31 魔術都市バナヘイム
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
感謝です。
俺はルナを背負ったままギルドの入口に到着。
輸送車の発着場から歩いてきた。
街は明るい感じがする。
街のところどころに露店が出ていているが、こじんまりとして軽い食事もできそうだ。
魔術都市などというから、歩く人は杖などを持った人が多いのかと思ったが、手ぶらで歩く人が多い。
たまにステッキみたいなのを持っている人がいる。
やはり銃がメインになっているのだろうか。
まぁ、魔法を放つ触媒みたいなものだからな。
何でもいいはずなのだが、銃というと俺にはあまり想像できない。
ギルドの入口を通過。
中はきれいな落ち着いた空間が広がっていた。
どこかの図書館兼カフェといった感じだ。
地上であったような空港ロビー風とは違う。
それほどザワザワした感じはない。
掲示板のところは同じようにデジタルサイネージっぽい表示だ。
俺はギルドの中をゆっくりと歩きながら、どこか座れる場所を探していた。
何か飲み物を提供しているカウンターの前に、大きな円形状のドーナツ型の椅子を見つける。
そこへ移動して、ルナを背中から降ろし俺の膝の上に頭を乗せて座る。
ルナが起きるまで、このまま休憩していよう。
そう思い、ギルドの中をゆっくりと見渡す。
やっぱり、こういった雰囲気がいいな。
改めてそう思う。
ゲームの中に来たような感覚になり、妙にワクワクする。
俺はルナの頭をそっと撫でながらゆったりしていると、横から声を掛けられた。
「お客さん、冒険者かい?」
カウンターで飲み物を提供している人だ。
俺は声の方を向き、軽く一礼。
「あ、はい。 そうですが・・」
「そうだろう。 魔術師のような感じじゃないし、剣をぶら下げてるなんて、このバナヘイムじゃそうそう見かけないからね」
おばさんと呼ぶには失礼な感じだが、チャキチャキとして元気な雰囲気の女の人が言う。
「そうなんですか? 剣って、珍しいのですか?」
俺はこの世界ではあまり剣を見かけていないので、素直に聞いてみた。
「まぁ魔術都市じゃぁ、珍しい方だね。 武装都市の方へ行けば、かなりいるという話だが、私も行ったことがないからね。 それよりも、お連れの女の人は大丈夫かい? さっきから横になったまま動かないし・・何なら神殿に行って回復させてもらうといいと思って、声をかけさせてもらったんだよ」
女の人はそういうと、いらっしゃい、と言ってお客に飲み物を提供していた。
その接客が終わると、また俺の方を向いて笑顔をくれる。
「お姉さん、何かおいしい飲み物をいただけますか?」
俺は思わずそう言ってしまった。
「そうこなくっちゃ。 あたしのオススメでいいかね?」
女の人はそう言う。
商売上手じゃないか、あんた。
俺はそう思いつつも、ルナの頭をそっと移動させて、女の人のカウンターへ移動。
女の人が飲み物を入れてくれて、紙コップのような入れ物で手渡してくれる。
「250ギルだよ」
俺はそれを聞いて驚いた。
ギルって言ったよな?
アニム王のところとお金の名称が同じだ。
・・・
あ!
そういえば俺・・お金持ってないぞ。
帝都のライセンスカード出しても大丈夫なのか?
いや、神殿騎士のライセンスカードがあったじゃないか。
そう思い、神殿騎士のライセンスカードを出してみた。
お金が入っているのかどうかわからない。
女の人は俺のライセンスカードを見ると、少し驚いていた。
「あんた・・神殿騎士だったのかい。 そりゃ変わった感じがするわけだ。 でも、お金はいただくよ」
そういってライセンスカードをカウンターのパネルに触れさせる。
「まいどあり~」
女の人はそういって、ライセンスカードを返してくれた。
俺はホッとした。
きちんとお金が入っていたようだ。
ただ、ほんの少しの額だったが。
それにしても神殿騎士って、やっぱりやっかいものなのかな?
