25 それぞれの里を後にして
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
感謝です。
「ルナさん、これってやり過ぎじゃないですか?」
俺が少し困ったような顔で言うと、
「知らん」
ルナは軽く言う。
おい、あんたが言ったんだろ!
というか、この女の言う通りにしていると、なんか危ういな。
でも、それ以外に方法がないし・・。
俺は少し考えてしまった。
「もはやこれで、問題は解決したのと同じですわね」
フリッグがニコニコしながら言う。
「ルナ様、テツ様。 私たちは何もできませんが、よろしくお願いします」
フリッグが改めて頭を下げる。
「い、いや、フリッグさん。 別にいいですよ。 俺たちは本当に地上へ帰れればいいだけですから」
フリッグがうなずきながら、いろいろと話して来る。
「ルナ様、テツ様。 この世界でヘルヘイム様、ヴァヴェル様、そしてこの精霊の里を訪れられたということは、後は人種のいる地域のみになります。 その中で魔素の滞りをほぐしていただければ、問題は解決いたします。 この世界も安泰でしょう・・」
・・・・
・・
人の世界には、神殿国家という大きな国が存在していること。
国と認定されている農業や漁業などの国、魔法を基礎としている魔術国家、武器や生活用品などを技術力で作ることを基本とし、補助的に魔法を使う武装国家とがあること。
そして、都市国家をつなぐ交易の街は多数存在するという。
また、エルフなどは基本、精霊族の領域で生活していること。
もし人種の街で見かけたら、保護して欲しいとも言われた。
愛玩動物か奴隷として扱われているだろうという。
・・・
・・
そんなことをいろいろと教えてくれた。
「ルナ様、テツ様。 もしヴァヴェル様のところへお帰りなら、私が送らせていただきますが、いかがされますか?」
情報も集まり、俺達に特に用はない。
それにこの自然の中でいても、何もすることもない。
ただ、ボォーッと過ごすにはいいところだ。
休息にはなる。
だが、今はそんな時ではない。
フリッグがそう言ってくれるので、俺はルナを見て聞いてみる。
「ルナさん、ああ言ってくれてますが、どうします?」
「そんなの決まっておろう。 楽なのに越したことはない」
ルナは軽く答える。
「では、フリッグさん。 よろしくお願いします」
フリッグが早速送ってくれようとする。
・・・
なんか複雑だな。
俺たちって、単なるコマなのか?
まぁいい。
フリッグが片手を挙げると、俺たちの前に緑色の縁を持つ楕円形の黒く光る影が現れた。
「このゲートでヴァヴェル様の居城入り口につながっております。 我々の身勝手な願いですが、どうぞこの世界をよろしくお願いします」
フリッグがそう言って見送ってくれた。
俺とルナは黒く光る影に入って行く。
入ったと思ったら、本当にヴァヴェルの居城の前に現れた。
俺たちが通過すると、すぐにゲートは消えていた。
◇◇
<フリッグたち>
「精霊王様、あの者たちを信用してよろしいのですか?」
エルフが聞く。
「問題ないでしょう。 あのルナ様の眷属の方と人ならざる力を持った方・・人として信用できる方々でした。 我々にできることは祈ることだけですね」
フリッグは自嘲気味につぶやく。
「精霊王様・・」
エルフはフリッグを見つめている。
◇
<ヴァヴェルの居城>
俺とルナはヴァヴェルの居城の入口に来ていた。
扉を開けて入って行く。
ルナが相変わらずマイペースで広い通路を歩いて行くと、奥の方からヴァヴェルが歩いてきた。
ヴァヴェルが微笑みながらルナと俺に挨拶してくる。
「どうでしたか、精霊族は?」
「ま、あんなものだろう」
ルナが素っ気なく答える。
ヴァヴェルは苦笑していた。
「ルナ様、テツ様、これからどうされるおつもりですか?」
ヴァヴェルが聞いてきた。
「うむ。 テツどうする?」
「え?」
ルナがいきなり俺に振って来た。
無茶振りだろう。
俺は答えを用意していなかったが、少し考えて答える。
「う~ん・・そうですね、早速人の街にでも戻って情報を集めて行動したいですね」
俺がそう答えると、ヴァヴェルが喜んでいた。
