65 アーオイン
「はぁ、はぁ、はぁ・・これではジリ貧だな。 どうする?」
ドレイクはつぶやく。
答えを期待して発した言葉ではない。
「はぁ、はぁ・・ドレイク様、このままでは我々はいずれ倒れます。 私がどうにか奴の動きを封じてみます」
アーオインが言う。
!!
「アーオイン、どうやって動きを止めるというのだ」
ドレイクは不吉な予感を感じながらも、聞かずにはいられない。
「私のこの魔法銃に魔弾と私の魔力を込めれるだけ込めてみます。 おそらくそれで魔法銃は壊れるでしょう。 ですが、かなり威力のある魔法が放てると思います」
アーオインは答えながらも、ジャイアントの攻撃をかわしている。
ドレイク達も全力でかわす。
アッカはアーオインが死を覚悟していることを知った。
ドレイクにはそこまではわかってはいないようだ。
「だが、アーオインよ、魔法を放った後はどうなる。 お前は無防備ではないか。 その剣ではあの攻撃は防げまい」
ドレイクが声をかける。
「ドレイク様、ご心配なく。 魔法を放った瞬間に転移石を使って先に脱出させていただきます。 ですからこの剣を預かっていてください。 魔法を放つのに邪魔になります」
アーオインはそういいながら笑う。
ドレイクは剣を受け取ると、アーオインと距離を取った。
『アッカよ、私はおそらくここで死ぬ。 転移石はドレイク様の服に入れてある。 我々はドレイク様のお命だけは守らねばならない。 よろしく頼む』
アーオインがアッカに念話を送る。
!!
アッカは返す言葉がなかった。
だが、迷ってはいられない、考える時間もない。
わずかな時間が、アーオインの意思を無駄にする。
アッカはジャイアントの攻撃を避けながらアーオインの方を向き、小さくだが力強くうなずいた。
アーオインがニヤッと笑ったようだ。
アーオインがジャイアントから少し距離と取り、仁王立ちになる。
凄まじい魔力がアーオインのところで凝縮されていく。
まるで帯電しているかのように、アーオインの周りに青白いバチバチとした光が弾ける。
魔法銃をジャイアントに向け、照準を合わせる。
アーオインの詠唱も伴い、その身体が青白い光に包まれていく。
ジャイアントはプログラムされたかのように腕を振り回し攻撃をしている。
アーオインに向けて右腕を繰り出す。
同時にアーオインから青白い光が放たれた。
氷魔法のようだ。
ジャイアントの腕がアーオインに向かいながら凍ってゆく。
だが、腕はそのまま地上へと到達。
アーオインのいた場所が大きく穿たれ、土埃が舞う。
ジャイアントの右腕と右半身が氷で包まれている。
そのままグルッとドレイク達の方へ向く。
バキバキ・・ドーン!!
ジャイアントの右上半身がもげ落ちる。
その右上半身を失った姿のまま、左腕をドレイク達に向けて突き出してきた。
ドレイクはアーオインの剣を正面に構え、自身の魔力を剣に込める。
「うぉぉぉ!!!!」
アーオインの剣が青く光り、ドレイクの身体も少し光っているようだった。
武装闘気とまではいかないが、それに近い現象が起きていたようだ。
ジャイアントの腕をかわし、ドレイクは前に踏み出す。
ジャイアントの足の所へ進み、足を斬る。
ズバン!!
ジャイアントの左足の膝の部分が斬れたようだ。
そのままドレイクはジャイアントの右足も切断しようとする。
ズバン!
ジャイアントは向きを変えようとするが、足が動かないためにバランスを崩してその場に倒れる。
ドーーーン!!!
倒れた状態でもなお、左腕を動かしてドレイク達を殴ろうとする。
しかし、もはやこうなってはドレイク達に攻撃が当たるはずもない。
ドレイクとアッカはジャイアントに止めをさした。
しばらくするとジャイアントは消滅する。
その後に、魔石が残されていた。
ドレイクは魔石を拾いつつ、アーオインのいた場所へとゆっくりと歩いて行く。
大きな亀裂が作られている。
アーオインの跡形もない。
亀裂の前で、ドレイクは膝まづき震えていた。
「・・すまない、アーオイン。 なぜ、転移石を使わなかったのだ。 クッ、俺がまだ未熟なために・・すまない」
カランという音と共にドレイクの服から石が転がり落ちる。
ん?
ドレイクはその音の方を向いた。
!!
「こ、これは転移石ではないか、どういうことだ? 確かにアーオインに持たせたはずだが・・」
ドレイクは転移石を拾いつつ、アッカの方を見た。
アッカは言葉を出せないでいる。
その無言がすべてを語っていた。
ドレイクは即座に理解する。
「バカな・・アーオインよ。 自分の命を犠牲にして俺を守る必要はないといつも言っているだろう・・」
ドレイクは膝まづいたまま震えている。
その震える身体にそっとアッカが手を添えた。
「ドレイク様、我々はドレイク様のお命を守るのが使命です。 アーオインも何の不満もありますまい。 それにジャイアントを倒せたのです。 我らの勝利です」
アッカは流れる涙を拭きもせず、ドレイクに話していた。
ドレイクはその言葉を背中で聞きながら、ゆっくりと立ち上がる。
その背中は震えていない。
「・・アッカよ、これで残すは最下層のみだな」
「はい」
「だが、我々ではまだ遠い・・帰ろう」
「はい」
アッカは静かに返答する。
ドレイクはそう言うと、ボス部屋の扉が開いているのを見つめ、その方向に歩いて行った。
◇
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