56 武装都市ビフレストに到着
<テツに声を掛けてきた冒険者たち>
椅子に座り、自分たちの椅子を移動させてリーダーの周りに集まっていた。
テツが見たら驚いただろう。
椅子がラクラクと移動でき、小さな会議場が作られていた。
その周りには簡易の遮音壁を張ることもできるようだ。
「で、プリカ、どうだった?」
リーダーが聞く。
プリカは首を横に振り、
「何も見えなかったわ。 いったい何者なのかしら?」
「マーネギはどうだった?」
「いや、俺の方でもわからなかったよ。 鑑定魔法を使ってみたんだが、あの男の武器が何で出来ているのかもわからない。 ??? のマークばかりだよ」
マーネギが言う。
リーダーのビーツがうなずきながらつぶやく。
「そうか・・いったい何者なんだろうな。 あのマッドドッグの斧を軽々と持ち上げるほどの奴だ。 相当なものだろう。 だが、今まで見たことも聞いたこともない連中だ。 女の方にしても、あれほどの美人ならどこかで耳にするはずだが、それもない。 わからないな・・」
ビーツは真剣に考えているようだった。
「・・リーダー・・」
プリカがビーツを睨む。
「あ、いや、すまない。 ただ、俺もあんな美人を見るのは初めてだったもので・・」
「リーダー、フォローになってないですよ」
マーネギに指摘され、ビーツは困惑した表情をしていた。
「リーダー、俺たちって強いですよね?」
ピマンが言う。
ビーツはうなずいて返答する。
「そうだなぁ・・ビフレストで間違いなく冒険者ランクは3位に位置している。 ギルドが証明している。 強いはずだ」
「ですよね? でも、あの男を見ていると何か違うというか、強さがわからなくなってくるんですよ。 でも、あの斧を振り回したのは事実ですし、あの男の武器をマッドドッグが持ち上げれなかったのも事実です。 何なのでしょうね?」
ピマンがつぶやく。
リーダーはその言葉を聞きながら考えていた。
俺たちは強いはずだ。
ランキング3位とはいっても、1位とそれほど変わるほどではない。
討伐した魔物のレベルが少しだけ1位の方が高かっただけだ。
俺のレベルが27。
他の仲間もレベル26くらいはある。
1位の連中もリーダーがレベル28だったはずで、後は俺たちと変わらない。
まさかあの男が俺たちよりもレベルが上なのか?
・・・
そんなはずはない。
このレベルになるまでいったいどれだけ危険を乗り越えてきたと思っているんだ。
他の冒険者仲間よりも危険なクエストを受け、命がけで勝ち取ってきた結果だ。
ビーツはそんなことを深く考えていた。
・・リー・・
・・リーダー・・
「リーダー!」
ビーツを呼ぶ声に、ハッとして顔を上げる。
ビーツが少し呆けた顔で仲間を見た。
「リーダー、何を考え込んでいるのです?」
プリカが聞く。
ビーツが笑いながら、答えた。
「いや、すまない。 あの連中のことを考えていたら、わからなくなってな」
ビーツは素直に答える。
「考えても仕方ないっしょ。 街に着けばいろいろわかりますよ」
マーネギが言葉を出す。
その言葉を聞くと少しホッとしたのか、ビーツは椅子に座ったまま両腕を上に突き上げて伸びをした。
「う~ん・・そうだな。 マーネギの言う通りだ。 さて、到着までまだ時間はある。 休憩しておこう」
ビーツがそう言うと皆椅子を元に戻して休息をした。
◇
<テツとルナ>
輸送車は静かに俺たちを運んでくれる。
俺は自然と目が覚めた。
特に振動があったわけではないが、人がザワザワと動いている。
どうやら間もなく目的地、武装都市ビフレストに到着のようだ。
武装都市ビフレスト:魔法もあるが、武技に特化した都市らしい。
神官長をトップに置き、ルールを決めているという。
政務なども神職やギルドと一緒に行っている、開けた都市のようだ。
治安も良く、神殿の評判も良いらしい。
輸送車の出口付近では人の列ができ始めていた。
みんなすぐに降りたいのだろう。
俺はそんなことを思いながら、ある程度人が進んでから移動する。
輸送車を降りてみると、まず飛び込んできたのは景観、都市だということだ。
それも近代というよりも、前の日本いや世界よりも進んだ世界じゃないのか?
そう思える雰囲気だった。
輸送車の到着したのはターミナル駅のようなところだった。
少し歩くと、長いエスカレーターのような階段が見える。
それに乗って下りて行く。
何階層に分かれているのかわからないが、いろんなところから輸送車が到着しているようだ。
外の景色も見える。
飛行物体も飛んでいる。
アニム王の帝都にあったような飛行船タイプの乗り物もあるようだ。
それに魔物だろうか、それに乗って移動している人も目に付く。
俺はそれを見て思わずつぶやいた。
「あれって、ガーゴイルじゃないのか?」
俺の声を聞き、ルナが横で答えてくれる。
「うむ、そうじゃな。 おとなしく扱いやすいのだろう」
その言葉を聞きながら、下へと移動していく。
エスカレーターの最下層だろうか、到着し一歩踏み出そうとすると、階段上の床がそのまま水平移動する。
俺は妙につまづいて転びそうになった。
「・・おっとっと・・」
取りあえず転ばずに済んだようだ。
後ろの人たちにはクスクスと笑われてしまう。
ちょっと恥ずかしいな。
ルナは平気でそのまま立っていた。
「まさか、下っている床がそのまま水平移動するなんて思ってもみませんでした」
俺は自分の恥ずかしさをごまかすために、言わなくてもいい言葉をつぶやく。
ルナは聞いているのかどうかわからないが、前を向いている。
「テツよ、お前はこういった都市は初めてか?」
ルナが聞く。
「えぇ、そりゃこんな自然に水平移動する床がある施設なんて、俺の世界では存在しませんよ」
俺は即座に回答。
「まぁ、魔法で動いているからな。 アニムのところでもあるのではないか?」
ルナが言う。
「う~ん・・なかったような気がしますが・・」
俺が少し考えていると、ルナが言う。
「そうか! まだ地球人が慣れておらぬから、そういった施設は設置していないのかもしれない。 どのみち簡単に設置できるからな」
ルナは軽く話すと身体を左へ傾けていた。
すると、ルナの移動方向が左へと向く。
俺も同じように急いでやってみるが、できなかった。
ゴロン。
転んでしまった。
・・情けない。
反射的に周りを見渡して、急いで立ち上がる。
ルナが歩いて近寄ってきた。
あれ?
移動する床に乗っていたのではなかったのか?
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