88 成長?
「・・ドレイク、どうじゃな?」
最長老が静かに問う。
「はい。 即答はできかねますが、私もその方が良いと思います」
ドレイクは答えた。
「まぁ、それほど急ぐこともあるまい。 ただ、他種族にはいろいろ根回しをしておいた方がいいだろう。 さてと、ワシも疲れたのでそろそろ根城に戻るとしよう」
最長老は椅子からゆっくりと立ち上がる。
影が絶妙のタイミングで最長老の動きを補助していた。
ゆっくりとした足取りで最長老は出口の方へ向かって行く。
三巨頭たちは最長老たちの動きを見ながら、ドレイクの影に隠れるように動く。
最長老はにっこりと笑いつぶやく。
「やれやれ、これがあの三巨頭かね? これからよろしくな」
三巨頭はビクッとしながら一歩後ろに下がっていた。
「年寄りには、案外堪えるのぉ」
最長老は笑いながら今度は俺の方へ目線を移す。
その目はしっかりと俺を見ている。
「ふむ。 地上からの使者よ・・ご苦労だったな。 事故か・・」
最長老はそう言うと目を閉じ、扉の方を向く。
そして、そのまま部屋の外へ影を伴い出て行った。
ドレイクは最長老が出て行った後、ふぅと力が抜けたように椅子に腰をかける。
三巨頭たちもドレイクの近くで心配そうな顔をしていた。
「ルナ様、これから大変なことになりそうです。 おっと、寝ておられましたな」
ドレイクは苦笑いをしながら言う
「ドレイクさん、まぁ争わないでいいのなら、それに越したことはないですよ」
俺がそう答えるとドレイクは微笑む。
「テツ殿、その通りです。 それに最長老様が言われたように、人種族は奢り昂っていたと思います。 これからが本当に始まるのですね。 はぁ・・」
ドレイクはどうしようもないと、あきらめモードの顔をしつつもどこか期待を持たせる雰囲気も持っていた。
俺はそれを確認し、ドレイクに言う。
「ドレイクさん、気休めかもしれませんが、あなたならきっとうまくまとめれますよ」
「ありがとう、テツ殿」
ドレイクがそう答える。
ふと見てみると、三巨頭たちはドレイクに寄り添って眠っていた。
ドレイクが優しい眼差しで見つめる。
「ドレイクさん、俺たちも宿泊しているところに帰りますね。 また来ます」
俺はそう言うとドレイクがうなずく。
「わかりました。 私の方も落ち着いたらご連絡差し上げます」
俺もうなずいてドレイクの執務室を出た。
ルナはまだ俺の背中で寝ている。
◇◇
俺はルナを背負って宿泊施設に帰って来た。
部屋に入り、ルナをベッドに降ろす。
ん?
ルナをベッドに横にして気づいたことがある。
何か大人っぽくなってないか?
あの子供だった時から俺の生命エネルギーで今の姿になったのは間違いない。
だが、少しだが雰囲気が大人びている感じがする。
気のせいか?
う~ん・・。
俺はルナの横に腰を下ろし、見つめていた。
「テツよ、清々(すがすが)しく風が流れているぞ」
ルナが静かに目を開けながらつぶやく。
「あ、ルナさん、気が付きましたか」
「うむ。 魔素が流れ出しているな」
ルナはそう言うとベッドから起き上がる。
俺はそのルナを見ながら思った。
やはり成長している。
「ルナさん、前よりも成長してませんか?」
俺は訊いてみた。
ルナは両手をゆっくり眺めたりしながら確認している。
「うむ。 そうかもしれんな。 ダンジョンもそうだが、正常な魔素の流れに反応しているのだろう。 力がみなぎるほどではないが、充実してくるのがわかるな」
ルナが微笑みながら言う。
マジか?
あんた今からまだ強くなっていくのか?
反則だろ。
心の声です、はい。
「テツよ、これでやっとあのシュークリームがお腹いっぱい食べられるのだな」
ルナが言う。
俺は笑ってしまった。
「ププ・・あっはっはっは・・」
「何か、可笑しなことを言ったか?」
ルナが不思議そうな顔で俺を見る。
「いえ、失礼しました。 ルナさんがいきなりシュークリームと言い出すもので笑ってしまいました。 全くの想定外の事に驚くよりも笑いがでました。 すみません」
俺も笑いながら答える。
「ふむ、そうか。 ま、よかろう」
ルナは顎に指を当て、うなずいている。
「ルナさん、何か食べに行きませんか? もう魔法陣を破壊しなくてもいいんですよね? それに後は自然と帰れるはずでしょ? だったら急ぐこともないですし・・」
俺はそう提案してみた。
「おぉ、そうだな。 テツよ、良いことを言う。 さて、どこのスイーツが良いかな?」
ルナが上の方を向いて考えていた。
「え? ルナさん、食事じゃないのですか?」
「テツは何か食べればよい。 ワシは・・そうじゃな、チョコ系を食べてみたいものだ」
ダメだこりゃ。
会話になっていない。
この人は甘いものオンリーなのか?
とはいえ、ルナと一緒に食べられるところがいいだろう。
この人を一人にしておくと、何かと不安過ぎる。
そうと決まれば、ギルドかこの宿泊施設の受付で聞けばわかるだろう。
俺とルナは早速宿泊施設の受付へと向かう。
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