94 制覇
ガルは俺が話すたびに疲れていっているような感じだった。
じいちゃんが錬金術師と言った時には、魂が抜けているんじゃないかと思えたほどだ。
この世界では錬金術師というのはほとんど自称らしく、本物はいないといってもいいくらいだという。
ガルもその域を目指しているらしいが、どうやったらなれるのかわからない。
だからこそひたすら武器を打って打ってしているという。
俺はそれを聞き、そうやっていたらそのうちなれるんじゃないですか、とついつい言ってしまった。
ガルが俺の両肩を掴んで、本当か? と鬼気迫る感じで聞いてきた。
俺は驚いたが、とりあえず首を縦に振る。
じいちゃんも打っているうちに自然となっていたようだからな。
まぁ、間違えてないだろう。
それからはガルの憑き物が落ちたように明るく話してくれた。
ガルが最後にじいちゃんに会ってみたいねぇと、遠くを見る目線でつぶやいていた。
・・・・
・・
しばらくガルの話を聞かされていたが、素直に解放。
俺はガルの店を後にした。
俺は宿泊施設に戻ってきていた。
なんか疲れた感じがする。
部屋に入って行くと、ルナはいない。
俺は身体をクリーンアップする。
するとドアをノックする音が聞こえる。
開けてみると宿泊施設の係の人がいた。
「テツ様でいらっしゃいますね? ドレイク様よりのメッセージが届いております。 申し訳ありませんがご足労願えますか?」
係の人が頭を下げていた。
俺はお礼を言って受付までメッセージを取りに行く。
何でも重要なメッセージは受付で一括管理しているという。
情報が漏れるのを防ぐためだとか。
経由する箇所が増えれば増えるほど危険だからな。
もし、係の人が持ち運んだりすると確かに危ないこともあるかもしれない。
俺は部屋でメッセージを確認。
・・・
・・
なるほど、明日の朝に出発か。
ルナさんが帰ってきたら教えてあげなきゃ。
俺はそう思うとベッドに横になる。
天井を向いて考えていた。
レベルがある世界になり、いろんなことがあった。
それも短期間に凝縮されて。
俺は特に運が良かっただろう。
ステータスの運レベルは高くないが、生来の運かもしれない。
ステータスだけに表示されないものだろう。
邪神王との戦いは勝てたのかどうか怪しい。
あの邪神王が自ら退いたような感じもする。
それが終わってみれば、この世界だ。
外界との接触がない分、ゆっくりとした世界だ。
まぁ、もうすぐ帰れるだろうが特に何も・・いや、あった。
ルナが言うには、俺は神と会ったんだ。
いったい何の目的で俺の前に現れたのだろう。
神と言われても、今までそんなもの考えたこともなかった。
ただ、自然などには敬意を抱いていたのは間違いない。
う~ん・・解答が出るようなものでもないな。
・・・
俺がそんなことを考えていると、部屋のドアが開きルナが帰って来た。
「おう、テツ。 帰っていたのか」
ルナが言う。
俺は身体を起こし、ルナを見てメッセージの内容を伝える。
・・・
「ルナさん、明日の朝に出発みたいですよ。 ドレイクさんからメッセージがありました」
「なに~? 後2つだから明日の朝にと思っていたのだが・・よし、今からもう1度行って来る」
ルナがブツブツと言いながらバタンとドアを忙しく閉じて出て行った。
「後2つ? あ、スイーツ店の制覇か」
俺はギルドの掲示板を思い出した。
・・・
凄いな、あの人は。
俺はそのままベッドにまた横になる。
しらない間に眠っていたようだ。
・・・
・・
目が覚めて見ると、朝になっていたようだ。
今日はドレイクと一緒に行くのだったな。
身体を起こし部屋を見る。
ルナは眠っている。
・・・
なんだ、あれは?
ルナのベッドの横に箱が山積みになっていた。
俺はベッドを離れ、その箱に近づいてみる。
う~ん・・ケーキの詰め合わせにしては箱の大きさがバラバラだな。
それにこっちは装飾品やら宝石か?
いったい何があったんだ?
俺がそんなことを思っていると、ルナが目覚める。
「・・うぅ~ん・・おぉ、起きていたかテツよ」
ルナの目覚めは悪くない。
「おはようございます、ルナさん。 あの、これっていったい・・」
「あぁ、それか。 実はな・・」
・・・
・・
ルナが説明してくれた。
スイーツ店の残りを制覇しに行った時だ。
最後の店で食べ終わって出て来ると、店の前でかなりの冒険者がいたそうだ。
ルナの姿を見た瞬間、お祭り騒ぎになったようだ。
「「わあぁ!!!!」」
「やったぁ~!! ルナ様、おめでとうございます!」
「姉さんと呼ばせてください! おめでとうございます」
「あぁ、負けちまったよ・・」
・・・
ルナのスイーツ店完全制覇の賭けの連中だったようだ。
その後、ギルドへ行ってみんなでお祝いしたいと言う。
ルナも満足していたので、そのまま一緒に行く。
みんなルナに初めて接することが出来て、とてもうれしそうだったという。
まるでアイドルのコンサートだな。
ギルドも冒険者たちで無理矢理貸し切りにしたそうだ。
それからは冒険者たちがルナに握手を求めたり、いろんなイベントが勝手に進行して行ったらしい。
ただ、調子に乗り過ぎてルナの肩に手をまわしたやつは一瞬で吹き飛ばされたようだが。
すぐにルナが回復もする。
その落差に驚きつつも、妙に懐かれていったという。
まさかチャームを使ったんじゃないかと思ったが、違ったようだ。
そしてルナが明日街を離れるから帰ると言うと、みんなが受け取ってくれとそれぞれ餞別代りに差し出したのがこの積み荷の山というわけだ。
あんた何やってんだ?
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