9 脆すぎる
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
感謝です。
俺とルナはギルドのフロントに下りて行く。
この建物は普通にエレベーターがあるが、やはり魔法で動いているようだ。
帝都によく似ている。
フロントには受付が2つある。
受付へ近づいて行くと、奥からササッとギルドマスターが現れた。
俺たち監視されてるのか?
俺はまずはそれを疑った。
ギルマスが俺たちの前に来て言う。
「これは神殿騎士様、どこかへお出かけですか? ん・・テツ様、横のお方はどなたですか?」
ギルマスが不思議そうな顔を見せる。
!
俺は焦る。
確かに、子供のルナさんだったからな。
それが超絶美女の若い女の人になっているんだ。
どうやって答えよう。
俺が迷っていると、ルナがサクッと話していた。
「ワシの見た目など気にするな。 眷属の特性でな・・姿はある程度ならば変更が可能なのだ。 今日はこの気分だ」
ルナがカラカラと笑いながら言う。
・・・
説明になってないぞ。
「そ、そうでしたか。 これは失礼をいたしました」
ギルマスが頭を下げていた。
マ、マジか・・疑いもしなかったのか?
逆に俺が驚く。
「それはそうと、ギルマスよ、この街にダンジョンがあると聞いたのでな。 少し見に行こうかと思っているのだ」
ルナが平然と尋ねる。
「なるほど、そうでございますか。 ここのダンジョンは世界でも1級クラスでして、まだ完全攻略者がおりません。 S級冒険者のパーティでも、30階層ほどがやっとかと・・。 神殿騎士様でしたら、それに近いところまでは行けるのではないでしょうか」
ギルマスがニコニコしながら話している。
既にルナの姿を受け入れたのか?
俺の認識っていったい・・。
「ところでギルマスよ、ワシらが降りて来た時にすぐに現れたな。 何かわかるシステムがあるのか? それとも我々を監視しているのかな?」
ルナははっきりと聞きにくいことを聞く。
さすがだ。
「い、いえ、そのようなことは決して・・ただ、エレベーターに乗られた時に、誰が乗ったのかはライセンスカードでわかるようになっております。 それで神殿騎士様が移動されたのがわかったのでございます」
ギルマスは額に汗をかいているようだ。
「そうか」
ルナはそういうと、ダンジョンの場所を聞いていた。
ダンジョンは街を出て北へ向かうとあるようだ。
それほど遠く離れているわけでもなく、歩いても5分くらいだという。
なるほど、この世界も街を維持するのにダンジョンが必要なのだろうなと、俺は勝手に理解。
地上と同じようなシステムなんだろうと思った。
「お気をつけて」と、ギルマスに見送られて俺たちはダンジョンに向かう。
ギルドを出て街を北へ向かって歩いている。
ギルドを出てから5人くらいの尾行者いる。
バレバレな感じだ。
距離的には30メートルくらい俺たちの後ろだろうか。
俺はルナに声を掛ける。
「ルナさん、後ろからついて来ているものがいます」
「ん、そうなのか? 魔素のかけらも感じないぞ」
ルナは言う。
確かにレベル的には22~3程度の連中だ。
街を抜け、北の城壁までの道だけになっている。
俺たちはゆっくりと歩いていた。
後ろの連中との距離が近くなってくる。
すると、後ろから声をかけられた。
「おい、そこの美人を連れたおっさん!」
お、おっさん?
いきなり呼びつけるのにおっさん?
俺は無視して歩いて行く。
「おい、おっさん、聞こえないのか、おっさん!!」
おっさん、おっさんと連呼している。
ルナが横でクスクスと笑う。
「テツよ、反応してやらなくていいのか?」
などと言ってくれる。
俺は黙って城壁入り口を目指した。
すると、つけてきていた奴等の3人程が俺たちの前に回る。
「はぁ、はぁ・・おっさん、呼んでいるのが聞こえなかったのか?」
若い男が少し息を切らしながら話してくる。
少し早足で歩いていたからな。
「うぉ、見ろよ。 あの黒髪の女、やっぱりスゲー美人だぜ」
「あぁ、そうだな。 こりゃ、レジェンド級のお宝物だ」
「ヒュー!!」
若者たちがニヤニヤしながらルナを見ていた。
「おっさん、さっきギルドマスターのところでダンジョンに行くとかどうとか言ってたよな? そんなヒョロイ身体で女連れ。 俺たちを用心棒に雇ったらどうだ?」
は?
何言ってるんだ、こいつ。
俺は黙って聞いている。
「おい、このおっさん口がきけないのかもな」
「あぁ、そうだな」
「まぁいい」
「おっさん、しゃべれないのなら聞くだけでもいい。 その美人さんを置いて行った方がいいぞ。 おっさんが入れるようなダンジョンじゃねぇからよ」
若い連中は好き勝手なことを言ってくれる。
俺は頭を掻きながら言う。
「いや、別に必要ないから」
!
