして夫婦システムは1対1の関係なのでしょうか?」
レアがうなずきながら問う。
「え、えぇ、そうです」
嫁も戸惑いながら一応返事をする。
「そうでしたか。 それでは私の質問が的外れでしたわね、失礼いたしました」
レアはそう言葉を出し頭を下げる。
嫁もつられてうなずく。
そして、レアが言葉を続ける。
「奥様、その地球の旧来の社会システムはなくなり、新しい社会システムが構築されたことはご理解いただけておりますか?」
レアが優しく問う。
確かに、こんな空中の帝都に住んでいる。
そして、大戦争が起こり日本という国、いや世界があるのかどうかわからない。
嫁はそんなことを頭に浮かべながら、ゆっくりとうなずく。
「そうですか。 それは安心いたしました。 この新しいシステムはアニム王国のシステムに準じたものとなっているようです」
レアがそこまで話していると、嫁が不審そうな顔をしながら言葉を出す。
「レアさん・・でしたか。 いったい何をおっしゃっているのでしょうか?」
「おっと、これは私といたしましたことが、失礼いたしました。 話が先走っておりました。 いえ、テツ様の新しい奥方候補と言うとおこがましいですが、第二夫人候補に私がなる予定ですので、まずは現在の奥様にご挨拶するのが筋道と思いましてご挨拶に伺ったまでです。 これからよろしくお願いいたしますわね」
レアはそう言葉を発し、丁寧に挨拶をする。
「では、失礼」
そして、ロイヤルガードたちを引き連れて嫁のところを後にした。
嫁はその背中を見送りながらしばらく呆然とする。
少しして、レアとの会話を反芻していた。
・・・
いったい何なの?
第二夫人ってどういうこと?
あの旦那の奥方候補?
は?
わけがわからないわ。
・・・
嫁は答えが出るはずもなく言葉を繰り返していた。
◇◇
<レアとロイヤルガードたち>
レアが颯爽と歩いている。
今までの憑きものが落ちたような軽さだ。
そんなレアの後ろからフローラが声をかける。
「レア様、テツ様の奥様ですが、少し混乱なさっていたのではありませんか?」
レアは歩く歩調を変えることなくフローラの方を一度振り向き、笑顔で答える。
「フローラ、誰でも今までにない価値観を見せられれば驚くものですわ。 遅かれ早かれこれからそういったことに慣れて行かなければならないのですもの。 私が最初にそういった価値観を提供したのをむしろ感謝していただいてもいいくらいですわよ」
レアはそう言いながら前を向いて歩いて行く。
「そういうものですか?」
「そういうものよ。 それに大戦の後始末も終わり、落ち着いてきたらいろんな輩が出て来るでしょう」
フローラはレアの言葉を聞き、少しだけテツの奥様のことを気の毒に思っていた。
いきなり今までになかった価値観を見せつけられたのだ。
ショックだろう。
ただ、レア様の言われた通り、ショックを受けてそれを乗り越えられなければどうしようもないことも事実だ。
・・・
やはり、レア様の言われた通り、最初にそういった価値観を提供したのがレア様で良かったのかもしれない。
もし、どこかのバカな権力関係の娘などの交渉に巻き込まれたら、免疫がなければすぐにでも流されてしまうだろう。
確かに、帝都では妙なことは発生しないだろう。
だが、離れた場所でならどうか?
時間が経過し、その地域で力をつけて帝都のやり方が気に入らない連中が接近するかもしれない。
その手段として女を利用することは多々ある。
いつの時代も同じだ。
テツ様がそれに引っかからないとも限らない。
それにフレイアはテツ様のパートナーだ。
いつ夫婦になっても不思議ではない。
だからこそレア様は楔を打ち込んだのかもしれない。
・・・
あぁ、男と女のことはわからない。
フローラは頭を振る。
それにしてもレア様に気になる殿方ができるとは思ってもみなかった。
これは、おそらくロイヤルガードたちの共通認識だろう。
フローラはそんなことを頭で思いながら、レアの背中を見つめていた。
◇◇
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