「そうですか、ありがとうございます。 テツ様は本当に行動が早い方ですね。 感謝いたします。 では早速ですが、私がヘルヘイムのところまで送らせていただきますが、いかがいたしますか?」
ヴァヴェルが聞いて来る。
ルナはうんうんとうなずいている。
「そうですか、では遠慮なく頼みます。 よろしくお願いします」
俺がそう答えるが早いか、すぐにヴァヴェルがゲートを作っていた。
赤い縁を持ったゲートだった。
フリッグのところと同じようなものだ。
「よろしくお願いします」
ヴァヴェルがそう言って見送ってくれる。
俺とルナはゲートを潜る。
俺たちはヘルヘイムの居城の前に出ていた。
俺たちが現れると、すぐに居城の入口が開き、中から髭をたくわえた執事長とメイドが現れた。
走ることはないが、急ぎ足で俺たちの方へ近づいて来る。
「これはこれは、お帰りなさいませ。 我が主のところまでご案内いたします」
執事長とメイドが丁寧に挨拶をして、俺たちを案内してくれる。
執事長は理想的な歩き方をしている。
こんな世界になるまでは、俺は一応整体業を行っていた。
ある程度の顧客もあった。
そんな中、俺は歩き方の姿勢、立腰、食事などにこだわっていて、自分で実践しながらそれなりの成果を得ていた。
そんな俺が見る目で執事長を見る。
俺よりも年齢は上だろう。
だが、背筋が自然に伸びている。
顎引いて、スッスッと歩いて行く。
軽い感じで歩くが、足取りはしっかりしている。
一言、品を感じさせる歩き方だ。
そんな姿を見ながらついて行った。
迎賓室の前まで来ると、執事長がノックをする。
コンコン。
「旦那様、ルナ様とテツ様がお戻りになられました」
「どうぞ」
執事長の言葉に、すぐに返事が帰って来た。
ドアが開かれると、ヘルヘイムがこちらに歩いて来ている。
「ルナ様、テツ様。 どうでしたか、龍神族と精霊族の里は・・」
ヘルヘイムがそう言いながら俺たちを部屋の中へ案内してくれる。
執事長が静かに扉を閉めて行こうとする。
その際に、ヘルヘイムから軽い食事の指示を受けていたようだ。
執事長は扉の閉めるのを少し止め、ゆっくりとヘルヘイムに返答し、また優雅に扉を閉めて行った。
違和感を誰にも感じさせない動きだった。
ヘルヘイムが俺たちに座るように手を差し出す。
ルナは遠慮なく座っている。
俺も椅子に座らせてもらった。
ヘルヘイムが微笑みながら聞いて来る。
「どうでしたか。 良い答えは得られましたか?」
俺が答えようとすると、ルナが先に答える。
「うむ。 思ったよりしんどかったぞ。 だが、とりあえずは魔素の流れを元通りするのが先決のようだ」
俺は口をパクパクさせていた。
そして思った。
嘘つけルナ!
あんた、俺の背中で寝てばっかだろ。
何が疲れただ。
後でわかったのだが、ルナは動かない代わりに意識を集中して辺りの魔素の流れを探っていたようだ。
かなり疲れたという。
そんなことは今の俺にわかるはずもない。
俺は呆れながら、既に言う気力を失っていた。
ヘルヘイムはにっこりとうなずきながら俺の方を見る。
「どうかされましたか、テツ様」
「い、いえ、何でもありません。 ただルナさんと同じで、魔素の流れを元通りにすることが大事だと考えていました」
俺は取りあえず、同じように答える。
ヘルヘイムも大きくうなずく。
そして、扉の方を向くと、ゆっくりと扉が開かれて、執事長とメイドが食事を運んできていた。
「これは軽いものですが、旅でお疲れでしょう。 ゆっくりと食事でもして、今日はくつろいでくださいませ」
ヘルヘイムがそういうと、俺たちの前に食事が運ばれてくる。
軽い食事と言っていたが、俺にはごちそうだ。
肉の照り焼きのようなもの。
色どり鮮やかなサラダ、いい匂いのするスープ。
後はカルツォーネのようなピタパンのようなものに、美味しそうな具材が詰め込まれたものが皿に乗っていた。
今までの疲れが一気に吹き飛んだ感じだった。
美味しくいただく。
・・・・
・・
ヘルヘイムのところでゆっくりとくつろぐことができた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
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