57 ギルド
「あれ? ルナさん、床と一緒に移動して行ったのではなかったのですか?」
俺が聞くと、
「この床はな、歩こうと思えばいつでも歩けるのだ。 ただ、荷物などを運ぶ時に便利なだけだ。 それに生物は自分の力で動くのが良い」
ルナの言葉を聞きつつ、俺はなるほど、セグウェイのような感じか、と勝手に理解した。
ただ、自然に体重移動させるのはコツがいるようだが。
結局俺は歩くことにした。
ルナも付き合って歩いてくれている。
さて、新しい街に到着すれば、基本はギルドだな。
それはRPGでは鉄則だ。
この世界でも同じようなものだろう。
ターミナルビルの情報掲示板で、ギルドまでの道のりをライセンスカードに記憶させてある。
このビルから近いようだ。
ビルの外へ出てみる。
かなりの人が歩いていた。
歩く人専用の通路と、体重移動で移動できる通路が分かれている。
体重移動で移動できる通路は、ちょうど車道のような感じで設置されていた。
見れば、かなりの人が歩いている。
荷物を移動させる人たちだけは、車道を使っているようだった。
車道は高速道路のように張り巡らされている。
ビルのような建物に直接道路がつながっているようなところもある。
何と言うか、すごいな。
魔法と技術を融合させて発達すると、これほどの都市になるのか。
俺の見える一部分だけだが、それでも俺がいた世界基準よりは遥かに進歩していると感じる。
それに街にはゴミが落ちていない。
人などの文明レベルが順当に進歩してくれば、自然とモラルも向上するのだろうか。
それとも罰則が凄まじく厳しいのだろうか。
そんなことを考えながら街並みを見て歩く。
あれ?
そういえば、他の都市ではこんな装置はなかったな。
俺は不思議に思ったのでルナに訊く。
「ルナさん、この都市にはこういった移動する床の装置があるようですが、他の都市にはなかったですよね?」
ルナが即答してくれた。
「あぁ、そうだな。 明確な基準ではないが、かなりの人口規模がある都市では設置されているようだぞ。 そういった意味では、この都市は大きい街ということになる」
そんなルナの説明を聞きながら考えていた。
そういえば、街の人口が増えてくれば魔素管理でダンジョンなんかの管理が難しくなるんじゃなかったっけ?
それとも、それを維持できるだけの能力がこの街にはあるということか?
「なるほど・・それだけ大きな街だと、ダンジョンなんかも相当なんでしょうね」
俺がそうつぶやくと、ルナが笑いながら言う。
「まぁ、普通はそうなるだろう。 だが、魔石などの加工で魔素の管理をするところもある。 そういえば、レレの国も同じようなものだったぞ」
ルナが説明してくれる。
レレ?
「ルナさん、レレって誰です?」
俺は聞いてみた。
前に聞いたかもしれないが、覚えていない。
「あぁ、レレ・・レアのことだ。 レア・レイドルド、略してレレだ」
ルナが笑いながら言う。
「あの変なしゃべり方をするお姫様ですよね?」
俺はついつい言葉が出た。
「うむ。 そんなことよりも見てみろ、あの塔を」
ルナがそう言って指で差し示す。
その先にかなり高い塔が建っていた。
「あの塔がおそらく魔素を管理している一つだろう。 この街にどれほど設置されておるのかわからぬが、大きな魔法陣のポイントとして機能していると思うぞ。 それにダンジョンなんかも存在していれば、それほどダンジョンだけに頼らずとも人口は増やせるはずだ」
ルナが丁寧に説明してくれた。
話だけを聞いていると、ルナってとても頭がいいんじゃないかと思ってしまう。
俺がへぇ、はぁ、と言って聞いていると、ルナが笑いだす。
「フフ・・あはは・・テツよ、まぁこんなことは理解できなくても問題ないぞ。 それほど真剣に考えることはない。 管理者がしっかりと把握しておればよい。 それにこの街の魔素は澱みなく流れおる。 きちんと魔素の流れを管理できておるのだろう」
ルナが教えてくれるが、俺はやはり、はぁ、へぇの連続だ。
さて、そんな話を聞きながら歩いていると、ギルドが見えてきた。
・・・
どこかの百貨店か?
かなり大きな建物だ。
建物の前に到着。
「ビフレスト・ギルド」
なるほど、そのままだな。
入口上に看板が出ていた。
入り口は自動ドアのようだ。
俺たちが近づいて行くと、俺たちの身体より少し大きな幅で入り口が作られる。
無駄な空間が開かないシステムのようだ。
俺たちが中に入ると、すぐに入り口が閉じられていた。
中は中で吹き抜けの空間が広がっている。
大きな空間にステータスボードのような大きな画面があり、いろんな情報が提示されていた。
俺には初めて見るものが多くあった。
衝撃だ。
ギルドの中を歩いて行くと、少しずつ音が聞こえてくる。
俺は衝撃で周りの音が聞こえにくくなっていたのだろうか。
そんなことを思いながら俺は辺りを見渡していた。
ザワザワと活気のある雰囲気がする。
剣や斧、ハンマーなどを背中に抱えたり、魔法の杖を持っていたり、狙撃銃のようなものを背負っている人もいる。
何でもアリだな。
ルナが声をかけてくる。
「どうした、テツ。 街に到着すればギルドじゃなかったのか?」
「え、えぇ、そうですが、こんな派手というか、大きなギルドは初めてです。 驚きました」
「そうか。 まぁワシらのすることは決まっておるがな」
ルナは淡々と言う。
そうだった。
俺たちは魔法陣を破壊して、地上へと帰らなければいけない。
ただ、この街の雰囲気は一言、俺にとってはすごい。
「ルナさん、少し受付に行ってきていいですか? どんなところか感じてみたいのです」
俺は子供のようにワクワクしていた。
ルナもそれがわかったのだろう。
うなずいて言う。
「そうか。 ワシはそこのところで座っておるぞ」
俺は、そんなルナを見ながら、他の人に見えないようにアイテムボックスからモンブランを取り出す。
「ルナさん、これを食べて待っていてください」
俺の差し出したケーキを見て、ルナが驚く。
「おぉ! 気が利くな、テツ。 ゆっくりとしていいぞ」
ルナはうれしそうに顔をほころばせ、モンブランを持って席に移動した。
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