66 あの怖いんですけど
<ビフレストダンジョン31階層:テツ視点>
30階層のボスはゴーレムとジャイアントだった。
俺は特に苦戦することもなく、即座に通過。
31階層に到達していた。
入り口付近の魔物をサクッと討伐し、ゆっくりと奥へと進んでいる。
ん?
入り口付近に誰か人の気配を感じた。
集中して見てみる。
どうやら2人の人のようだ。
ピピ・・。
レベル33とレベル31か。
結構高いレベルだな。
俺はそう思いつつ、見つからないように岩の影に隠れる。
現れた2人は入り口付近で少し歩いていたかと思うと、来た道を戻り始めていた。
◇
<ドレイクたち>
ドレイクは31階層へと足を踏み入れる。
「アッカよ、ここが誰も来たことのない最下層か」
「はい」
「寂しいな・・アーオインがいないと・・」
ドレイクは静かに言う。
「アッカ、今回は帰ろう。 このまま進むには危険が多すぎる。 それに急ぐこともあるまい」
「はい」
アッカはそう返事をすると、ドレイクと一緒に来た道を戻って行く。
◇
<テツ視点>
俺はダンジョン31階層入口を見つめていた。
2人の人影はそのまま入口の奥へと消えてゆく。
「なんだ? 階層だけカウントさせて取りあえず帰ったのかな?」
そうつぶやきながら、人の気配などがないことを確認。
「よし、ここまで来たのだから31階層ボスもクリアしておこう。 だが、ダンジョンマスターなどの余計な仕事みたいなのが増えるのは嫌だな・・」
俺はブツブツと言いながら、奥へと進んでゆく。
途中に魔物が現れるが、たいしたことはない。
最大でもレベル35くらいの魔物がいるくらいだ。
しばらく進むと、大きな壁が見える。
山というほどではないが、切り立った岩山だ。
その岩のところに大きな扉があった。
おそらくボス部屋だろう。
俺は少し息を吐き、気持ちを整える。
いくらレベルが低いといっても、油断はダメだ。
それでいままでどれだけ失敗してきたか。
そう考えると、少し緊張した。
適度の緊張は集中力を高める。
いい感じだ。
大きな扉にそっと触れると、ゆっくりと扉が開いてゆく。
俺は中へ入って行った。
俺が入ると、すぐに扉は閉まっていく。
ズーーン・・。
ん?
今、扉のところで黒い影が動いたような気がしたが・・気のせいか?
いや、それよりもボス部屋だ、集中しろ!
扉が完全に閉じられたようだ。
俺は前方を集中して見る。
ピピ・・。
ミノタウロス:レベル38×3
魔物が見えた。
「ミノタウロスか・・そういえば、こいつら固有結界を作るんだっけ?」
俺は独り言をつぶやきながら進んでいく。
!!
「よし! 一気に行こう」
加速する!
左足に力を入れて前に蹴り出す。
ほんの1瞬だろう。
すぐにミノタウロスの前に現れた。
相手は全く反応できていない。
俺は即座に飛燕を抜きながら魔法を纏わせる。
そのまま横薙ぎに一閃。
スパーン!!
目の前のミノタウロスは何が起きたかわからなかっただろう。
ミノタウロスの身体がゆっくりとズレていく。
そのまま蒸発。
残りの2体は、自分たちの前のミノタウロスが消えたのを確認したようだ。
その方向を向こうとする。
その間に俺は動き、近い方のミノタウロスをまたも横薙ぎに一閃。
スパン!!
返す刀で、隣のミノタウロスを縦切りに斬り抜いた。
ドン!
ふぅ・・ま、こんなものだな。
飛燕を収納。
ミノタウロスが蒸発し、3つの魔石が転がっていた。
俺は魔石を回収しながら少し違和感を感じていた。
この階層が確か最下層だったはずだ。
このミノタウロスがダンジョンマスターだったのだろうか。
それにしてはまるで意思など感じなかったし、ボス部屋の扉も開く気配がない。
ゆっくりと辺りを見渡してみる。
何かがいるような気配はない。
ん?
ミノタウロスたちの後ろ、岩の間に小さなくぼみがある。
俺はゆっくりと近づいて行った。
「こ、これは・・ミイラか?」
それを見て少し驚いた。
こげ茶色になった人のような形をした腕が、くぼみの中で椅子を掴むようにして座っている。
身体もどこか損傷しているようでもない。
ミイラはうつむいており、全体としてこげ茶色の骨に見える。
・・・
!!
俺はドキッとした。
ビクッと一歩下がる。
・・・
今、動いたよな?
違ったか?
こういった恐怖シリーズは苦手なんだよ。
お化け屋敷や心霊ものは最悪だ。
見たくもないし、体感したくもない。
そんなことを思いながらも、目が離せない。
・・・
!!
やっぱり動いた!
俺が動けない。
こげ茶色の頭がゆっくりと動き、俺の方を見る。
『・・まさか、ここまで来るものがいようとは・・』
ミイラから声?
いや違う。
念話のような言葉だ。
俺はそう思いながらも、どこか恐怖心が薄くなっていく。
ミイラの頭がゆっくりと起き上がり、俺の方を向く。
目のところは真っ黒だ。
あの怖いんですけど・・。
俺は動けずにジッと見ている。
『・・ワシはここのダンジョンマスターだ。 お主の名を聞こう』
俺は言葉が返せない。
今までも驚異的な存在は見てきた。
だが、すべて生きているものだった。
今、目の前にいるのはどうにも生の存在ではない。
いや、この世界では死ねば消滅するはずだ。
どういうことだ?
俺は頭の中でいろんな言葉が浮かぶ。
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