40 25階層へ
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
感謝です。
いつも食べさせるシュークリームはスーパーエイトのものだ。
それはそれでおいしいのだが、皮がしっとりとしているのはこの専門店だけしかない。
ルナがそのシュークリームを見てうれしそうな顔をする。
子供か!
「テツ、シュークリームではないか。 しかも、これは初めて見るぞ! お主、いったいどれほどおいしいスイーツを知っておるのだ。 地上へ帰ったら案内しろよ」
そう言いながらルナがシュークリームを開けて一口食べる。
!!
驚いたようだ。
「テ、テツ!! なんだこれは? サクッとする皮かと思ったら、しっとりとして無茶苦茶おいしいじゃないか!」
ルナが目を大きくして言う。
即座に手に持っていた残りを口に放り込む。
その後でコーヒーも飲んでいた。
またまたコメントをいただいた。
「テツ、このコーヒーもおいしいな。 フレイアのところのものと違うな」
「はい。 俺が自分で豆を混ぜて挽いたものです」
「そうか。 お主がコーヒーを淹れた方が良くないか? うむ、おいしい」
ルナが好き勝手なことを言ってくれる。
俺は自分が満足すればそれでいい。
ルナが次のシュークリームを食べていた。
先程の街で食べたように、パクパクとは食べていない。
ゆっくりと丁寧に食べている。
「ルナさん、やけにゆっくり食べますね」
俺は思わず聞いてみる。
「うむ。 何か、一気に食べるのがもったいなくてな」
ルナがシュークリームを見ながら言う。
「ルナさん、確かにそうたくさんあるわけではないので、味わってくださいね」
嘘だ。
俺は取りあえずはそう言ってみる。
「な、何~! それならば、なおさらもったいないではないか。 これは早く地上へ帰らねばならんな」
ルナがつぶやく。
この人はこの世界よりもスイーツの方が重要なようだ。
俺はそんなルナを見ながらコーヒーを飲み、ピクニック気分を味わっていた。
◇◇
テツたちを尾行していた影が地上へ戻っていた。
最長老のところへ戻ることなく、三巨頭の影のところへ来ている。
三巨頭の影が2人いた。
「おやおや、これは珍しい。 最長老のところの影ではありませんか」
三巨頭の影が言う。
「お主たち、神殿騎士をつけていたであろう」
「えぇ、それが仕事でしたからね」
「では、ダンジョンに向かったのも知っているな」
「もちろんです。 あなたもつけていたのですね」
影たちは事実を確認し合っていた。
「ならば、話が早い。 あの神殿騎士たちだが、既に20階層にいるぞ」
!!
「「な、なんですって?」」
三巨頭の影たちは驚いたようだ。
「まさか・・まだダンジョンに入って2時間も経過しておりませんよ。 そんな・・ですが、あなたが言うのですから事実なのでしょう」
最長老の影がうなずく。
「我も20階層までしか攻略しておらぬから、これから先はわからぬが知らせておこうと思ってな」
「そうですか・・ありがとうございます。 我らも早速報告してきます。 感謝いたします」
三巨頭の影はそう言うと、即座に行動に移っていった。
最長老の影も自分の主のところへと戻って行く。
◇
三巨頭が軽食をしている部屋に影が現れる。
影が近づいてささやく。
・・・
影の報告を受けて三巨頭の1人、インパが椅子を蹴り立ち上がっていた。
「そんなバカな!!」
「どうしたのだインパよ、そう興奮するな」
「いやしかし・・・」
インパは影からの報告を残りの2人に伝えた。
・・・
みんな食事の動きが止まる。
驚いたようだ。
インパが興奮気味に話す。
「あまりにも早すぎる。 いや、しかし・・それほどの能力者ということか? 警戒せねばなるまい」
ドウブは腕を組んで目を閉じている。
「わからんが、ある程度の能力者であるのは間違いないだろう。 だが特殊なアイテムを持っているのかもしれぬ。 とにかくそこまで驚くほどのことでもあるまい。 我らでも力を使って攻略すれば、これくらいの時間は何でもない」
シーナが横から言う。
その言葉を聞いて、インパは顔を引きつらせながらも席につく。
「そ、そうだな。 だが、我らほどの力を持っていると考えて対処するべきなのかもしれぬな」
インパが真剣な顔で言う。
「あっはははは・・・インパよ、それほど悩むことはないぞ」
ドウブが笑っている。
インパはドウブの方を見つめる。
シーナも微笑みながらドウブを見る。
「どいうことだ、ドウブよ」
インパには理解できない。
「神殿騎士だが、計測器の結果で突出した何かがあるかもしれないと言っただろう。 おそらく移動速度が相当に速いか、隠蔽スキルが異常に高いか、そういった特殊スキルがあるのだろう。 でなければこの移動速度はありえない」
シーナもうなずいていた。
「そんな特殊スキルが・・確かに、そう考えればありえない話でもない」
インパは完全には納得していないようだが、とりあえずは落ち着いて来たようだ。
「そうだな・・インパの不安もわからんでもない。 どうだ、シーナよ。 我々も少し早いが25階層へと移動するか」
ドウブがそういうと、シーナもうなずく。
「そうですね、ちょうどよい腹ごなしになるでしょう。 それに魔法銃もここにありますしね」
シーナはそう言うと腰の辺りを触れる。
「ワシもこの杖を神殿から持ってきたのだ」
ドウブもニヤッとして杖を見せる。
「そ、それは・・」
インパが震える手を伸ばしながらつぶやいていた。
「うむ。 これでワシの魔力が増幅される。 シーナの魔法銃も上位魔法をより強い威力で放てるようになるだろう」
ドウブが落ち着いた口調で話すと、全員でゆっくりと席を立った。
三巨頭たちは慌てるでもなく、ゆっくりと部屋を出て行く。
インパだけはなぜかイライラしていた。
わかっている。
移動速度はともかく、階層ガーディアン:ボスの強さは人に合わせて変化はしてくれまい。
それを確実に突破しているのだ。
うまく言語化できないが、それがインパに妙な不安感を与えているようだった。
他の2人は気づいているのかいないのか、それはわからない。
敢えて気づかないようにしているのかもしれない。
まぁ、行ってみなければ始まらないことは事実だ。
◇◇
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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