93 再びガルのお店へ
間違いない、ルナだろう。
いったい何をしたんだ?
明日には出発のはずだが、目立ってるじゃないか。
俺は宿泊施設に直接戻らずにギルドへ行ってみた。
先程の会話が頭にある。
ギルドに入って行くと、かなり賑わっていた。
どこもかしこもルナの話であふれていた。
「・・おぉ、俺も賭けたんだ。 全店制覇に」
「俺はできない方だな。 もう締め切られているが、後3時間くらいだろう」
「そうだな、結果がでるのが後3時間後だな」
「この街にスイーツ店なんて、何店あるんだ?」
ギルド内ではいろんな男が掲示板を見たりしてみんなで盛り上がっている。
女の人が誰かはわからないが答えていた。
「51店あるわよ」
それを聞いた男たちはさらに盛り上がる。
「・・おい、聞いたか? 51店あるってよ。 後どれくらいで制覇なんだ?」
「・・画面を見てみろ。 端の方にオッズと制覇店のカウントが表示されているぞ」
その声に、大勢がモニター画面を見る。
俺も見た。
・・・
モニターには『黒髪美女の野望』などと書かれている。
達成率は・・89%。
カウントしてるんだな。
俺は驚いたが、ルナさんのことだ全部食べるのだろうな。
そう思いながら会話に聞き耳を立ててみる。
「・・しかし、あの美人。 声かけても食べるのに夢中だよな」
「そうだぜ。 俺の連れが肩に触れようとしたら吹き飛ばされたぜ」
「そうなんだよ。 触れれないんだよな。 いったい何者だ?」
「そんなことはどうでもいいんだよ。 とにかくたまらなく美人なんだ」
「俺なんて夜も眠れねぇぜ」
「あぁ、あんな美人・・いったいどうやったら知り合いになれるんだ?」
・・・
・・
いろんな言葉が聞こえてくるが、これは知りあいなんてバレない方がいい。
俺はそう思うとギルドを後にする。
それにしても盛り上がっていたな。
ギルドを出て帰ろうと思うと、声をかけられた。
「そこの兄さん、ちょっといいかな?」
俺は声の方を向く。
ん?
この人は・・俺は少し覗き込むようにしてみる。
「兄さん、女の人をそんなに見るものじゃないよ」
女の人がそう言いながら笑う。
ガルだった。
「あぁ、すみません」
「いや、いいんだ。 兄さん、あれから考えていたのだが、どうしても気になってね。 もしよかったら今からあたしの店に来てくれないだろうか」
ガルが言う。
おそらく飛燕のことだろう。
俺は特に用もないので二つ返事で答えた。
ガルの後をついて行く。
ガルの店に到着。
既に閉店にしているらしく、お店の中には客はいない。
女の子が一人店内にいた。
「師匠、お帰りなさい。 あ、この間の・・」
女の子が俺を指さして言う。
「これ、人を指さすものじゃありません」
ガルが言うと女の子はサッと手を引っ込めて謝ってきた。
「すみません」
「兄さん、もし良ければだが、兄さんの武器をもう1度見せてくれないだろうか」
ガルが言う。
俺はうなずいて、飛燕をカウンターにそっと置いた。
ガルはジッと見つめている。
すると女の子が覗き込みながら手を伸ばしてきた。
「師匠、これですか? 手を触れられなかったという武器は。 私は何も感じませんけど・・」
女の子はしゃべりながら飛燕に触れる。
ガルがビクッとなりながら言葉を出せずに見ていた。
「よいしょっと・・あれ?」
女の子が片手を伸ばしたまま動かない。
「あれ、おかしいですね。 どこか引っ付いているのかな?」
女の子はそんなことをつぶやきながら、カウンターに身体を寄せてきた。
今度は両手で持ち上げようとする。
「ふぅーん!!」
・・・
「ぷはぁ、はぁ、はぁ・・何なんですかこれ? 全く動かないですけど・・」
女の子が顔を赤くしながらつぶやいていた。
ガルがゆっくりとうなずきながら言う。
「なるほどね・・思った通りだよ」
「師匠、どういうことですか?」
女の子がガルの方を向く。
「お前じゃ力足だということさ」
女の子は一瞬固まっていた。
・・・
「や、力足って、どういうことですか?」
女の子は声を少し大きくしながら言う。
「言葉のままさね。 お前だけじゃない、私も同じ結果だろうよ」
ガルが自嘲気味に言う。
女の子は驚いているようだった。
「ま、まさか師匠が・・そんなはずありませんよ」
女の子はそう言いながら、もう一度飛燕を持ち上げようとする。
・・・
結果は同じだった。
ガルがジッと俺の方を見つめている。
俺は何もしていないのだが、何か悪いことをしたような気になってきた。
「あんた、もしよかったら・・いや、聞かなかったことにしてくれ」
ガルが一人つぶやいていた。
「師匠、どういうことですか? こんな武器が存在するなんて。 あの、あなた何者なんですか? この武器をいったいどうやって手に入れたのですか?」
女の子が聞いてくる。
ガルが驚いたような顔をして、女の子をなだめる。
おそらくガルが聞きたかったことだろう。
俺はどうしようか迷っていた。
まぁ、どうせすぐに地上へ帰れるはずだ。
ネタばらししてもいいかもしれない。
でも、信じてもらえないかもしれない。
それに今から話を作っても意味ないだろうし・・などといろんなことが頭に浮かんだ。
俺は取りあえず正直に話してみた。
・・・・
・・
俺が外の世界から来たこと。
この武器は魔石を加工して作ってあること。
俺のじいちゃんが錬金術師だということ。
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