28 魔法陣
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
感謝です。
ルナが立ちあがり、若い男のところへ近づく。
そして、神官長にしたように片手をかざす。
「チャーム!」
続けてルナが俺に言う。
「さて・・これで準備は整った。 テツよ、この者に動いてもらおう」
「どういうことですか?」
いったい何をしようとしているのか、俺にはわからなかった。
ただ、チャームをかけたのは、情報を引き出すためというのはわかる。
ルナが若い男の方を見つめ、
「お前は、この神官長の悪だくみに気づき、それを報告するためにブレイザブリクの神殿に行く。 イザベルの神官長が神殿騎士を利用してすべてを自分のものにしようとしていると言うのだ。 さぁ行け」
「はい! ルナ様」
ルナがそう言うと、若い男は喜んでうなずき、部屋から出て行った。
今度は神官長の前に行きソファに座る。
「さて、お主に聞きたい。 魔素をコントロールしようとしている場所はどこだ?」
「はい、ルナ様。 この神殿の地下に空洞がございます。 そこで魔法陣をコントロールをしております」
「うむ。 次にその魔素を使ってどういったことを行うつもりだ」
「はい、ルナ様。 神殿に魔法を付与し、世界の神殿で大きな魔法陣を完成させる予定です。 後1棟の神殿が完成すれば、6つの柱が完成し、大魔法陣が完成する予定です。 その時にコントロールをしている魔素を放出する計画です」
「ふむ・・それで?」
「はい、ルナ様。 その魔法陣を持ってこの世界の結界を破り、我ら神官たちが地上へと降臨致します。 地上の神の誕生です」
・・・
・・
後、ルナがいろいろと聞いていたが、俺は聞いていてバカかと思った。
どの時代、どの世界も、権力を長いこと持っているとロクなことを考えないのだな。
暇なのか?
みんなのためじゃなく、自分たちのために他の生命が存在すると考えてしまうのだろうか?
「テツよ、終わったぞ」
ルナが微笑みながら俺に言う。
「ルナさん、お疲れ様でした」
俺はあまりにバカバカしい子供の夢物語を聞かされて、正直しんどかった。
それをルナは丁寧に事情聴取していた。
それも相手の本心から出る言葉で。
俺は横で居てこれだけ疲れたのだ。
ルナは相当疲れたんじゃないか?
そう思い、労いの言葉が自然と出た。
・・・
「うむ。 しかし、魔法陣で魔素をコントロールするなどと・・愚かな。 できそうに思えるところが怖いところだな。 確かに、魔法などを行使するときには、魔素は意思通りに反応する。 それに、少しくらい自分の規模を超えても反応する。 だが、これだけの大きな魔素をコントロールしようとすると、自分が魔素に喰われているのがわからないとみえる」
ルナが悲しそうな目を一瞬したような気がした。
「さて、得るべき情報も得た。 しばらくはこの神官長には眠っていてもらおう」
「どうするのです?」
俺は聞いてみた。
「うむ。 ワシらが仕事を終えるまで動いてもらっては困るからな」
ルナはそういうと、神官長を椅子に座らせて言う。
「フォルセティよ、ワシらが帰って来るまでここで待っていろ」
「はい、ルナ様」
神官長はそう答え、部屋の本棚のところを移動させ、隠し通路の扉を出した。
ゆっくりと扉を開けてくれる。
俺とルナは、神官長に見送られながら隠し扉に入った。
少し歩くと、エレベーターがある。
小人数しか乗れないようだ。
俺とルナはそれに乗る。
ルナは微笑みながら、エレベーターの操作をする。
神官長に聞いた通りに番号を入力。
すぐに下へ向かって移動が始まった。
それほど振動があるわけではない。
地上の遺跡で動いているのかいないのかわからない、あの黒い乗り物と同じような感覚だった。
1分くらい乗っただろうか。
どうやら停止したようだ。
ルナが先導してくれる。
「テツ、行くぞ」
ルナがそう言って、スタスタと歩いて行く。
ほんのりと壁際には明かりが灯っている。
通路は細い道だったが、前から風が吹いてくる。
そして、通路の先には大きな空間が広がっていた。
俺は思わず言葉を出した。
「おぉ、こんなに広い空洞が地下にあるなんて・・落盤しないのかな?」