それよりも、お金を持っていないとやはり困るな。
後で掲示板でも見てみよう。
俺はそう思うと、飲み物を持ってルナのところへ戻る。
飲み物を持ったままルナの横に座る。
俺が座るとルナが目をゆっくりと開けた。
下から俺を見る。
「テツよ、ここは魔術都市か?」
ルナが聞く。
俺は軽く微笑みうなずく。
「えぇ、そうですよ。 どこか不調なところはありませんか、ルナさん」
「うむ、問題ない。 集中しているとすぐに疲れて眠ってしまうようだな」
ルナが小さな声でつぶやいていた。
「え? 集中?」
俺がオウム返しで聞くと、ルナは何でもないと言って身体を起こす。
「ルナさん、飲み物どうぞ」
俺はルナに飲み物を差し出す。
「ふぅ・・すまんな、テツ」
ルナはカップを持ち、グビッと飲み物を飲む。
「おぉ、うまいな、これは」
カップを見つめて喜んでいる。
そして、俺の方をチラっと見て来た。
・・・
その目・・わかっている。
スイーツを所望のはずだ。
「ルナさん、あまり食べすぎるとダメですよ」
俺が先に言ってみた。
ルナは少しニヤッとして言う。
「おや? テツは予知能力でも身につけたのか? ワシはまだ何も言ってないぞ」
「いえ、そういうわけではありません。 洞察力です。 ルナさんのその顔、そして飲み物を飲んだ直後の動き・・高い確率でスイーツをお望みでしょう?」
「テツよ、たいしたものだな。 それだけわかっているのなら、よこせ」
「ルナさん、食べ過ぎです。 もう無くなりますよ」
「な、な、なに~!!」
俺の返答に、ルナが少し大きな声を出す。
嘘だ。
まだまだたっぷりとスイーツはある。
俺たちの近くにいた連中が変な顔で俺たちを見る。
こりゃ変に注目を集めてしまう。
ただでさえ、ルナの美人度で普通に注目されているというのに。
俺は思わず、やってはいけない泣く子を黙らせるアイテムを使ってしまった。
ササッとルナにスイーツを提供。
ルナは目を大きくして喜んでいた。
・・・
この人、絶対わざとやっているよな。
ルナはスイーツを食べ、飲み物を飲み、またスイーツを食べている。
ダメだな、こりゃ。
「テツよ、ワシはこの甘いものがないと動けないのだ」
ルナがモグモグしながら言う。
・・・
演技か?
やってくれる。
まぁいい。
「ルナさん、この世界でも何かにつけてお金が必要みたいです。 通貨はギルを使っているようで、地上と同じようです」
「・・・・」
ルナは食べながら、飲みながらで聞いていない。
・・・
スイーツを平らげ落ち着いたようだ。
「テツ、お小遣い稼ぎをしなければいけないというわけだな」
聞いていたのかこの人。
「えぇ、そうです」
俺がそう答えると、ルナがニヤッとしながら言う。
「どれ、パッと稼げるものを提供してやればいい」
ルナがアイテムボックスから魔石を取り出していた。
!
そうか、魔石を売ればいいんだ。
この世界にだって魔物はいるんだ。
バジリスクでも手こずるレベルだ。
かなりの値段で売れるんじゃないか?
あれ?
そういえば、あのイザベルのダンジョンで倒したバジリスクの魔石って、あったっけ?
俺はそう思いブツブツとつぶやくと、俺が気にしてなかっただけであったようだ。
ルナが教えてくれた。
すると、ルナが勝手にギルドのカウンターへと向かって行く。
俺は慌ててその背中を追う。
ギルドの受付に行き、ルナがいきなり話しかけていた。
「おい女。 この魔石を鑑定しろ」
受付で座っている冒険者だろう男の人がルナを見て少しイラついているようだ。
そりゃそうだろう。
自分の順番のはずだ。
俺が急いで謝る。
「すみません、順番を守らずに申し訳ありません。 この人、ちょっと常識が足りないのですよ」
俺がそう言ってルナを後ろに引っ張る。
「な、何をするテツ。 いいではないか。 ちょっ・・待て」
ルナが俺に引きずられながらわめいていた。
受付から少し距離を取り、ルナに言う。
「ルナさん、きちんと順番を守ってください」
「テツよ、ワシはただ聞いていただけだ」
「それがいけないのです。 聞くだけでも順番というものがあるのです」
何でこんな子供に教えることを言わなきゃいけないんだ?
「面倒だなぁ・・」
ルナがつぶやく。
それでもルナは俺の言うことに従ってくれた。
俺は順番を取り、3番目になるようだ。
後で冷静に考えてみると、ルナという存在に対して人間のルールを当てはめようとしていることがおかしなことなのだ。
それでも人間の社会で行動するので、そのルールは極力守っていかなければいけないだろう。
だからこそルナも俺の言うことを受けれてくれたと思う。
俺たちの順番が来た。
俺とルナは受付に行き、ルナが椅子に座る。
「いらっしゃいませ、ギルドへようこそ。 どういったご用件でしょうか?」
受付の女の人は、先程のことなど関係なく営業スマイルと定番のフレーズで応対してくれる。
「女、先程も言ったが、これを鑑定しろ」
ルナがそう言って魔石を取り出した。
俺は魔石に注目。
ピピ・・レベル40:ミノタウロス。
「ブフォ・・ゴホゴホ・・ちょ、ちょっとルナさん」
俺は焦ってしまった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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