46 来なかったようだな
ドウブたちの記憶では、神殿騎士はダンジョンで行方不明になっているらしい。
ドウブたちと遭遇することなく、また25階層にも現れなかったということだ。
俺たちの記憶がドウブたちから消えていた。
ルナが記憶を操作しているときに、ルナ様のことを忘れるのですか? とドウブが泣きながら叫んでいた。
本当につらそうだった。
ルナはサクッと記憶を改ざん。
容赦ないな。
「さて、行くかテツ」
ルナが俺に言う。
「はい。 でもダンジョンを戻って行かなければいけませんね」
「うむ。 まぁ、ダンジョンをクリアしてもいいかもしれぬが、既に前の街でクリアしたから十分だしな」
ルナが微笑みながら答える。
「そうですか、ではゆっくりと帰りますか。 それにしても、このアホずらの3人は放置でいいのですか?」
俺は情けない顔をして静止している三巨頭を見て言う。
半分くらい口を開けて、動きが止まっている。
「後少しすれば気が付くだろう。 その時にはすべて忘れている。 放っておけ」
ルナはそう言って三巨頭に背中を向け、階層入口へと向かって行く。
俺も一緒に移動。
俺には言葉がない。
三巨頭たちが遠ざかって行く。
移動しながらルナが俺をチラチラと見る。
俺は無視。
ルナが少し早く歩いて、俺の前へ出ようとする。
俺も抜かれまいとして、早足になる。
・・・
・・
そんなイタチごっこをしばらくしていると、お互いに息が上がってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・テツよ、お主意地悪いぞ」
「はぁ、はぁ・・ルナさんこそ、わかっていますよ。 またスイーツでしょ、はぁ、はぁ・・」
「ふぅ・・わかっているのなら早く出せ!」
ルナが呼吸を整えながら言う。
俺たちは既に地上へと帰って来ていた。
途中の経路はよく覚えていない。
おそらくだんだんと凄まじい速さになっていたに違いない。
冒険者たちのことなど俺たちは目に入らなかった。
ただお互いに前へ前へ出ようとしていただけだ。
俺たちはダンジョンから出て、街へ向かって歩いている。
息も整って普通の状態に戻っていた。
ルナがまだ恨めしそうに俺を見る。
わかっている。
わかっているんだ。
だが、こんな顔をされたら男はダメになるんじゃないか?
どんなことをされても許してしまうだろう。
・・
男って、ほんとにダメな生き物だな。
俺は自分と会話しているが、負けた。
「わかりました。 ルナさん、あまり食べ過ぎないでくださいね」
俺はそう言って、またまたルナにスイーツを出す。
三巨頭も殺すことなくうまく解決してくれた。
ご褒美だな。
俺はそんな風に思ってみた。
今度はチーズケーキと抹茶ロールだ。
俺は抹茶が苦手なので、これはいくら食べてくれてもいい。
ただ、フレイアたちが大好きなのでストックしていた。
スーパーエイトで仕入れたものだ。
ルナが目を大きくして喜んでいる。
「テツ! チーズケーキではないか! それに抹茶ロールも・・あるのなら、サッサと出さぬか!」
ルナが少し声を大きくしながら、俺の手からスイーツを奪う。
!
は、速い!
俺はルナの動きが見えなかった。
1/10の分身体のはずだ。
見えなかったぞ。
俺は少し驚く。
それと同時に、ルナの見方を修正する。
チビから大きくなったことで、その基礎能力がかなり向上しているんじゃないのか?
そんなことを思う。
「ルナさん、この魔法都市にはもう用はないですね」
俺はルナに聞いてみる。
・・・
聞いていないな。
ルナはニコニコしながら抹茶ロールを食べていた。
「ん? なんだテツ? やはりこの抹茶ロールだが、お茶の苦みを少し残しつつ、この甘さがたまらんな」
「そうですか。 で、ルナさんこれからどうします?」
俺は改めて聞いてみる。
「どうするも何も、街の外へ出て来る途中にあった2つの魔法陣を潰しておくぞ」
ルナが当たり前のように答える。
なんだこの人・・きちんと考えているんだな。
「そうですか、わかりました。 で、その後は武装都市へと向かうわけですね」
俺がそう答えると、少し最後に残していたチーズケーキをうれしそうに食べていた。
やっぱ、聞いていないか。
◇◇
<バナヘイムのダンジョン25階層>
ドウブたち3人が立っていた。
「ドウブよ、例の神殿騎士は現れないな」
シーナが言う。
三巨頭たちの意識が戻ったようだ。
「うむ。 おそらくここまでたどり着けなかったのだろう」
ドウブが答えるとインパはうなずく。
「これ以上待っても仕方ない。 我らも地上へ戻るか」
シーナがドウブに聞いていた。
「そうだな。 結局は大したことはなかったようだ。 もし、ここまで到達したとしても、我らの前に立つこともできないだろう」
「ドウブに同意だ。 戦闘が起こっても・・いや、戦闘と呼べるレベルにすらならないな。 我ら3人が相手では、息すらできまい」
シーナがそう言うと、ドウブは頬を片方だけ吊り上げて笑う。
「さぁ、行こう」
ドウブがそう言うと、みんなで地上へと戻って行った。
◇◇
俺達はバナヘイムの街を出て、歩いて移動していた。
尾行者はいないようだ。
ルナが妙にやる気というか、前向きに動いている。
結構な速度で移動をし、2つの魔法陣をサクッと破壊。
あっけなかった。
その後はゆっくりと歩きながら、武装都市へと向かっている。
場所はライセンスカードでわかるようになっている。
これも地上と同じシステムだ。
魔術都市と武装都市とはそれほど離れていない。
普通に歩くと、感覚時間で1日くらいはかかるんじゃないかと思う。
ルナが言うには途中に魔方陣らしきものがあると言う。
これで5つ目の魔法陣になる。
確か全部で6個くらいの魔法陣があったんじゃないか?
そんなことを俺は頭に思い浮かべてみる。
まぁ、1つでも破壊しておけば発動はできないだろう。
それにここまですべてを破壊しているんだ。
再生するにも相当の時間が必要だろう。
さて、それよりもルナのやる気というか、前向きな姿勢が気になる。
「ルナさん、あの魔術都市を出てから何かやる気になってないですか?」
俺は聞いてみた。
ルナは歩きながら前を向いて答える。
「そりゃそうだろう、テツ。 あのしっとりとしたシュークリーム・・もうこれ以上食べれないというくらい食べたいのだ。 それしか頭にない!」
ルナがきっぱりと返事をする。
この人は、この世界というよりもシュークリームのことで頭がいっぱいだったんだ。
この世界の住人よりも、シュークリームの方が比重が大きいんだ。
ある意味、凄いな。
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