27 神殿
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
感謝です。
◇
ペトロがテツを見送りながらつぶやく。
「あのテツって人も、大変だな・・」
「そうよね。 お姫様って、どこでもわがままだから・・」
「あれ? ララもお姫様じゃなかったっけ?」
「私は違うの!」
パーティの中のタンク役だろうか、大きな男がつぶやく。
「なんにしても、みんな無事で再会できるのは良いことであるな」
みんながその言葉に、顔をほころばせうなずいていた。
「それよりも気づいた? あのテツって人だけど、剣を持っていたわよ。 剣士かしら?」
ララが言う。
「うん、俺も気になっていたんだが、聞けなかったな。 まさかとは思うが、剣を主体にして戦う人なのかな? 普通は魔法銃で一定距離を取って戦うスタイルが多いんだが・・」
ペトロが言う。
タンク役の男がそれに反応して言う。
「そうであるな。 だが、いないわけではない。 暗殺者などは銃は使わないし、剣を好む人もいることはいる。 ただ、銃の方が有利だが・・」
みんなでうなずきながらテツの背中を見送っていた。
◇
ギルドを出て、俺とルナはフラフラと歩いている。
「テツよ、この街の魔素の流れを先ほど調べてみたのだ。 やはり神殿の辺りで渦を作っている感じだ。 まだまだ問題となるレベルではないが、魔素の暴走が起これば、この街の住人程度では対処できないぞ」
ルナが言う。
「なるほど・・で、結局はどうすればいいのですか?」
俺はそう答える。
というか、何をしていいのかさっぱりわからない。
「お前なぁ・・まぁいい。 水や風の流れを変える人為的な方法があるだろう。 お前の地球などでも水をせき止める装置などがあったはずだ」
「あ、ダムですか?」
「そう、それだ。 そういった自然に反するものを壊せばいい。 おそらく神殿の地下かどこかに魔法陣でもあるのだろう。 それが魔素の流れを変えている。 それに世界全体に及ぶ魔素の滞留・・各神殿が布置となって、大きな魔法陣とも考えられる。 とにかく片っ端から片づけるしかないだろうな」
ルナはさも簡単そうに言う。
「ルナさん・・それって結構面倒な作業のように聞こえますが、大丈夫ですか?」
俺は少し面倒な気持ちになった。
「何を言っているテツ。 いろいろ探す手間が省けたというものだ。 むしろ簡単だぞ。 壊すだけでいいのだからな。 では、行くか」
え?
今からですか?
「ルナさん、今から行くのですか?」
俺は少し驚いた。
「無論だ。 そんなのは・・なんて言ったか、朝飯前だ」
ルナはニヤッとして颯爽と神殿に向かって行く。
俺も遅れずについて行った。
なんか、この人といると不可能なんてないんじゃないのか?
そんな風に感じる。
◇◇
<イザベルの神殿>
神官長のところに報告に来ていた男と会話をしていた。
「・・そうなんです、神官長様。 あの二人がふらりと街に戻って来たのです」
「ふむ。 いったいどこに行っていたのでしょう?」
「はい、不確かな情報ですが、どうも転移石を使って移動していたとか・・」
若い男がおそるおそる報告をしている。
「なるほど・・ダンジョンから転移した時に、どこか違う場所に転移させられたというわけですか・・」
「はい、おそらくは・・」
神官長と若い男は都合よく理解しようとしていた。
神官長は少し考えている。
確かに転移石を使うと、ダンジョンから脱出は可能だ。
だが、明確な場所指定は、余程のイメージコントロールがなければできないだろう。
しかし、どこで転移石を手に入れたのだろう・・いや、ダンジョンの中でどこかのパーティから譲り受けたのかもしれない。
・・・
神官長はそんなことを考えていると、部屋の扉がノックされ、違う男が入って来た。
「失礼します、神官長様」
神官長は入って来た男の方を向き、失礼な奴だなという目つきで見る。
「いきなりなんですか?」
「も、申し訳ありません。 ですが、急ぎの報告です。 ギルドを出た例の二人ですが、こちらに向かって来ております」
神官長は別に焦る風でもなく、落ち着いて答える。
「別に急ぐほどのことでもありませんよ。 彼らは神殿騎士なのですから、神殿に立ち寄るのは自然なことではありませんか。 お茶の用意を頼みます」
若い男は、神官長の言葉を聞いているうちに落ち着いてきたようだ。
「ハッ! わかりました」
若い男はそう返事をすると、部屋を出て行く。
「さて、いったいどんな情報を持って帰って来たのでしょう? さて、私たちもお迎えの準備をしなければいけませんね」
神官長はゆっくりと窓の外へ視線を移動させた。
◇◇
俺とルナはイザベルの神殿へと向かっていた。
神殿の入口に到着。
神殿の中へ入ろうとすると、ノートが迎えに来てくれた。
「これは神殿騎士様、お帰りなさいませ」
ノートは微笑みながら近づいて来る。
・・・
俺の目線は、ノートの胸にロックオン。
一歩足を運ぶたびに揺れる胸。
思いっきり掴みたい!
