30 疑惑
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しばらくすると、フォルセティが部屋に現れた。
「神官長マグニ様、お久ぶりでございます」
フォルセティは深々と頭を下げていた。
マグニはそれを見ながら、鼻で笑う。
「フッ、フォルセティよ。 お疲れでしたね。 いったいどのような火急の用で来たのでしょうか?」
マグニは言う。
「はい。 ブレイザブリクより来た神殿騎士、夜の王の使徒と龍神族の眷属でしたか・・彼らがイザベルのダンジョンへ向かい行方不明になっておりました。 すると突然イザベルに帰って参りまして、その報告に伺ったのです」
フォルセティは真剣な顔をして言う。
マグニは内心思っていた。
この男、なるほど情報を集めようというわけか。
小賢しい真似を。
だが、フォルセティよ、お前の思い通りにはなることはない。
「フォルセティよ、わざわざの報告ありがとう。 私の聞いたところでは、魔術都市に向かったとか・・」
マグニは自分を完全に制御している。
フォルセティに不審がられることはない。
「はい、おっしゃる通りです。 私が勧めてみました。 かの都市にはあの3巨頭の神殿騎士がおります。 何かしらの情報が得られるかもしれないと思いました」
フォルセティは言う。
「なるほど、それは良い判断です。 ですが、なぜ魔術都市を勧めたのです? 武装都市でもよかったではありませんか?」
マグニは聞いてみた。
「は、はぁ・・ただ何となくですが・・」
フォルセティは曖昧に答えていた。
「ところでフォルセティよ。 魔術都市に行く途中に、2つの大魔法陣の柱がありましたね」
「はい、その通りです。 それがどうかしましたか?」
フォルセティが不思議そうな顔で答える。
「うむ。 その場所に光の巫女の痕跡はなかったですか?」
「はぁ・・柱にはそれぞれガーディアンを設置しておりますし、誰も近づくものはいないかと・・マグニ様もご存知のはずです」
「えぇ、知っております。 ただ、と眷属の彼らが行く可能性がないのか心配になったものですからね」
マグニはそう答えながら、思っていた。
この男、ぬけぬけと話す奴だ。
お前が神殿騎士と結託して魔素を集めようとしているのではないのか。
「そうですね・・あの神殿騎士たちでしたら、柱には近寄れるかもしれませんね。 ただ、ガーディアンを倒すのは無理だと思います。 何せゴーレムですから」
フォルセティは普通に答える。
「ところでフォルセティよ。 魔術都市の3巨頭の大魔術師たちですが、何か変わった情報は得ていませんか?」
マグニは聞く。
「変わったこと・・ですか。 う~ん・・特に聞いておりませんが、先程から何か私にはよく理解しかねるお話のようですが、いかがされましたか?」
フォルセティが言う。
「ふぅ・・フォルセティよ。 先ほど一つの情報を得ました。 イザベルの神官の誰かが、夜の王の使徒と龍神族の眷属を利用して、魔素の独占を計画しているのではないかというものです」
マグニは真剣な目でフォルセティを見つめる。
「ま、まさか・・いったい誰がそんな大それたことを・・」
フォルセティは一生懸命に考えていた。
ドアをノックする音が聞こえる。
マグニとフォルセティの会話が中断し、ドアの方を向く。
「失礼します。 マグニ様、ご報告が・・」
先程来た男と違った男が入って来た。
かなりがっちりとした身体の男だ。
マグニの耳元で何やら話している。
マグニは大きくうなずきながら聞いていた。
がっちりとした男は、報告が終わると部屋を出て行く。
マグニがフォルセティを改めて見つめる。
「フォルセティよ。 今の報告を聞いて私は驚きました」
フォルセティは無言でマグニを見る。
「イザベルの神殿の地下空洞・・確か魔法陣がありましたね」
マグニが言う。
「・・は、はい。 おっしゃる通りです」
「フォルセティ・・その地下空洞への通路は、神殿のあなたの部屋を通過しなければ行けない仕組みになっていましたね」
「えぇ、おっしゃる通りです。 私が就任した時には既にそういう仕組みになっておりました」
マグニが少し悲しそうな顔を向け、フォルセティを見る。
「フォルセティよ。 お前がこちらに来たときにイザベルを調べさせていました。 残念ですよ」
