72 神官長たち
神殿内の応接室の前で神官職の人たちがあわただしく動いていた。
「・・あの三巨頭がいるのか?」
「ドレイク様もおられるらしい・・」
「・・いったい何が起こっているんだ?」
「余計なことは言わなくていい、さっさと作業をこなせ」
「・・フォルセティ様の姿が見えないぞ・・」
・・・
・・
いろんな言葉が飛び交っていた。
応接室の中。
広い大きなテーブルを囲んで、それぞれの都市の神官長が座っていた。
座長ともいうべき椅子はないが、マグニが座っている場所がどうも雰囲気が違う。
マグニを中心に左に三巨頭が座る。
右にドレイクが座り、それらに続き交易都市の神官長が座っていた。
10人ほどだけが急遽集まって来れたのだろう。
マグニが席を立ち言葉を発する。
「皆さん、急な招集にも関わらずお集まりいただき、感謝いたします。 単刀直入にお話しします。 イザベルのフォルセティ神官長が離反いたしました。 自分の都市にある魔法陣を自分ためだけに使用を企てたらしいのです」
マグニがそう発言すると、会場がザワザワと騒ぎ出す。
「・・本当か?」
「あのフォルセティ殿が・・まさか」
「あの魔法陣はすべてそろって初めて効力を発揮すると聞いていたが・・」
・・・
「オホン! それでそのことについて、急遽意見を伺いたかったのです」
マグニはそう言いながらも、集まった人の反応を見ていた。
おそらくフォルセティだけではあるまい。
わずかな反応。
その変化があるものはピックアップしておかなければ。
ただ、マグニは9割ほどの魔法陣が既に破壊されていることはまだ知りえていなかった。
ドレイクはマグニたちが話しているのを聞いていて、どうでもいいことだと思っていた。
目を閉じ考えている。
魔法陣のことなどどうでもいい。
人などはどうせ己の身体がすべてだ。
魔法もそうだが、自分という媒体があってこそ成り立つ。
その自分を信じ、鍛えないでどうするというのだ。
ドレイクは常々そう思っていた。
小賢しい策略などどうでもいい。
この会議も出席しなければ、面倒なことになる。
それだけで出席したに過ぎない。
それにドレイクの武装都市の魔法陣。
ドレイクが着任した時に引き継ぎ、ドレイク自身ですぐに破壊していた。
こんなものが存在してはいけない。
自然の摂理に反するものだ。
ドレイクとその側近だけが知っていた。
マグニがいろいろと話している。
三巨頭たちも目を閉じ黙って聞いている。
シーナの心が少しざわついている。
フォルセティのしたことは、まさに自分たちがこれからするであろうことだった。
だが、その前にフォルセティが捕らえられた。
これは僥倖だ。
ただその後、自分たちの都市へ帰って魔法陣を確認すると破壊されているのを知ることになるのだが。
マグニの話が終わり、最後に地上より来たと言う神殿騎士の話になった。
特に誰も気にしていなかった。
誰かが言った。
所詮は神殿騎士だろうと。
確かにそうだ。
みんながうなずく。
今は武装都市にいると言う。
移動するにしても、ほとんど情報が得られていない。
神殿に立ち寄らないからだ。
「本当かどうか、外の世界から来たというではないか。 ま、少し変わり者なのでしょう。 何せ神殿騎士様ですからな」
どこかの神官長が笑いながら言う。
会場で失笑がチラホラと沸き起こる。
「そうだな。 奴等は勝手気ままに振舞う連中が多い。 その尻ぬぐいに手を焼くが、まぁ戦闘力が高い連中が多いから飼っているに過ぎない」
その言葉に多くのものがうなずく。
マグニがドレイクの方を見て言う。
「いろんな意見が出ましたな。 どうですか、ドレイク殿? 貴殿のところに滞在中ということですが・・」
「マグニ様、私もまだ接触しておりません。 帰り次第、接触してみます」
ドレイクがそう言うとマグニは大きくうなずく。
マグニは全神官長の反応を見ていたが、特に不審な点はない。
思い過ごしか?
そう考えるが、油断はできない。
また、集まって来れなかった神官長たちも調査しなければいけない。
そんなことを考えながら、雑談が続く。
・・・
・・
特に得られるような情報はなかった。
マグニは言う。
「皆様、お忙しいのにありがとうございました。 モニター越しでは情報の漏洩の恐れがありましたので、直接お集まりいただきましたが、特に大きなものはないようでした。 無駄足を運ばせましたね。 申し訳ありません」
マグニは頭を下げる。
「マ、マグニ様、そんなことされますな・・」
会場から声が聞こえてくる。
マグニはゆっくりと上体を戻し、にっこりとしてうなずく。
「いえいえ、いいのです。 他に何か変わったことはありませんか? ないようでしたらこれで終わります」
マグニはそう言いながら会場を見渡す。
誰も動くものはいない。
マグニが片手を挙げると、三巨頭とドレイクがゆっくりと立ち上がる。
他の神官長もそれに合わせて立ち上がり、部屋の外へと移動を始めた。
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