まず、そんなことを思ってしまった。
ルナが笑いながら言う。
「フフ・・テツよ、その心配はないぞ。 あれを見ろ」
ルナが指を差し示す。
結構太い大きな柱が見えた。
かなり距離があるようで、鉛筆みたいに見える。
「先ほどの情報では、あの柱が地上までつながっているそうだぞ。 そして、この空洞に展開している魔法陣の中心部分だ」
ルナが説明してくれる。
「さて、ワシは魔法陣を俯瞰してみるか・・」
ルナはそう言うと、背中の翼を広げ、ゆっくりと舞い上がって行く。
俺はそれをただ見ていた。
俺が魔法陣を見ても、何もわかるはずもない。
ルナが空洞の中をスーッと飛行して帰って来る。
俺のところへ着陸。
「お疲れ様でした、ルナさん」
ルナが微笑む。
「うむ。 テツよ、この魔法陣は全然ダメだな」
「え?」
「あの神官長め、本当にこれで発動するつもりだったのか?」
「どういうことです?」
俺は不思議に思った。
「うむ。 この魔法陣は明らかに欠陥している。 このまま発動すれば、街は崩壊するだろう・・いや、待てよ。 むしろ街の住人を生贄にして、大規模魔法を行うつもりだったのか? それにしても、この世界の結界を破るようなものではない。 単に魔力を増幅させるためだけの気がするのだが・・いったい何を考えておるのか・・」
ルナが俺に説明しながら、一人考えていた。
俺は黙って見ている。
うん・・いい。
その考える姿はいいぞ、ルナさん。
めったに見られるシーンじゃないしな。
俺の視線に気づいたのか、ルナが俺を見る。
「なんだテツ? ワシの顔に何かついているのか?」
「い、いえ、別に。 ただ、考え込むルナさんも素敵です」
ルナは笑いながら言う。
「やはり、お主はかわいいのぉ。 さて、こんな未完成というか不具合のある魔法陣はサッサと消去してしまわねばな」
ルナがそういうと、俺にも指示をくれる。
魔法陣の中に、要石となるところがある。
それを破壊すればいいそうだ。
この空洞には8ヵ所あった。
それほど大きなものではないが、プレハブくらいの岩が配置してあった。
パッと見た目には普通の岩が転がっているようにしか見えない。
ルナがいなければわからなかっただろう。
ルナが指先を軽く振る。
要石が緑色の光に包まれる。
「テツ、あの光っている岩を破壊すればいい、頼むぞ。 ワシは休憩じゃ」
「はい!」
俺はそう返事をするとバッと飛び出して移動する。
岩の近くまで来ると、飛燕を抜刀。
縦、横、縦、横・・と、何度か斬りつける。
ズバン・・。
岩がきれいにバラバラになる。
俺は空洞の中を移動して、8個全部の岩をバラバラにした。
ルナのところへ戻って来ると、ルナは目を閉じていた。
どうやら眠っているようだ。
俺はルナの横で座り、ルナの頭を俺の膝枕の上に乗せる。
ま、ルナさんが起きるまでこうしているのも悪くはない。
俺は空洞の中を眺めながら、しばらくそのままでいることにした。
それにしても、この空洞は広いな。
それにひんやりとして気持ちいい。
そんなことを思っていると、どうやら俺も寝ていたらしい。
・・・
・・
俺は目を覚ましてみると、ルナの顔が下から見える。
あれ?
「ルナさん・・」
俺がつぶやくとルナがこちらを向く。
「おぉ、起きたかテツ。 あまりにも気持ちよさそうに寝ていたのでな」
ルナが笑いながら言う。
俺が逆にルナの膝枕の上で寝ていたようだ。
俺は急いで起き上がり、ルナに謝罪。
「す、すみません、ルナさん。 膝枕をしてもらっていたなんて・・ありがとうございます」
「別に謝るほどのことでもあるまい。 そんなに長い時間でもなかったしな」
ルナは気にするでもなく言う。
「さてと、あの柱はそのままでいいだろう。 もし壊せば、神殿周辺が落盤するかもしれない」
ルナがそうつぶやくように言う。
そして、続けて、
「さて、帰るか」
「はい」
俺たちは、また来た道を戻って行った。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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