フォルセティは口を半開きにして呆けているような感じだ。
「・・神官長・・いったい何を言っておられるのでしょう?」
「フォルセティ・・神殿の地下空洞ですが、何ものかにきれいに要石が破壊されていたそうです。 あの要石を用意し直すのにどれくらいの時間が必要か・・」
マグニは頭を横にゆっくりと振りながら落胆する。
「な・・そんなバカな。 誰も私の部屋に入っておりませんし、私の許可なく地下空洞へ行くことはできません」
フォルセティは明らかに動揺している。
「ま、まさか・・マグニ様は、私を疑っておられるのでしょうか? あ・・先ほどからの妙な違和感は・・」
フォルセティはその場で思わず立ち上がる。
ひとえに誠意を伝えようとしてのことだった。
だが、マグニには威圧的に感じたようだ。
すぐにドアが開き、先程のガタイの良い男が入って来た。
そして、サッとフォルセティの前に来る。
「マ、マグニ様。 私は神殿のために動ていおります。 決して裏切るようなことはいたしません」
フォルセティが抗えば抗うほど、危害を加えるような行動に見える。
「フォルセティを捉えなさい」
マグニが言うと、ガタイの良い男がフォルセティの肩に触れた。
「き、貴様、一般神職の分際で無礼ではないか!」
フォルセティはそう言いながら、ついつい魔法を放ってしまった。
ガタイの良い男を炎が包む。
それを見ていたマグニが言う。
「フォルセティ・・本性を現したな」
!
「ち、違うのです、マグニ様。 この者が無礼にも私に触れたために・・」
フォルセティが弁明を試みつつ、マグニの方へ歩いて行こうとする。
炎に包まれた男は、その燃えている身体のままフォルセティを掴み直す。
すぐに炎が消え、身体から湯気のようなものが出ていた。
「む、無傷だと・・」
フォルセティが驚いていた。
「フォルセティよ、その者は元神殿騎士なのだ。 魔法は効かない」
マグニがそう言うが早いか、フォルセティの右腕を後ろに捻じり上げていた。
「うぐぅ・・」
フォルセティがうめき声をあげる。
「とりあえず、独房室へ連れて行きなさい」
マグニがそう言うと、ガタイの良い男は乱暴にフォルセティを引きずっていく。
「マ、マグニ様ぁ~! 私ではありません。 マグニさまぁ・・」
・・・
声がしばらくの間聞こえていたが、聞こえなくなった。
しかし、まさか本当にフォルセティが関与しているとは思ってもみませんでした。
これは他の都市との関連も調べなければいけませんね。
フォルセティだけの単独犯行にしては、規模が違い過ぎます。
いったいどれだけの神殿が反旗を翻しているのでしょうか。
マグニはフォルセティが連れて行かれたドアを見つめながら考えていた。
だが、魔術都市のあの大魔法使いたちは信頼に値するべき人物。
問題はないでしょう。
マグニは大きくうなずいていた。
◇◇
<魔術都市>
魔術都市には3巨頭と呼ばれる大魔法使いがいる。
ドウブ(♂)、インパ(♀)、シーナ(♀)と呼ばれる人物だ。
「聞いたか、インパよ」
「うむ。 イザベルの神官長フォルセティが反旗を翻したそうだな」
「フッ、バカな男だ」
ドーブが鼻で笑う。
「インパ、そう言ってやるな。 むしろ我らにとっては好都合ではないか」
「ドーブ・・滅多なことは口にするものではない」
インパが言う。
「そうだったな。 まぁ見方によってはフォルセティがおとりになってくれたと思えばよいな」
「あぁ、全くだ。 だが、不確かながらイザベルの魔素の循環が良くなったという話もあるぞ」
「ドーブよ、それは本当か?」
「いや、不確かな情報だ。 ただ、ダンジョンなどの魔物のレベルが変化したというのは事実のようだ」
ドーブが静かに言う。
「ふむ・・まさかダンジョンを攻略したものが存在するのか?」
「あはは・・インパよ。 そんなものがいれば、それは人間ではないぞ。 我らでも30階層に到達できるかできないかわからない」
シーナは笑いながら言う。
「後、イザベルから神殿騎士が魔術都市に来ているというぞ」
インパが話す。
「うむ。 それは聞いている。 インパ、興味があるのか?」
ドーブがそう聞くと、インパは微笑んでいた。
◇◇
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