若い連中は少し驚いたようだ。
「おい、あのおっさん、しゃべったぞ」
「誰だ、しゃべれないって言ったのは」
後ろにいた連中も俺たちの前にやってきていた。
「「うっわ、スゲー美人だよな」」
「やっぱ、見に来て正解だ」
5人でルナに注目していた。
ルナは黙ってジッと若い連中を見ている。
この雰囲気、ちょっとヤバいぞ。
ルナが少し怒っているというか、不快な感じを受けているようだ。
「お前たち、俺たちは2人で十分なんだ。 放っておいてくれ」
俺はそう言うと、ルナと一緒に歩いて行こうとした。
若い連中が前を塞ぐ。
「まぁ、そういうなよ、おっさん。 こんな美人をあんた一人で守れるわけがないだろう。 俺たちを雇った方がいいぜ」
若い連中はニヤニヤしている。
バレバレというか本能むき出しというか、ルナしか見えてないだろ。
しかし、ここで俺が応対しなければ、こいつら間違いなく死ぬ。
「お前たち、この女の人が目当てだろう。 だが、この女の人は誰にも属さない」
俺はそう言ってみた。
若い男たちは、少しキョトンとしていたが、笑いだす。
「あはは・・何を言い出すのかと思えば、誰にも属さないだとよ。 なぁ、おい、俺たちに属してくれればいいんだよなぁ」
「あはは・・そうだよ。 おっさん、俺たちが優しく言っているうちに選手交代だ」
俺は少し相手を探る能力があれば、自分達と雰囲気が違うことくらいわかりそうなものだと思っていた。
結果、違った。
「フッ、お前たちにも属するはずもない」
俺がそう言うと、男たちのヘイトは確かに俺の方に向いたようだ。
だが、ルナがニヤ~ッとして言う。
「テツよ、お主・・やはりかわいいのぉ」
うん、うんとうなずいて何やら一人満足している。
!!
「うぉ、スゲー色っぽい声だぞ」
「あぁ、顔だけじゃなく声まで・・たまらんな」
「いいか、全員で順番だぞ」
「わかっている、だが誰が一番先になるんだ?」
「俺だ・・」
「いや、俺だ・・」
若者たちがガヤガヤとなっていた。
・・・
こいつら、俺の言葉を全く聞いてないな。
やれやれ・・。
「ルナさん、行きましょう」
俺はそう言って、若者の横を通過しようとした。
!!
若者たちは会話と妄想に夢中だったようだが、俺たちの移動に気づく。
「お、おっさん! ちょっと待てよ・・」
そういって俺に触れようとすると、ルナが相手の伸ばしてきた右腕を切断していた。
手を切断された男は、自分の腕が無くなったことに気づかなかっただろう。
何が起きたのかもわからないかもしれない。
ただ、手を伸ばしていたらいきなり腕が無くなったようなものだ。
・・・
「ん? あれ? ぁ・・ああぁぁあ、腕・・腕、俺の腕がぁぁぁ!!」
腕を切断された男が叫んでいた。
「どうしたんだ?」
「おい!」
!!
「うわぁ! キューの腕が無くなっている・・」
「マジか・・いったい何が・・」
腕を切断された男はその場でしゃがみ込み、ただ叫んでいた。
「ル、ルナさん、やりすぎですよ」
俺はルナ言う。
「そうなのか? あやつ、テツに触れそうになったからな」
「そりゃ、そうですが・・軽く払う程度でいいんですよ」
「ふむ。 ワシは払ったつもりだったのだが・・脆すぎるな」
いやいや、そうじゃないでしょ。
俺は言葉が続かなかった。
俺は歩いて行き、腕が飛ばされた若者に回復魔法をかけてやる。
再生はできないが、痛みと止血はできるだろう。
すぐに若者たちは落ち着いてきた。
だが、完全にビビった目で俺たちを見ている。
「お、おっさん。 いったい何をしたんだ?」
若者の仲間の一人が聞いてきた。
「いや、別に何もしていないはずだが。 あの女の人が軽く手を払っただけだぞ」
俺はありのままを言った。
「そ、そんなバカなことがあるか! 手を払っただけで、人の腕が落ちるか!!」
若者が叫んでいる。
そりゃごもっともです。
でも、事実なんだしなぁ。
俺はそう思ってみたが、話してもわからないし面倒だ。
「まぁ、相手が悪かったな。 神殿かどこかで回復させてもらうといい。 じゃあな」
俺がそう言って行こうとすると、残りの若者が俺たちの前に立ちはだかる。
「おっさん。 こんなことをして無事に行けると思っているのか?」
「そうだ。 キューがこんなになって・・」
若者たちが自分たちの矜持を見せようと頑張っている感じだ。
悪いことじゃないんだが、相手を見誤ると死ぬぞ。
「う~ん・・お前たち、これで済んだのだからいいんじゃないか? 相手が悪すぎたんだ」
俺はそう言った。
若い連中は少しビクッとなったようだが、俺たちの前から移動する気配はない。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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