俺の妄想が駆け巡る。
がっつりと掴んで持ち上げてみたい。
前から後ろからと・・くぅ・・たまらん!!
ノートが変な顔をして、ルナに話しかけている。
「ルナ様、従者の方ですが、どこか調子が悪いのでしょうか?」
「さぁ、わからんな」
そんな会話をしていると、奥から神官長が現れた。
「お帰りなさいませ、神殿騎士様」
神官長は深々と頭を下げる。
俺も正気に戻っていた。
「何か、光の巫女様に関わることがおわかりになりましたか?」
神官長が聞く。
「うむ。 いろいろとわかったぞ。 まずは声が漏れないところで話したいものだな」
ルナが言う。
神官長は少し驚いたようだった。
「そ、そうですか。 わかりました。 どうぞこちらへ」
神官長が俺たちを案内してくれる。
どうやら応接室のようなところへ連れて行ってくれた。
俺たちと神官長の3人で部屋に入る。
神官長が大きなソファに腰かける。
俺たちも向き合って座った。
ん?
誰かいる・・俺はそう思ったが、黙ってそのまま神官長を見る。
念話でルナにメッセージを送ってみた。
『ルナさん、この部屋ですが、俺たちと神官長の他にもう一人いますね』
『うむ。 わかっている。 まぁ見ておれ』
ルナはそういうとそのまま神官長に話し出した。
「神官長よ、光の巫女のことだがな・・結論から言えば、所在は不明だ」
「は? 不明と申しますと・・」
神官長は意表を突かれたような感じだ。
「言葉の通りだ。 それよりも、お主に聞きたいことがある」
神官長の目が少し真剣な目つきになってルナを見る。
「私に聞きたいことですか?」
「そうだ。 お主、自然界の魔素をコントロールしようとしているのではあるまいな」
ルナがそういった。
俺は驚いてルナの横顔を見つめる。
・・美人だ。
だが、それどころではない。
いったいいきなり何を言い出すんだと俺は思っていた。
「な・・こ、これはいったい何をおっしゃっているのか、私にはわかりませんが・・」
神官長は明らかに焦っている。
「作らなくてもよい。 ワシには魔素の流れがわかるのだ。 この神殿で大きな渦を作っている。 このままでは魔素が暴走して、生き物が飲み込まれるぞ」
ルナは淡々と言う。
「し、神殿騎士様・・もし仮に私どもがそのようなことをして、いったい何のメリットがあるというのでしょう」
神官長はギリギリのようだ。
「まぁ、正直に言いたくないのならばそれもよい。 だが、本当に街自体を滅ぼすことになるぞ」
ルナが重ねて言う。
「神殿騎士様・・恐れながら申し上げます。 本当に私には何をおっしゃっているのか・・」
神官長がそこまで話した時だ。
ルナが片手を神官長にかざす。
「チャーム!」
そして続けて言う。
「そこに隠れている者、ここまで出て来るがよかろう」
ルナがそう言うと、奥の壁際からうっすらと形を成して、若い男が現れた。
神官長はボォーッとしたままだ。
「男、こちらに来い」
ルナが言う。
若い男はゆっくりと足を動かしながら近づいて来る。
俺たちの手前3メートルくらいになった時だろうか。
いきなり懐から銃を取り出して、俺たちに向けて発砲しようとした。
俺が瞬間的動いて、男から銃と取り上げる。
若い男は、銃を取り上げられたのもわからず、そのまま指を動かしていた。
人差し指が引き金を引く動作を繰り返している。
「ん? え? あ、あれ? じゅ、銃はどこだ?」
若い男は軽く首を動かして、自分の手を見て辺りを見渡していた。
俺が銃を持って、男の横に立っている。
!!
「な、バカな・・」
若い男がそういいながらつぶやく。
「いつの間に・・そこに座っていたはずなのに・・」
足は後ずさろうとしていた。
「おっと、動かない方がいい」
俺はそう言って、飛燕を抜刀することなく、そのまま若い男の背中に当てる。
若い男はビクッとなっていた。
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