45 脆すぎる
ドウブが何やら叫んでいるのが聞こえた。
「マキシマム・ファイアストーム!」
魔法銃を持ったやつも遠慮なく俺たちに向けて発砲していた。
小さな青い光の弾が4つほどこちらに向かって来る。
炎の塊よりも速く飛んできていたので、俺は飛燕で3つほど斬りつけた。
最後の1つだけが俺の横に着弾し、氷の柱を展開していく。
その直後、炎の竜巻のようなものが俺たちを囲んでいった。
◇
ドウブは満足そうな顔で炎の竜巻を見つめる。
「これでは死体も残らんな。 しかし、あの女・・惜しいことをした」
ドウブがつぶやく。
「ドウブ、あなたはまた・・それよりも、私の撃った魔法弾を弾かれたような感じがしたのだけれど・・まさかね」
シーナが少し不安そうな顔をしてつぶやく。
「シーナよ、魔法弾を弾くやつなどいるはずがない。 それよりもいったいどうやって魔法陣の在処を知ったのだろうか?」
ドウブが言う。
「さぁ、私にはわからないわ。 さて、用も済んだわね。 帰るとしましょう」
シーナがドウブを見て、お互いにうなずくとその場を去ろうする。
ダンジョンからの帰還は、階層を戻って行くしかない。
三巨頭は25階層の入口へ向かおうとしていた。
最初に気づいたのはインパだった。
炎の渦が途切れ、そのかすかな間に人が見えた気がした。
!!
まさか?
インパが立ち止まる。
「どうした、インパよ」
ドウブが声をかける。
インパは目を凝らして炎を見つめる。
だんだんと炎が収まってきた。
炎の切れ目が大きくなり、やはりそこに人影が見えた。
ドウブとシーナも確認。
!!
「まさか・・俺の炎を受けて形が残っているのか?」
ドウブがつぶやく。
炎が完全に消えると、さらに驚く。
!!!
無傷!
「ありえない・・」
シーナもつぶやく。
インパは言葉を失っていた。
「な、なんだあの光は?」
ドウブが小さな声で言う。
全員がテツの身体を覆っている光を見つめていた。
俺は神光気を解き、ドウブたちを見る。
これは神光気の必要はなかったな。
普通の防御魔法だけで十分だったようだ。
「ルナさん、どうします?」
俺はルナに聞いてみた。
ルナは微笑みながら、魔法で完全にくつろげる椅子を作って勝手に座っていた。
「テツ、ワシは魔法陣の位置を探ってみる。 適当にやっておいてくれ」
そういうと、目を閉じてまるで寝ているようだった。
「はい、わかりました」
俺はそう答え、ドウブたちの方へ歩いて行く。
俺が3歩ほど歩いたときだろうか。
シーナが魔法銃で俺に向かってまた発砲。
こいつ、いきなりばかりで失礼なやつだな。
今度は黄色い弾が4発、俺に向かって飛んでくる。
俺は一気に駆けて行き、その弾をすべて切断。
小さな爆発が空中で起こっていた。
相手には俺の動きは見えないようだ。
明らかに焦っている。
ドウブはどうしていいのかわからないといった感じだ。
そのドウブの前で俺は停止する。
!!
ドウブが驚いていた。
いきなり消えて、自分の前に現れた感じだろう。
ドウブが杖を俺の方へ向けようとする。
俺は少し迷ったが、杖を持ったドウブの腕を斬り落とす。
同時にシーナの魔法銃を持った腕も斬り落としていた。
・・・
何というか、一言、虚しい。
少し腹立たしかったが、俺の中に罪悪感が沸き起こる。
攻撃を仕掛けられたから反撃したに過ぎないが、弱すぎる。
あまりにも弱すぎる、脆すぎる。
何だこれ?
これじゃ、俺が完全に悪いことをしている感じだ。
俺はそこで動きを止めて、飛燕を収納。
ドウブたちを見つめた。
インパだっけ?
完全に怯えた目で俺を見ている。
・・・
俺の方がショックを受けるぞ。
ドウブは斬り落とされた方の腕を残りの腕で押えて俺を見る。
シーナは腕を抱えたままうずくまっている。
「き、貴様・・いったい何者なのだ? 我らをどうするつもりだ?」
ドウブは痛みをこらえ、震えながら聞いてきた。
「いや・・別にどうすることもないのだが・・いきなり攻撃されたから反撃しただけだ」
俺は素直に答えた。
「なんだと、どういうことだ? それほどの実力があるにも関わらず、何も望まぬのか? バカな、それでは・・」
ドウブがそこまで言うと、ルナが俺の横に来ていた。
「チャーム」
ルナが3人に魔法をかける。
ドウブとシーナは斬り落とされた腕の痛みなど忘れたように笑顔になっていた。
インパもニコニコしている。
・・・
・・
後はルナが情報を引き出し、全員の記憶を改ざんしていた。
魔法陣の正確な位置を聞き把握。
ルナがドウブたちの腕も回復させる。
完全に再生していた。
どうやらこの魔法陣を使って、バナヘイムの都市で独自に魔素を使う計画だったようだ。
光の巫女などがいれば、逆に邪魔にさえなったかもしれないという。
また、光の巫女を利用して各都市と連携して大魔法陣を発動し、人種族に多くの魔素を流れ込ませる大計画があるそうだ。
このバナヘイムだけは独自でその魔素を多く取り込むみたいだったが。
だが、すでに魔法陣は俺たちによって破壊されている。
無理だろう。
俺たちはその情報からダンジョンに設置されていた魔法陣へと向かう。
そしてすぐに破壊。
ドウブたちは俺たちが帰って来るまでここで待機させた。
帰ってくると、きちんと待っていた。
その待つことが至高の喜びのようだった。
チャームは怖いな。
俺は改めてそう思って見ていた。
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