81 地上への道
すぐに神殿に着き、俺たちはドレイクのところへ案内された。
すでに俺たちが来ることは知らされているようだ。
案内の人について行くと、先程と同じ部屋の前に到着。
案内の人がドアを開けてくれると、俺たちは中へ入って行く。
俺たちの後ろで静かにドアが閉じられる。
ドレイクが俺たちに背中を向けて立っていた。
ゆっくりと振り向き、俺たちを見る。
するとドレイクの動きが止まってしまった。
・・・
瞬きをすることもなくこちらを向いたまま動かない。
?
時間でも止まっているのか?
俺は集中してないぞ。
なんだ?
俺はわけもわからずドレイクを見る。
よく見ると、どうも俺を見ているのではなくルナを見ているようだった。
ドレイクがわずかに動いた。
ゆっくりと足を動かす。
目を大きく開けたまま、まるで操り人形のようなカクカクした動きで一歩を踏み出す。
両手をゆっくりと前に出して、何かを掴もうとするような格好だ。
指先がわなわなと震えている。
このおっさん、病気か?
俺はそう思いつつも、あまりに不自然な動きに少し警戒をする。
もしここで駆けてきたら遠慮なく殴る。
俺はそう思い、身構えていた。
ルナは平気そうだ。
自然体で立っている。
ドレイクはフラフラしながら歩いて来て、俺たちの手前で立ち止まり片膝をつく。
そのままルナを見つめて言う。
「お美しい・・」
「は?」
俺は思わず口から声が出た。
何言ってるんだ、このおっさん。
ドレイクはルナしか見えないようだ。
「お美しい・・」
同じ言葉を繰り返している。
ルナはドレイクを見たまま無言で微笑む。
「おぉ、微笑んでくださるのか。 失礼致しました。 私はドレイク・ドリアンと申します」
ドレイクは下を向き挨拶し、ゆっくりとルナを見つめる。
「今日、この日この瞬間のために私の人生があるのだと、今目覚めました。 確かルナ様というお名前と伺っております。 どうぞ私の妃になっていただけませんでしょうか?」
・・・
俺はあまりの衝撃で言葉がない。
アホか、このおっさん。
それ以外に言葉が浮かばない。
ルナがドレイクを見ながら笑う。
「人間、未熟だな。 出直して来い」
ドレイクはルナを見つめたまま言葉を出す。
「未熟とはどういうことでございましょう」
「言葉の通りだ。 まずは強さが足りぬようだ。 おぬしからは強い魔素を感じぬ。 足りぬな」
ルナは遠慮なく言う。
相手はこの都市の偉いさんだろうに。
俺の考えている不安など関係なく、ルナとドレイクは話す。
「つ、強さでございますか」
「そうだ」
ドレイクが少し間をおいて答える。
「ルナ様、私が強さを得ましたらお考えいただけますでしょうか」
「わからんが、話すことはできるだろう」
「ハッ」
ドレイクはそう答えると、節度正しく立ち上がる。
ルナさん、あんたいきなりチャームなどかけてないよな?
俺はそれを疑い、ルナに小声で訊いた。
「ルナさん、チャームをかけてないですよね?」
ルナは笑いながら答える。
「そんな面倒なことはしておらぬ」
俺がモタモタしていると、ドレイクがどうぞこちらへと席へ案内する。
俺がさっき来たときとえらい違いだな、おい!
ルナと俺は案内されるままに席につく。
ドレイクも向かい合って席につく。
ドレイクは俺の方は全く見ない。
「ルナ様、いったいどのような目的でこの都市へ来られたのでしょうか」
ドレイクが丁寧に問う。
・・・
このおっさん、いったいなんだ?
俺は珍しいものを見る目で見つめる。
「うむ。 ドレイクだったな。 ワシらがこの世界の外から来たことは知っているだろう」
ルナがそう言うと、ドレイクはうなずく。
「はい」
「ワシらは地上へ帰りたいのだ。 各地に配置されている魔法陣がこの世界の魔素の流れを歪めておる。 それが元通りになると地上へと戻ることも可能だという結論に達したのだ」
ドレイクはうなずいて聞いている。
「それでだ。 各地にある魔法陣の機能を無くすようにしてワシらは旅をしておるのだ。 後この都市だけなのだが、どうもこの都市の魔素は順調に流れておる。 そこで少し迷っておったのだ」
ルナがそこまで話すと、ドレイクがうなずきながら笑いだす。
「アッハハハ・・そうでしたか。 おっと、これは失礼しました。 実はルナ様、この都市の魔法陣は私が着任した時に、私が破壊しておきました・・」
・・・・
・・
ドレイクがいろいろと話してくれた。
魔素のコントロールなどできるはずもないこと。
人は己の身体がすべてであり、それを鍛え媒体にしてこそ意味がある。
などなど・・。
俺は聞きながら、このおっさんはちょっと変わっているが、まともな感じがして信頼できる人物だと思うようになった。
それに魔法陣が人種からなくなれば、俺たちって地上へ帰れるんだよなと思った。
でも、どうやって帰るんだ?
新たな疑問が浮かぶ。
「そうか。 ならば問題なかろう。 テツ、帰るぞ」
ルナはそう言って席を立とうとする。
俺は思わず訊いてしまった。
「ルナさん、帰るって・・地上へですか? どうやって帰るのです?」
ルナが笑いながら言う。
「フッ、精霊だったか、自然と帰れると言っていたであろう。 とりあえずは来た場所に行けば何かわかるだろう」
ルナは当たり前のように言う。
どうやらこの人には見えない不安というのはないらしい。
だが、ルナのその言葉を聞くと安心するのも事実だ。
俺も素直にそのまま席を立つ。
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